空がオレンジ色に染まりつつある時間帯の放課後、突然それは起きた。

もはや地面とは呼べなくなってしまったほどに崩れた土を蹴りあげる。目の前を走る男は追いかける私たちの道を崩そうと壊しながら走っていた。そして苦し紛れの目くらましに砂埃をたてられるけどお構い無しにまっすぐ進んでいく。目標、約30メートル先。

その男は敵マフィアの人間だった。狙いは私が持っているこの手帳。記録係の私は毎日日記のように修業内容や起こったこと、気付いたことを記録している。
どんな戦い方をしているのか、特徴、技、癖…事細かに書いているためこれを見れば一目瞭然。綱吉くんと下校しようと一緒に校門を出たところで、ちょうど手に持って読み返していた手帳を奪われたのだ。

「ごめんなさい、綱吉くん。私が油断してたから…」
「ううん、大丈夫。まだあの人以外には見られてないと思うから早く取り返そう!」

隣で走る綱吉くんの言葉に私は力強く頷いた。そうだ、まだあの人の仲間には会っていないしあれだけスピードを出して走っていたらまだ中身は確認出来ていないはず。見られる前になんとか捕まえないと。
絶対に逃がすまいと走るスピードを上げる。物凄い勢いで駆け抜けていく景色に気を取られてしまえばすぐに舌を噛みそうだ。しっかり奥歯を噛み締めて、狙うのは前方の男ただ一人。
記録係とはいえ私も修業をしていて本当によかった。こういうときに他人任せではみんなに迷惑をかけてしまう。取られないようにするのが一番だけど、やって損ではない。

勢いよく地面を蹴り一気に距離をつめる。後ろを走る私の足音に気付いた男は走りながらこちらを一瞥するが、それは一瞬スピードが落ちる隙。
顔を前に戻す暇なんて与えさせない。男より少し前に出たところで左脚を軸に右脚を大きく振りあげれば、それは男の顎に命中し、男は仰け反りながら宙を舞う。
そして体勢を立て直される前に顔面目がけてもう一度蹴りあげると、男は呻き声を上げ砂埃とともに地面に沈んだ。

「さすが亜衣というか、容赦ないね…」
「逃げられたら困ると思って…」

敵マフィアと一戦交えるのはこれが初めてではないけど、今回は少し焦った。手帳は絶対にボンゴレ以外には見せてはならないものだ。その焦りと緊張がいい薬になったんだと思う。
でもいくら修業で脚力を上げたといっても女性の…しかも子供の力なんてたかが知れている。少しだけ足止めする程度のダメージを与えられるくらいだ。
ふぅ、と小さくため息をつき、私は男に取られた手帳をその懐から取り出す。よかった、無事に取り戻せた。

「でもびっくりしたね、まさか学校帰りにこんなことになるなんて」

綱吉くんの言葉に私は大きく頷く。今までこんなことは一度もなかったけど、いよいよ私がボンゴレの記録係だということが他マフィアの人達にも知れ渡ってきているんだ。
学校だからって安心なんかできないし、これまで以上に警戒しなきゃいけない。

「このこと、リボーンにも話そっか」
「そうだね。…あ、この人どうしよう…?」
「あ〜多分、ヒバリさんに言えば大丈夫だと思う…」

冷や汗を垂らしながら明後日の方に視線がいっている綱吉くんに私は首を傾げた。…過去に何かあったんだろうか。雲雀さん、ということは風紀委員がどうにかしてくれるのかな?

「オレたちはこの人が逃げないように見張ってなきゃだから、先にリボーンに連絡してヒバリさんに頼んでもらおう」

その言葉にコクリと頷くと、綱吉くんは私から携帯を受け取りさっそくリボーンくんに電話をかけた。リボーンくん、携帯持ってたっけ…家の電話かな?

今回はなんとか隙があったから捕まえられたけど、いつもそうとは限らないし強いマフィアならなおさら隙なんて見せてくれないだろう。私もまだまだ修業が足りないな。
電話でリボーンくんに頼んでいるのに何故かからかわれているような綱吉くんを少し微笑ましく思いながら私は拳を強く握った。


という独り言でした、おしまい

「──みたいなかっこいい女の子になってみたいんだけど、どうかなリボーンくん」
「木の枝すら折れねぇやつが何言ってやがる」

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