※10年後設定ですが年齢などいろいろ捏造していますのでご注意ください。




「…え?」
「あれ、亜衣」

とある休日、綱吉くんの家に遊びに行った私はいつものように部屋で走り回っていたランボくんに会い、挨拶をした瞬間気付いたら目の前の風景がガラリと変わっていたという急展開に遭遇した。
どこかの屋敷の部屋らしく、壁側にはズラリと難しい本やら何かのファイルが並べられていた。それらを確認すると同時に小さく声をあげた私に、聞き覚えのない声が近い場所からあがった。
立っていた私がゆっくりと視線を下ろすと、デスクの椅子に腰掛けて書類に向かっていたのはススキ色の髪をした20代くらいの男の人。誰だろう、見覚えがあるような…ないような…。

「…え、っと、はじめまして…?」

おそるおそる言葉を繋げていくと、目の前の男の人は一瞬目を丸くしたあとすぐに口元を緩めて小さく笑った。

「そうだね、今のオレは初めましてなのかな。…でも、わかんない?」

自分を指さすその人の顔は私の頭の中でぼんやりと刻まれていく。ススキ色の髪の毛…そうだ、私はさっきまであの人の家にいたんじゃないか。昔の面影があり幼さの残る顔付きではあるけど、声変わりした低い声としっかり大人の男の人に成長したその姿に私は口をパクパクするしかなかった。

「そっか、10年前の亜衣ってこんなに小さかったんだ」

そういって目の前の彼はゆっくりと椅子から立ち上がると、私は顔を上げて視線を斜め上に向けることになった。う、うわあ…!背、高くなってる…私と同じくらいの身長だったのに。
私、10年バズーカに当たっちゃったんだ。だからこの人は多分10年後の綱吉くんだ。なんだろう、同じ綱吉くんのはずなのにいきなり成長した姿に会ってしまうと緊張するというか…恥ずかしいような。

「…亜衣?どうしたの?」
「わ…!あ、あぅわ…!」
「え?ちょ、ちょっと!?」

全くもって慣れない。同じ綱吉くんでも今の綱吉くんはれっきとした大人の男の人で、顔付き、体付き、声のトーンだって全然違う。
中学生のときはそんなに差はなかったはずなのにこうも違ってくると、原因不明の恥ずかしさで正気が保てない。名前を呼ばれると耳がくすぐったくて、ぼぼぼっと赤く染まる頬を隠しつつ私は慌てて綱吉くんから後退りした。悪気はない、でも許して…!

「な、なんで避けるの?」
「ち、違うんです違うんです!なんていうか…は、恥ずかしいというか…」
「何もしてないよ!?」

ショックを受けた顔をする綱吉くんにとても申し訳ない気持ちになるけど、私だって本当は避けたくはない。でも心臓の鼓動がとてもうるさくて顔だってすごく熱い。意識しちゃっているのが私だけだって分かっているからこそ余計に恥ずかしいのだ。
一歩近付いてくるたびに私は一歩下がる。どうしようもないこの気持ちに今の私はとにかく距離をとって落ち着かせることしかできない。それでもまた一歩と近づいてくるものだから一向に距離は変わらない。

「大丈夫だよ、何もしないから」
「わ、わかって…ます…!あの、でも…」
「お願い、逃げないで?」

毎日見ている中学生のときと変わらないふわりとした笑みとその言葉に、私はピタリと足を止めた。…ずるい、そんな顔でそんなこと言われたら私には止まることしか出来ない。
これが大人の余裕というやつなのかな。少なくとも中学生の綱吉くんは普段は一歩引いた行動をしているから、こうやって自分から近付いてくることはあまりしない。
ちょっとずつその距離が縮まる。恥ずかしさで手が震えるも、何故か視線は綱吉くんから離せなくて心臓の音がどんどん大きくなっていく。
あと、少しで…、

「おい、やめとけツナ。10年前の亜衣とじゃ絵面がやべーぞ」

第三者の声にビクリと肩を震わせそちらに視線を移すと、10歳くらいの男の子がドアのところに背中を預けているのが見えた。

「…リボーン、それってどういう、」
「危ねーオッサンに見えるってことだ」
「オレまだ24だけど!?」
「中学生からしたら24なんてオッサンだろ」

綱吉くんは地面に崩れ落ちた。えっと…世の中の中学生がどう思うかはわからないけど、私は目の前の綱吉くんをそういう風には思ったことはないから気にしなくても大丈夫じゃないかな…。それにしても、

「…リボーンくん、なの?」

私より少し低い位置にあるその頭には見覚えのある帽子。赤ちゃんのときにあった特徴的なくるんとしたもみ上げは今も健在のようで顔の横で綺麗に形が整えられている。
まだ10歳くらいの幼い顔立ちだけどスーツで腕を組みながら佇む姿は大人顔負けの雰囲気があった。

「ああ、そうだぞ」
「お…大きくなったねリボーンくん…!」
「親戚かよ!」

綱吉くんに突っ込まれてしまったけど、だって10年前は赤ちゃんだったし、こんなに見違えることってないもの。立派に育って、と本当に親戚のような感想を抱いたところでふと気付く。

「そういえば5分てもうとっくに過ぎてる…?」

10年バズーカの効力は持って5分。その時間を過ぎれば自動的にもとの時代に戻れるはずなんだけど。一向にそのときは現れず私はこの場に居続けたまま。
もしかして故障してた、とか?たまに故障して5分じゃ戻れなくて数時間かかったこととかもあったみたいだけど、今回もまさか…。
どうしようと視線で綱吉くんとリボーンくんに訴えると、事情を理解したリボーンくんの口元がフッと緩む。

「んじゃ、戻るまでの間オレが街を案内するぞ」

ドアから背中を離したリボーンくんはコツコツと靴音を鳴らしながらこちらに歩いてくると、流れるような仕草で私の手を取った。

「いいだろ?亜衣」
「え?えっと…」

ひ、ひぇ…!成長してるとはいえまだ10歳くらいなのになんでリボーンくんこんなに熟れてるの!一方的に手を握られたけど決して強引ではなく、しっかり女性をエスコートするような立ち居振る舞いに驚きを隠せない。
でも、いいのかな…?もちろん案内してくれるのは嬉しいけど。そのまま流されそうになっていると、焦った顔をした綱吉くんが声を張り上げる。

「ちょっと待って!案内ならオレが!」
「ツナは仕事がまだ終わってねーだろ」
「そんなこといったらリボーンだって!」
「終わってるが?」
「ん゛んんん〜!」

10年たってもこの二人の関係は全然変わっていないらしく、スマートに答えるリボーンくんに対して何か文句を言いたいけど何も言い返せず唇を噛み締める綱吉くんに、私は少しだけ微笑ましくなった。

「オレは亜衣とのデートを楽しんでくるからツナは仕事ちゃんと終わらせるんだぞ」

リボーンくんが目一杯意地悪な笑みを浮かべると、綱吉くんの悔しそうな声が室内に響き渡った。


恋になったらまた会いましょう

「あ、あとで綱吉くんも一緒にいこ…?」
「……!亜衣〜…!」
「えっ、な、なんで泣いてるの…!」

「(どっちが大人かわかんねぇな…)」

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