とある晴天の休日。お仕事の合間に両親がお土産を買ってきてくれたらしく、昨日それが家に届いた。一人で食べるには量が多かったので綱吉くん家にもおすそ分けしようと思いつく。きっとランボくんたちが喜ぶかもしれないしね。
意気揚々と家を出て目的の場所へと向かう。みんな居るといいんだけどなあと思いつつインターホンを押すと、出てきたのは珍しくリボーンくんだった。「まあ、入れ」と言われ家に上がるがリボーンくん以外の声が全く聞こえないし物音もしない。いつもならランボくんたちがはしゃぎまくって、それを綱吉くんが止めたりしてるんだけど。

「みんなは?」

リボーンくんに綱吉くんの部屋に案内されとりあえず座ってみたが、当の本人も部屋にはいなかった。

「ママンたちは買い物にいったぞ。ツナはディーノに連れられてどっかいっちまった」
「どっかって…」
「亜衣はツナに用事があったのか?」

リボーンくんの質問にここへ来た理由を思い出し、トートバッグからお土産の箱を取り出す。みんなで食べようかと説明したところでガチャリと玄関のドアが開く音がした。タイミングよく綱吉くんが帰って来たようだ。その足音は迷わず階段を登ってきてこの部屋の前で止まる。

「ただいま」
「あ、綱吉くんおかえりなさ…い?」

部屋に入って来た綱吉くんに振り返るが私の言葉は最後まで続くことは無かった。

「…亜衣、来てたのか」
「え?あ…はい」
「…?何で敬語なんだ?」

あ、あれ?綱吉くんなんかいつもと違う…。落ち着きがある…っていったら失礼かもしれないけど、目付きも話し方も違う。
ふと視線を少し上にずらすと、彼の額には死ぬ気の炎が灯されていた。…超死ぬ気モード!?

「…ツナ、おまえなんでハイパーになってんだ?」
「…忘れてた。ディーノさんと話していたら偶然ヒバリさんに会って、そのまま応戦したんだ」

それは見事に巻き込まれたって感じですね…。苦笑いしていると、綱吉くんが超死ぬ気モードを解こうとしたので私は慌てて待ったをかけた。

「どうした?」
「あ、あの…私、ハイパー状態の綱吉くんと一度おはなししてみたくて…!」
「…このまま?」

きょとんとする綱吉くんに私はコクコクと頷く。超死ぬ気モードは修業のときに何度も見たことはあるけど、修業が終わったらすぐに解除しているからお話をしたことはなかった。
もちろんどちらも同じ綱吉くんなんだけど、話し方も雰囲気もいつもとは全く違うからどんな感じなんだろうと前から気になっていたのだ。

「まあいいんじゃねーか?ハイパーを長く保つための修業にもなるからな」
「…そうだな、わかった」

あっさりOKされた。ということで綱吉くんはハイパーのまま私の向かい側に腰掛ける。う、うわうわ、なんだろう…なんかすごく緊張するのは何故なんだろう!

「…亜衣、大丈夫か?少し震えているような…」
「え!だ、大丈夫でっす!」
「おまえら、何だかお見合いしてるみてーだな」
「おおおおお見合い!?」

何を言い出すのかなリボーンくん!そ、そんなのダメ…恥ずかしすぎる!え、えーと、ええっと…!リボーンくんの一言で余計に焦った私は何か話題をと思い脳をフル回転させる。そして目に入ったのはお菓子をいれていたトートバッグ。

「、そうだお菓子!両親がね、お土産にお菓子を送ってきてくれたんだけど食べない?」

当初の予定をすっかり忘れるところだった。そうだよ私はこのためにここにお邪魔してるんだから。お菓子といっても甘さ控えめのものらしいので多分大丈夫だとは思う。箱をテーブルに置いて見せるとコクリと綱吉くんは頷いた。

