…どうしよう。
今日も平和に学校が終わり、夕飯を食べお風呂にも入った後。寝るにはまだ少し早いので出されていた宿題をやろうと思って鞄を開けたところまでは良かったのだが。
…宿題、学校に置いてきちゃった!



「…不気味だね、さすがに」
「はぁ…なんでよりにもよって提出が明日なんだよ…」

宿題を忘れてどうしようと思っていたとき、タイミングよく綱吉くんから電話がかかってきたのだ。
綱吉くんも同じく宿題を置いてきてしまったそうで、明日の朝私に見せてもらえるかと電話してくれたみたいだが残念、私も学校にある。
ということで、二人で夜の不気味な学校にきているわけである。

「どうせなら獄寺くんとか山本くんとかも一緒にきたほうが良かったかな…」
「え、いや二人でいいよ!」
「?そ、そう?たくさんいたほうが怖くないかなって思ったんだけど」
「あ、うん…そうだけど、それはそうなんだけど…!、これでいい!」

何を真っ赤な顔して必死になってるんだろう綱吉くん。



校舎の中に入るがもう本当に何も見えない。閉まっていた門を超えて入ってきたから電気をつけるわけにもいかず、私たちの頼りはこの懐中電灯だけだ。
懐中電灯を持っている綱吉くんの少し後ろをついていくように歩いた。

「だ、大丈夫亜衣?足元、気をつけてね、?」
「う、うん…」
「えっと…あの、こ、転ばないように、オレの服、掴んでいいからね?」

二人とも恐怖のせいで声が震えている。確かにこれは前の綱吉くんを見失ったら明かりを持っていない私は絶望しかない。
転ばないためでもあるが、はぐれないようにという意味でここは素直に甘えたほうがいいかもしれない。きゅぅっと綱吉くんの服の裾を掴んだ。

「!…つ、掴んだの?」
「あ、…ごめん。掴んでいいっていったから、…はぐれないようにと思って」
「う、ううん!そ、そのままで、いいよ」

まさか自分がこんなことをするとは思ってもみなかった。状況が状況といえど、やっぱりこれ、恥ずかしい…。
恐怖で声が震えるのと同時に、また違った意味でも声が震えた。


おそるおそるといった歩みでやっと着いた教室。昼間のときはなんとも思わないのに、夜ってだけでただの教室が一気に恐怖の対象になるから不思議だ。
私の宿題は机に入っている。綱吉くんもそうらしいので、じゃあ入ろうかということで教室のドアをガラガラと開け、

「うわああああっ!?」
「いやああああっ!!」

弾かれたように教室から離れ一目散に廊下を走った。



しばらく走ったところで私たちは足を止めた。久しぶりにあんなに全力疾走をした気がする。息が苦しくて、呼吸を整えるのがやっとだ。

「…は、ぁ、…っ亜衣、今の、見た…!?」
「み、見てない…!嘘だ!あれは幻だ幻だ幻だ…」
「落ち着いて!?」

絶対あんなの幻に決まってる!だって、教室のドア開けた瞬間入り口に立っていたのは眼球やら脳などがむき出しになった人…今思えば人体模型だったかもしれないが、なんであんなものが教室にいるのさ!

「寿命が100年縮んだ…」
「寿命ながっ!」
「…どうしよう綱吉くん。逃げて来ちゃったけど、宿題はあの教室だし…」
「う、うーん…、いく、しかないのかなー…」

正直行きたくない。というかここまでくると宿題なんてもうどうでもよかった。怒られるのも確かに嫌だけど、こんな恐怖体験を味わってまで避けたいものでもないし!
ただ、ここで逃げたらなんか負けた気がする。自分はこんなに負けず嫌いだったのかと疑問に思うくらいだった。


再び挑戦ということでやってきた教室。今度は後ろの扉を開けて入ろうということになり、またおそるおそるドアを開けてみる。

「…なにも、ないね?」
「うん…でもさ、何もなさすぎ、じゃない?」

さっきまでドアの前にあった人体模型らしきもの。後ろのドアから入り前のドア付近をみるが、そんなものはどこにもなかった。
本当に幻…?でも綱吉くんも同じもの見たっていうし。
嫌な考えが頭に浮かぶ中、私たちはそれぞれの机から宿題のプリントを取り、目的を果たした。あとは帰るだけだ。

「…廊下、誰かいる?」

教室には特に変わった様子はなかったので、綱吉くんに廊下の様子を見てもらった。

「ううん、特には」
「そっか…。なんか、余計怖いよね。なんだったんだろうさっきの」
「怖すぎて幻覚を見たとか…?」
「二人して?」
「…うーん…」

だめだ、考えれば考えるほど怖くなってきた!もうあれは夢だと思うしか…。
とにかく宿題は取ってこれたので私たちはさっさと帰ることにした。1秒でも早く帰りたい!
そんなことを思いながら廊下を歩いていたときだった。

「…ねぇ綱吉くん、…何か聞こえない?足音、みたいな」
「…うん、聞こえる」

私たちの後ろからひたひたと裸足で歩いているような音が聞こえてくるのだ。冷たい廊下をペタ、ペタっと。
決して速くはないその音が余計に不気味さを醸し出している。振り向きたくない、でも確認しないことには気になってしょうがない。
私と綱吉くんはせーので振り向くことにした。掛け声とともにバッと後ろを振り向くと、さっき見たものと同じ、人体模型がすぐ目の前まで迫ってきていたのだ。
驚きすぎて声が出ない。気味の悪いものがこんなに近くにいるのに恐怖のせいか、目をそらすことができない。
ただ口をパクパクさせることしかできない私の手を掴んだのと、私が振り返ったのはほぼ同時だった。

