「ちっちきち〜、ボンゴレ式〜獄寺くんのお誕生日をお祝いする会〜」
「…亜衣、どうしたの?」
「冷静だね綱吉くん!」

ちょっとおふざけを入れてみたのに反応が薄かったのがつらいです。
そんなわけで今は綱吉くん家。近々獄寺くんのお誕生日ということで何をしようか考えるために集まっている。ちなみに真っ先にビアンキさんが特性ケーキをつくると言い出したので丁重にお断りしておいた。

「うーん、獄寺くんて確か未知のもの好きだよね?改良とかした10年バズーカを気付かれないように当てて未知の世界へGO!とかどうかな?」
「それ悪質なイジメだよね!?」

ダメか…。それぞれが何をあげようかうんうんと悩んでいる。でもみんな何をあげるのかはだいたい決まったようで眉間のシワはとれてきているのだけど、私だけ何も思いつかない。
どうしよう…、プレゼントが被っちゃうのは避けたいしなあ。



「「「お誕生日おめでとう!」」」
「……、は?」

クラッカーをパァァンと鳴らす音が室内に響いた。ヒラヒラと紙吹雪が落ちる中で獄寺くんはわけがわからないようで目をぱちくりさせている。
時間が過ぎるのは早く、今日はおめでたい獄寺くんの誕生日。いつものように綱吉くんの家…ではなく、なんと建物は小さいがちょっとした会館を借りることができたのでそこにお誕生日用の飾り付けやケーキを用意したのだ。
綱吉くんたちだけでなく、もちろんビアンキさんやハルちゃん、京子ちゃんたちもみんな呼んだ。
リボーンくんの顔が広いのは知ってるけど、まさか場所を借りてくるとは思わなかったのでとても驚いている。…といっても1番驚いているのは獄寺くんのほうだと思うけど。

「…え?じゅ、10代目…お怪我は!?」
「怪我?何のこと?」
「他のファミリーに10代目が襲われてるから助けてっつー連絡が来たんで、オレ急いで飛び出してきたんスけど!」
「オレが襲われてる!?ちょっと亜衣!一体どんな呼び出し方してんだよ!?」
「あーごめん?普通に呼んだんじゃ来ないかと思って…!」

でも綱吉くんがピンチだと知らせれば絶対に飛んでくるだろうと思って割と迷わずこの選択にしたのだ。なかなかいい提案だと思うんだけどなあ。

「…まあいっか。はい、これ獄寺くんに!…何あげたらいいのかわかんなくて、もしもう持ってるものだったら申し訳ないんだけど…」

綱吉くんが渡したのはシルバーアクセサリー。そういえば獄寺くん、いろいろかっこいいの付けてるよね。

「…10代目がオレのために…!一生大切にします!風呂に入る時も寝る時も片時も外しません!」
「それは外して!?錆びちゃうから!」

アクセサリーか…それなら種類がたくさんあるし、かぶるってことは余程のことがない限りあんまりないよね。
綱吉くんに続いてそれぞれ持ってきたものを渡していくと、獄寺くんの周りにはたくさんのプレゼントの山が出来ていった。…これは、持って帰るのが大変のような…。
ちなみにビアンキさんは断ったにも関わらず毒々しい巨大ケーキを作ってきたようで一時あたりはパニックとなった。
一応ゴーグルをしているから獄寺くんが倒れることは無かったものの、お腹の調子は良くないみたいだ。
そしてリボーンくんからのプレゼントは「マフィアたるもの」と書かれた何センチあるんだかわからないくらい分厚い本。あれを読むのかと思ったけど獄寺くんは嬉しそうだった。…基準がわからない!

みんなが渡し終わったところでさあどうしようと悩む。もちろんプレゼントは用意しているのだけど私の場合は物じゃない。
男の人にプレゼントなんてお父さん以外あんまりあげたことがなくて、本当に何をあげたらいいのかわからなかった。
だからリボーンくんとかビアンキさんとか獄寺くんに近い人たちに色々聞いて決めたのがこの結果なのだ。
私はとある一枚の紙をカバンから取り出すとそれを持って目的の場所へと向かう。重い蓋をあけ、その紙を前に起き、私は椅子に座って目の前の白く塗装されたものを押すと、綺麗な音があたりを包んだ。

「…ピアノ?」

綱吉くんの声が響く。そうだ、私がプレゼントするのは昔習っていた曲。子供の頃に少しだけピアノを習っていたのだ。
獄寺くんもピアノが弾けるということを聞いたのでこれだ!と思い選んだのだが、今になってかなり恥ずかしくなった。
…なんというか、私だけかっこつけてるみたいな感じになってない?大丈夫、かな?