「じ、じゃあ私、何か飲み物を入れてくるのでキッチンお借りしてもいい?」
「…飲み物ならオレが、」
「ううん!大丈夫っ!」

この妙に緊張してしまうのを何とかしなければ。そう思って飲み物を入れてくるなら少しだけ一人になれるから私がやってこようと思ったんだけど、すかさず綱吉くんが代わってくれようとしてくれるから私は全力で首を振る。
こうも雰囲気が違うとどう話せばいいのかわからない。私から言い始めたことなのになあ…!
でも、こうやって代わろうとしてくれるところは優しいし普段と何ら変わらない、いつもの綱吉くんだ。



早足で階段を駆け下りキッチンへ向かいお茶とコーヒーの用意をする。リボーンくんには何度か淹れたことがあるから、場所はわかっていた。ええーっと、コーヒーは…。

「亜衣、これ」
「ああ、ありが…、え!?」

手渡されたコーヒー豆に何気なく御礼を言おうとするがちょっと待て。

「つ、綱吉くん!?な、なんで」
「…ひとりでやらせるのは悪いだろ。手伝う」

戦闘中などの真面目なときしかハイパーにはならないから、家の中だと中々見慣れない。お茶っ葉を急須に入れてお湯を注ぐハイパー綱吉くん。なんてシュールな光景なんだ。でも手伝ってくれるのは嬉しい。じゃあ私はコーヒーを淹れようかな。



黙々と作業する綱吉くんをちらりと見る。いつもは丸くて大きな目なのに、ハイパーの今は目付きが鋭くて横顔もキリッとしている。同じ人物なのに目元が変わるだけでこんなにも印象が違ってくるんだ。
ちょっとのつもりが、ずっと見ていたためにこちらに向けられた視線とぶつかった。…あ、死ぬ気の炎と同じ綺麗なオレンジ色の瞳だ。

「何だ?」
「あ、ううん!…綺麗な目だなあって」
「……!」

綱吉くんは少しだけ目を見開くとそのまま視線を逸らして黙ってしまった。やっぱり普段とハイパーのときとじゃ反応も違うんだなあ。今の方が落ち着いているし、表情の変化もよく見ないとわからない。

…ハイパーの綱吉くんって、驚いたりするのかな?

私のいたずら心が芽生えた瞬間だった。いつもならこんなことはしない。でもこんなチャンス二度とないかもしれないという気持ちが生まれた結果である。気になる。普段の綱吉くんは大声を出したり身振り手振りで驚いているさまがよくわかるけど、今はどうなんだろう。

シン…と静まり返るキッチン。コーヒーもお茶も淹れ終わってあとは持っていくだけ。カップに手を触れていない今がチャンスだと、ゴクリと喉を鳴らし隣のその耳元に顔を寄せて、

「…わッ!!」
「…ぅわ、ッ!?」

真ん丸に目を見開いて反射的にこちらを凝視するその目と、明らかに驚嘆の声がキッチンに響く。しばらくの間、訳が分からないというように目をぱちくりさせ、その表情には驚きと困惑の色が浮かんでいた。
…ちゃんと驚いてくれた。ハイパーの綱吉くんはこんなふうに驚くんだ。いつもの綱吉くんほどじゃないけど、すごくびっくりしてこっちを見ている。わあ…、何だろ、なんか新鮮…!
いたずらが成功した私はその嬉しさを隠すことができず口元を緩めた。ハイパーになっているときは大抵戦闘中だから、怒ったような顔だったり、辛そうな顔、驚愕してもあまりいい意味じゃないときなどがほとんどだった。
だからこうやって何でもないときに見せてくれた表情はすごく貴重だと思うんだ。

でも綱吉くんはやっぱり綱吉くんだ。私の声にちゃんと驚いて反応してくれた。いつもとは口調や目付きは違うけど根本的なところは変わってない。それでも初めて見たその表情に、私は喉をくつくつと震わせた。


静かなるオレンジ

「おい亜衣、コーヒーはまだか?」
「リボーンくん聞いて!私ハイパーの綱吉くんを驚かせることに成功した!」
「…何やってんだおまえら」

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