あいにくの雨。バケツをひっくり返したような強い雨だ。地面に叩きつけられるようにして降っているそれらは、容赦なくさしている傘に落ちてくる。このぶんじゃ今日は止みそうにないな。
天気予報では雨という予報だったので傘を持ってきたけどこれではさしてもあまり意味がない気がする。

私は今日銀行に用事があった。そろそろ生活費が底を尽きるころだったのだけど、両親から連絡があり私の口座に新たな生活費をいれてくれたので、使う分だけ引き出しにきたのだ。今日行かないと夕飯もままならなかったから出かけたはいいものの、まさかこんなに土砂降りになるとは思わなかった。
バスで帰ろうかと思いバス停までいってみたけどこの雨のせいでかなり混んでいてバス自体も既に出てしまったばかりだったため歩いて帰るしかないようだ。


歩いてからものの数分で靴下までびしょ濡れになってしまった。濡れてもいいような格好ではあるが、もう完全に足は絞れるくらい濡れてしまっている。歩くたびにビチャっと靴から音がするのでとても気持ち悪かった。
そしてここからが不運だった。目の前を走っていたトラックによってバシャリとはねた水たまりが私の足に思いっきりかかる。それによってバランスを崩してしまったことで、私はそのまま尻餅をついてしまった。
持っていた傘も手放してしまい、もう全身雨と水たまりでびしょ濡れ状態。これは酷い、最悪だ。

「…あら、亜衣?」

名前を呼ばれたと思い顔を上げると、そこにはビアンキさんが立っていた。そして私のこの状態を見た瞬間に血相を変えて駆け寄ってくる。

「どうしたのよこれ…!」
「あ、あはは…ちょっと、不運が重なりまして…」
「とりあえず一緒に来なさい。このままじゃ風邪をひくわ」

私の傘は内側も濡れてしまって使えなかったので、ビアンキさんが持っていた大きめの傘に入れてもらい、ここから近い綱吉くんの家に向かった。



家にお邪魔した瞬間、綱吉くんのお母さんである奈々さんにはものすごく驚かれてしまい、あれよあれよという内にお風呂場へと案内された。
人の家のお風呂に入っていいものかと考えたけど確かにこのままでは冷えて風邪をひいてしまうと思い、ここは素直に甘えることにする。あったかいお湯を浴び、冷えていた足元から全身がじんわりとあったまる感覚が心を落ち着かせた。
しっかりとあったまってお風呂から上がると見慣れない洋服が置いてあった。その上には一枚の手紙が置いてあり、私の服は洗濯したからビアンキさんの服を着てねという奈々さんからの手紙だった。
ビアンキさんの服といったらセクシーな感じを想像したけど胸元がパックリ開いているとかそういうのではないみたいだ。…ショーパンだけど。
私は洗面所を出てから奈々さんに御礼を言う。いいのよーと優しく返されとてもほっこりした。
「ツッ君なら部屋にいると思うわよ」と言われたのだけど今回はとくに綱吉くんに用事はない。でもお風呂まで借りたのに挨拶もなしに帰るわけにもいかないので、私は二階へと向かった。


コンコンとノックしてから、「お邪魔してます」といって中に入る。部屋には綱吉くんとリボーンくんとビアンキさんがいた。

「亜衣…っ、!」

綱吉くんが私をみた瞬間に固まった。え、な、何ですか…?

「ちゃおっす亜衣、ビアンキから聞いたぞ。災難だったな」
「うん、本当に…びっくりしたよ私も。…あ、綱吉くん、お風呂貸してくれてありがとう」
「…え、!あ、…っ、う、ん…」

何故だか綱吉くん、歯切れが悪い。それに顔が赤い…なんで?

「風邪をひいたら大変だもの。でも良かったわ、その服サイズもそんなに違わないわね」
「あ、はい!ありがとうございます、服まで貸していただいて」
「いいのよ。それに、約一名には効果抜群みたいよ」

…効果抜群ってなんの話?リボーンくんのほうを見てみるがとくに変わった様子はなく、相変わらずコーヒーを優雅に飲んでいるだけ。…いや、それとも赤ちゃんがコーヒーを優雅に飲んでいること自体がおかしいと考えた方が正しいのか。
リボーンくんじゃないとすると残りは綱吉くんしかいない。そういえば、さっきから顔は赤いし歯切れは悪いしでいつもの調子じゃなさそう。

「…大丈夫綱吉くん?顔真っ赤だよ」
「(亜衣がオレん家のお風呂で…髪まだ濡れてるし、足出しすぎっていうか…っ!)」
「……?綱吉くん?」
「(…って、ああ!オレ何考えてるんだよー!いやでもこれは、亜衣が悪いよ!こんな格好で…!)」
「…あ!綱吉くん!後ろにトンファー構えた雲雀さんが!!」
「えっ!?ヒバリさん!?ヒィィィ助けてー!…あれ?」

真っ赤な顔して何かを考えているようで私の声が聞こえていないみたいだったので、脅かし作戦として雲雀さんの名前を出したら見事に引っかかってくれた。

「嘘でした」
「ええっ!なんで!?」
「綱吉くん、ずっと考え込んでるみたいで反応しなかったから…大丈夫?」
「あ…、う、うん!ごめん、何でもないからね!?」

手をブンブンさせて必死に"何でもない"を強調する綱吉くんに疑問を持ったけど本人がそういうなら気にしない方がいいのかな。


「見惚れてたわね、ツナ。あの服、私が亜衣に貸したのよ」
「な!やっぱりビアンキが!?なんであんな…!」
「あの子普段ああいう服着ないでしょ?露出は若いうちにしたほうがいいわ」
「知らないよそんなの!よりにもよってオレの家でやるなよなー!」
「あら、本当は見れてよかったんじゃないの」
「そ、…それは、!」
「素直になりなさい。殺すわよ」
「ポイズンクッキングで脅すなよ!?」


雨からの贈り物

今日は面白いものが見れたわ。でもツナはこの様子だし、亜衣も案外鈍いから時間がかかりそう…伝わらないものね。まあ私とリボーンのようになるのはまだ先かもね。

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