どきどきしながらも他に用意しているものはないので、もう全力で頑張るしかない。ピアノ自体はもう本当に小さい頃にしかやっていなかったのでかなりのブランクがある。獄寺くんの誕生日を知ってから練習したから、練習時間はそんなに確保できなかったのだ。
失敗してもいい。ただおめでとうっていう気持ちをこめてひとつだけ弾きたかった。
せっかくこのピアノもリボーンくんが用意してくれたのだ。最後まで頑張らなきゃ。


最後の音が響き渡り私の指は鍵盤を離れた。大丈夫だったかな、いきなりこんなキザなことやって引かれてないかななんて、もう遅いのだけど。
緊張のあまり顔をあげられないでいると、誰かがパチパチと拍手をする音がした。それはだんだん大きくなっていき、気が付けば全員がこちらにむけて拍手を送っていたのだ。よかった、ちゃんと弾けたんだ…!

「亜衣、ピアノ弾けるんだね!」
「うん、子供のときに少しだけやってて…」

綱吉くんの言葉に小っ恥ずかしくなって下を向いてしまったとき、カツカツと私の方に向かって歩く音が聞こえた。
それは私が座っているところの手前で止まり、顔を上げる前におでこを小突かれてしまった。

「ばーか、弾き方がなってねーんだよ」
「え、?」
「ピアノってのはこうやって弾くんだ」

呆れた顔をしながらいう獄寺くんに席を譲るとその表情は一変、スイッチが入ったかのように演奏に集中した。
いつもの荒削りなところは全くなく、その音は繊細かつ滑らかな音色を奏でていた。


「…す、っごい…」

ため息とともに出てきた言葉はありきたりだったがそれ以上になんと言えばいいのかわからないくらいとても心惹かれるものがあった。
プロ級の腕前だとは聞いてたけど…、同じピアノで演奏したのにここまで音の差がでるなんて。
うっわあ…!な、なんで私こんなめちゃくちゃ上手な人に演奏をプレゼントしようなんてすごいこと考えたんだろう?!よほど焦ってたのかな?!大丈夫だったのかな、こんな下手な演奏だったのに!
急に恥ずかしくなってきてしまい、私は獄寺くんの顔を見れなかった。…やっぱり物にすればよかったのかも。こんな高望みしてピアノにしなければよかったかなあ。
でも弾いてしまった時間はもう戻らない。ああ、失敗した…。ここにいるのが恥ずかしくなって今にも逃げ出したい気持ちだった。

「…なーに泣きそうな顔をしてんだ亜衣」

またしても獄寺くんにおでこを小突かれてしまった。

「だ、だって…獄寺くんこんなにピアノ上手なのに、私偉そうなことして下手なのにピアノの演奏をプレゼントしようだなんて…」
「プレゼントに上手い下手があるかよ。祝ってやりたい気持ちがあれば十分なんじゃねーの」

ぶっきらぼうに答える獄寺くんにハッとした。…そう言ってくれるってことは、ちゃんと私のお祝いしたいっていう気持ち、伝わったってことでいいのかな…?

「…って、何で自分の誕生日なのにオレがこんなこと言わなきゃなんねーんだ!」
「ご、獄寺くん…!」
「うるせー!そのキラキラした眼差しやめろー!」

よかった、獄寺くんみたいに上手くは弾けないけど……おめでとうっていう気持ちが伝わったみたいで。
すごいなあという思いで、へへ…と笑っているとポンと頭に手を置かれわしゃわしゃと撫でられた。

「…ありがとな」

私にすら聞こえるか聞こえないかわからないくらいの小さな声が耳に入ってきたので私は目をぱちくりさせて獄寺くんを見た。当の本人は恥ずかしくなってしまったのか、口を押さえながらあらぬ方向を見ている。

「…獄寺くん、?今…!」
「何も言ってねえ」
「え?いや、でも今!」
「だから何も言ってねえ!」

真っ赤になって全力否定してるけど私は確かに聞いた。それが嬉しくてだらしなくにこにこしていたら癪に障ったのか今度は乱暴に頭をくしゃくしゃにしてきたのだった。


一年に一度の音色

(ちょ、ちょっと頭くしゃくしゃしすぎ!)
(てめーが変なこと言い出すからだろ!)
(言ってない!でもちゃんと聞いたからね獄寺くんの言葉!)
(〜〜〜ッ忘れろばか!)

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