「みーどりーたなーびくーなーみーもーりーのー」

どこからともなく聞こえてくる可愛らしい歌声。今流行りの有名な曲…ではなく、うちの…並盛中の校歌だ。
好んで校歌を歌う人は見たことがないが、この学校にはそれが一人いる。その人物は男性であるためこの歌声の持ち主ではないが、覚えさせたのは間違いなく彼だろう。

「だーいなーくーしょーなくーなーみがーいーいー」

ヒバード。それがこの歌声の持ち主である小鳥だ。そしてこのヒバードとよく一緒にいるのが我らが風紀委員長の雲雀さん。雲雀さんのヒバード…洒落が効いていてなかなかいい名前だと思う。
普段は応接室によくいる。といっても私が雲雀さんに会う機会はそうは無く、たまにコーヒーを淹れてほしいと頼まれたときに行くからそのときに聞いているのだ。

けど今日は私は屋上にいた。天気も良く日向ぼっこするにはちょうどいいと思ったから昼休みにこうやって遊びにきたわけだ。
そんなときにこの歌声が聞こえた。 そしてヒバードと同時にあの人の後ろ姿が目に入る。

「…雲雀さん」

私の声は風によってかき消されてしまったのか、聞こえなかったようでこちらを振り向くことはなかった。
地面に膝を立てて座っているけど、ピクリとも動かないからもしかして寝てるのかな?
するとパタパタと飛び回っていたヒバードが私の方へ飛んできた。びっくりしてその場で固まっていると、私の頭上をしばらく飛んだ後、羽根を動かすのをやめ私の頭の上で落ち着いた。
…えっ!ひ、ヒバードが私の頭に乗ってる!?

ヒバードはたまに会うことはあってもまだ触れたことはない。触ろうとしてもすぐに飛んでいってしまうからだ。でもこれは、チャンスじゃないのかな!
そろりそろりと自分の頭の上に手を持っていく。相手は小動物だ、傷付けないように細心の注意を払わなければならない。
あともう少し、というところでバサっと羽根の音がしたと思ったら頭の上から飛び去ってしまった。ああ〜…。
だがヒバードは私のすぐそばの地面に止まった。…チャンスはまだ終わってない!
抜き足差し足で近付き狙いを定めて手を伸ばす…が、またも惜しいところで逃げられてしまう。うう…、手強い!


その後も何度もチャンスはあったのだが一向に触らせてくれない。悔しい…あとちょっとなのにー!
そしてまた飛んでいたヒバードが止まる。よし、そのまま動かないでよ…!再びおそるおそるとその場所へ歩き出す。ヒバードが目の前まで来たとき、私はゴクリと喉を鳴らした。

「…っここだ!」

手でバッと捕まえようとするが案の定ひらりと避けられてしまった。あー…!おしい、ほんとにあと少しなのに。
でも諦めきれない私はまたヒバードが飛んでいった場所へ歩き出そうとするが、パシッと腕を掴まれてしまったことによってそれは叶わなかった。

「…え?」

掴まれた反動で転びそうになったがなんとか踏みとどまる。視線を後ろに向けると、私の腕を掴みながらゆらりと立ち上がるのはもちろんそこにいた雲雀さん。
私を見る表情は普段とあまり変わらないが、その鋭い眼光と腕を掴む手は絶対に逃がさないと暗示しているかのようだった。
私はわけがわからず目をぱちくりさせたが、なんとなく視線を雲雀さんの頭上へとずらしていく。…あ。

「…ひ、雲雀さん…、髪がくしゃくしゃに…」
「そうだね。誰のせい?」
「…わ、わわ私…?」
「うん、正解」

ご立腹だ。言葉遣いがいつもより丁寧なあたりかなりご立腹なご様子だ。
ヒバードが最後に止まった場所は雲雀さんの頭だった。私はそれに気付かずに夢中で捕まえようとしていたため雲雀さんの髪の毛ごと、わしゃっと掴んでしまったようだ。
あー、だからこんなに髪がくしゃくしゃに…て、言ってる場合じゃない!

「ご、ごごごめんなさいっ!!」

腕を掴まれていようが構わず、獄寺くんもびっくりするくらい直角に頭を下げる。もしこれが山本くんだったら優しいからきっと笑って許してくれただろう。
でも相手が雲雀さんじゃそうはいかない。何されるかわからない。

「…顔あげてよ、見えないでしょ」

その優しい声にビクリとする。これならいつも生徒を蹴散らしているときの強気な口調のほうがマシだ!
私は言われるがままにゆっくりと顔をあげる。いつになったら腕を離してくれるんだろうなんて…きっと無理だ。

「あ、あのっ本当にごめんなさい!髪…、くしゃくしゃにしてしまって…」
「…髪の毛なんてどうでもいいよ。僕が怒ってるのはそこじゃない」

…あれ、違うの?あんな綺麗でさらさらな黒髪をくしゃくしゃにされて、それで怒ってるんだと思ったんだけど。
雲雀さんは私の腕を引き寄せてもう片方の手で顎をぐいっと掴んだ。一瞬で縮まった距離に呼吸がとまる。

「僕の頭を鷲掴みするなんて、いい度胸だよね。何されたいの?」

この場の気温が一気に下がった。近付いたことによって見える綺麗な睫毛とか、切れ長の目とか、髪が乱れたことでより色っぽさが増したこととか、そんなものは即吹き飛んだ。
ああ、そっか…そこに怒ってたんだ。そうだよね、突然頭掴まれたら誰だってびっくりするか怒るかするよね。

これは、殺られる…!確実に咬み殺される…!
これがもし怒られてるわけではなくただ口説かれてるのであればドキドキしただろう。こんな至近距離で雲雀さんの綺麗な顔が目の前にあったら誰だって緊張するはず。
でも、今のこの状況じゃ違う意味でドキドキするよ!冷や汗すごいよ!助けてー!

「…覚悟、してよね」

ああ、終わった…。さよならヒバード…!


優しい怒り方

「…で、できました雲雀さん!」
「遅い、次はこっちの資料ね。目を通したら判子押して」
「こ、この量を…!?」
「お仕置きなんだから当たり前でしょ」
「う…うぅ…」
「……、終わったら冷蔵庫に入ってるケーキ食べていいよ。そのかわりコーヒー淹れてね」
(…なんか、うまく流されているような)

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