「…ということなんだけど、ごめんね。頼めるかな?」

今日も雲ひとつない快晴。お昼休み、友達数人とお弁当を食べているところでその内の一人が私に相談してきた。今日の放課後に美化委員のお仕事があるらしく、彼女がその当番なのだけど、急に家の用事が入ってしまいすぐに帰らなくてはいけなくなったそうだ。
他の子はもちろん部活があるため、帰宅部の私に頼みたいということだ。私は二つ返事で引き受けた。今日はとくに用事はない。授業のノートも合間の時間に書き直したし、今日はもともと書く量も少なかった。リボーンくんから何か言われてることもないし、問題ないかな。



そして放課後。ほとんどの人が部活に行ってしまったあとで私は美化委員のお仕事を開始した。美化委員のお仕事は、植えてある花の世話をしたり掃除したりと、要は学校を綺麗にするための委員会だ。
ただ今日のお仕事は一人でやるものらしく、私以外の当番はいない。その内容とは、各教室にある掃除ロッカーの掃除用具を確認すること。箒やチリトリ、バケツなど色々あるけど一つの教室に置いていい用具の数は決まっているのだ。たまに数が足りなかったり、違う教室のものが紛れていたりするのでそれを正しく直す作業である。
まあこれだけなら一人でもそんなに時間はかからないかな。私はまず一年生の教室から順々に確認していった。


「うーん、足りない」

三年生までの全ての教室のロッカーを調べて約一時間ちょっと。掃除用具が多い教室は少ない教室に移動したりとして調整していったけど明らかに二本箒が足りない。
ここからが憂鬱だった。本来なら足りないものは美化委員担当の教師にいえば発注してもらえるのだが、この学校の場合はなぜか全てのものは風紀委員長に許可をもらわないといけないらしい。
いちいち美化委員担当の教師に確認をとるのがめんどうだったので、私は手っ取り早く応接室に向かった。あの人はいつもあの部屋にいるみたい。私はまだ入ったことないけど。

「…失礼します」

ちゃんとノックしてから入る。部屋は一人で過ごすには十分なほど広く、作業机やテーブル、ソファなどが一通り揃っていた。だが部屋を見渡しても肝心のあの人がいない。…どこかいってるのかな?

「…何してるの」
「ひわ!」

突然真後ろから声がした。慌てて振り向くとそこにはもちろん雲雀さんがいて。思わず変な声出しちゃったよ恥ずかしい!
何となく視線を下に向けたところでピタッと目が止まる。雲雀さんが手にしているのは愛用のトンファーで、若干血がついているような…。だ、誰か咬み殺してきた後…!?
こんな間近でトンファーを持った雲雀さんには出会ったことがなかった。最近では前より話せるくらいにはなったけど、でもやっぱり怖いものは怖いわけで…!
そんなことを考えながらビクビクしていると、軽いため息が聞こえてきた。そしてすぐにトンファーをしまう。

「そんなに怯えなくても何もしないよ。君は群れてないんだから」

どの口が言いますか…!雲雀さんていつどんなときでもいかなる理由でも気に入らなければ咬み殺すって噂ですよ!

「僕に用?」

雲雀さんは部屋の中に入り作業机のほうの椅子に座った。あ、そうだった、怯えてる場合じゃなかった。ちゃんと用件あってここに来たんだから。

「あの、今日の美化委員のお仕事で教室の掃除ロッカーを全て確認したんですけど、」
「…君、美化委員なの?」
「あ、いえ!代理です。美化委員の子が用事でお仕事できなかったので」
「…それで?」
「えっと、足りないところとかを多いところから持って来たりして調整してみたんですけど、箒が2本紛失したのか、足りなかったです」
「…紛失?」

声のトーンが下がった。あ、うわ、機嫌が…!機嫌が悪くなった!

「それどこの教室」
「さ、3-Aと2-Cです…」
「そう。明日僕が直接出向かなきゃね」

制裁を下す気だ!3-Aと2-Cのみなさんごめんなさい!

「…あ、それで!紛失してしまったので箒を二本発注したいんですけど…」
「仕方ないね。いいよ、好きにして」
「ありがとうございます…!」

学校大好きな雲雀さんだから、綺麗にするための道具なら許可を出してもらえるとは薄々思ってた。よかった、結構はやく終わった。あとは担当の教師に連絡するだけだ!
踵を返して応接室から出ようとするが、「ねえ、」と再び話しかけられてしまったところで私の動きは止まる。

「コーヒー淹れて」
「…え?」
「赤ん坊から聞いたんだ。桐野が淹れたコーヒーは美味しいって」

…今名前呼んだ?名前というか苗字だけど。それにしてもリボーンくんがそんなことを。最初はまだまだとか言われてたけど、何度か淹れているうちにコツをつかんだようで、最近はよくリボーンくんに淹れることが多い。気に入ってくれてたのかな…!

私はさっそく給湯室にいき、コーヒーの準備をした。応接室に給湯室あるんだ…、きっと冷蔵庫とかもあるんだろうな。軽く住めちゃう。
いつものやり方でコーヒーを淹れて、雲雀さんのいる作業机にコトリと置く。取手に手をかけゆっくりと持ち上げて口に運ぶその姿は見る人によっては優雅で美しいという人もいるかもしれないが、私はそれどころではなかった。
自分が淹れたコーヒーを雲雀さんが飲むだなんて、不味かったらこれどうなるの…!?トンファーの餌食?その前にコーヒーカップ飛んでくる?
飲んでもいないのに私の方がゴクリと喉を鳴らす。たった数秒のはずなのに何十分もかかっているような感覚だ。は、はやく終われー…!

「…いいんじゃない」
「……、え?」

おそるおそる雲雀さんを見てみると、若干ではあるが口元が緩んでいるように見えた。…あの雲雀さんが、笑ってる?

「…お、美味しいですか?」
「そう言ったでしょ」

わ、分かりづらい…!でもでも!すごく、嬉しい!雲雀さんは口数が少ないからなかなか気持ちがわからないけど、肯定したってことは大丈夫だったんだ…!私はじんわりと胸が熱くなり、自然と顔がほころんだ。

「…何でそんなに笑ってるの」
「だ、だって褒められるってすごい嬉しいですもん!」

笑顔になったままそう返せば、雲雀さんは怪訝な顔をしたまま再びコーヒーカップに口を付けた。


放課後の応接室

「リボーンくんリボーンくん!今日ね、雲雀さんにコーヒーの味褒められた!」
「良かったな。オレが教えたんだから当然だろ」
「さすがですリボーン先生…!」

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