「逃げよう亜衣!」
「、ぁ…っ」

綱吉くんは私の手を握り、そのまま引っ張るように廊下を駆け出した。ろくに返事もできなかったが、私もなんとか無理やり足を動かす。
走ってる間後ろを振り返って見たが、何も追ってはこなかった。



「はぁ…今日はなんだかたくさん走ったよ。亜衣、大丈夫?」

学校から一目散に逃げて住宅街まできたあたりで一旦足を止めた。私も綱吉くんも相当疲れたため、ちょっと一休み中だ。
綱吉くんの質問にコクリと頷く。恐怖心はまだ完全に消えたわけじゃないが、それよりも今はちょっとそれどころじゃない。

…手、繋がれたままだ。逃げるためとはいえとっさに手を掴んできたときはかなり驚いた。
綱吉くんには悪いが、あんな風に先頭を切って走り出すイメージはなかったからだ。でも、そうやって自分から手を引っ張ってくれたのは嬉しかった。それと同時にすごく恥ずかしくもある。
手の大きさは私とそうは変わらない。まあまだ中学生だし、綱吉くんは小柄な方だ。
でも、少しだけど骨張っているところは私とは違う。そしてじんわりと伝わる手の暖かさも、やっぱり男の子なんだなと実感できるのだ。

「…亜衣、本当に大丈夫?オレも怖かったけどさ」
「へ、平気…!」
「そう?…でも、顔が赤い気が…」

えええ綱吉くん、自分が今手握ってること忘れてる!?綱吉くんの反応に驚いた私は反射的にぎゅっと手を握り返してしまったが、それでようやく本人は自分の行動に気が付いたみたいだ。

「あ、ご、ごめん!オレ…夢中で走ってて…!」
「う、ううん全然!…私、足動かなかったから、引っ張ってくれて助かった。ありがとう」

お礼をいうと、綱吉くんはまた顔が赤くなった。恥ずかしがり屋なのか慣れてないのかはわからないけど、そういう反応をされるとこっちも照れてしまうわけで。
二人して道の真ん中で真っ赤な顔してるってすごく変だと思った。

「それにしても、あの人体模型なんだったんだろう…」
「…先祖の霊とか?」
「模型に先祖とかいるの!?」

きっとあれは初代使われていた人体模型で…なんて馬鹿なことを考えていると、ふいに肩を誰かに叩かれた。誰だろうと思って振り向いたのが間違いだった。

「…な、んで…」

人体模型がいる。え、?嘘、なんで?追いかけてきた…?
二度目ということもあり今度は足が動くようなので、一歩ずつじりじりと後ろに下がりながら綱吉くんと一緒に逃げ出そうと走り出した瞬間だった。

「待ってください10代目!」

聞こえてきたのは何故か獄寺くんの声。え、っと思って振り返ると、頭の部分をスポッととって現れたのは獄寺くんの顔で…。

「え、ご、獄寺くん!?な、なんで!?」
「すみません驚かせてしまって!…実は、リボーンさんに…」

獄寺くんの話によると、私たちが夜に学校にいくと聞いたリボーンくんがこの恐怖体験を提案したそうだ。
獄寺くんにも手伝ってもらい、彼が人体模型の着ぐるみに入って私たちを驚かそうとしたらしい。


「なかなか楽しかっただろ?」
「リボーン!」

ニヒルに笑うリボーンくんの顔はイタズラが成功して大満足しているような顔にも見える。

「楽しいわけないだろ!?獄寺くんにまで迷惑かけて!なんでこんなお化け屋敷みたいなことしたんだよ?」
「ボンゴレのボスが幽霊怖いなんて格好つかねーだろ。これも修業だと思え」
「バカ言え!心臓止まるかと思ったよ!」
「まあ約8割はオレの好奇心だがな」
「ほとんど全部じゃん!」

綱吉くんとリボーンくんが言い合いをしている中、私はホッとしていた。そっか、実際はすごく怖かったけどふたを開けてみたらただのドッキリだったんだ。本物じゃなくてよかったー!

「亜衣」
「ん?何、リボーンくん」
「どうだ?オレの修業は」

リボーンくんの修業。ちょっと無茶な感じもするが、恐怖で動けない私を綱吉くんは引っ張って一緒に逃げてくれた。
彼が誰かを見捨てるなんてことは無いと思うけど、それでも自分も怖かったはずなのに率先して助けてくれたのは嬉しかった。

「綱吉くんが引っ張ってくれたから、私は助かったよ」
「亜衣もこういってるぞツナ。終わりよければ全て良しっていうだろ」
「おまえがいうな!」


「綱吉くん」
「、え?な、何?」
「さっきは本当にありがとう。ここまで引っ張ってくれて」
「あ、…うん!えっと、痛くなかった?無理やり引っ張っちゃった気がして」
「ううん大丈夫。助かったし、綱吉くんすごく、…」

かっこよかった。

「…"すごく"?」
「あ…っ!な、なんでもありません!」

な、何を口走ろうとしたんだ私!危ない!ギリギリセーフ!私は深呼吸して火照った頬をなんとか冷ます。
こんなこと本人に言えるわけがない。ふぅとため息をついたときに、パチリとリボーンくんと目が合った。すると、リボーンくんはニヤリと意地悪そうな笑みを浮かべたのだった。


夜の学校パニック!

「ツナ、今日は大活躍だったんだな」
「え?何が?」
「ボスとしてもだが、男としてもポイントが上がったんじゃねーか?」
「リボーンくんやめてー!」

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