「も、もし良かったら…25日、会わない…?」

誰が見ても一目瞭然なくらい真っ赤になり震えながらもなんとか亜衣に伝えることが出来たのが一週間前。
この一週間オレはいつも以上に授業の内容が頭に入っていなかった。だって12月25日だよ?世間はクリスマス一色だよ?ここで誘わなかったらボンゴレの名が廃るとリボーンに脅されたのがその一日前。
いや、脅されなくてもオレは誘うつもりだった。けど逃げ腰にはならなくて済んだかもしれない。



そして25日の夜。天気に恵まれた青空は次第にオレンジ色に染まり、そしてこぼれ落ちそうなほどに輝いたいくつもの星空に包まれた。街はカラフルなイルミネーションで飾り付けられていてまるで大きな宝石箱のようだ。
オレはそんな街中にある広場の噴水の前に立っていた。ここで亜衣と待ち合わせをしている。
他の人たちも考えが一緒なのか同じ場所で待ち合わせをしている人が何人もいた。そしてその大半が男。時計を見たり携帯を確認したりしている人がいる中でオレも心配になって何度も時計を見てしまう。
大丈夫だよね、亜衣来るよね…?オレ気持ちが抑えられなくて30分以上前に来ちゃったよ。30分たったら来てくれる、よね…?
少し前までのオレだったら女子に話しかけることすら出来なかった。それがどうだ、今はこうやって誘うことができる、しかもクリスマス当日に。
大丈夫、大丈夫と自分に言い聞かせながら足元に視線を落としては深く息をつく。緊張してきたな…。

「綱吉くん、おまたせしました」

軽い靴音を鳴らしながら足元を見ていたオレの視界に入ってくる茶色い靴。ゆっくりと顔を上げていくと真っ白なコートに身を包んだ亜衣がこちらに笑いかけていた。
寒さのせいなのか顔が少し赤い。そしてマフラーで髪の毛がもふっとなっているのが可愛い。

「来るの早いね、もしかしてずっといた?」
「う、ううん!オレもさっき来たとこだから!亜衣こそまだ30分前だけど早いね」
「うん。待たせるのも悪いし、楽しみだなーって思ってたら早く着いちゃった」

眉を下げながら控えめに笑うその姿にオレは息を飲んだ。えーっと、それはオレとクリスマスを過ごすのが楽しみって捉えていいの?
…考えすぎかな。…ずるいや、そんなこというなんて。オレだって楽しみって思ってるんだよ?
亜衣をちらりと見ると寒さで息が白くなっているのがわかった。そしてかじかんでいるであろう赤くなった指先が袖から少しだけ顔を出している。

「……、!」

何を思ったのかわからない、けど無意識に身体が動いていた。オレはその寒さで震えてる手を掴んだのだ。
そんな緩やかに自然な動きで手を握るとかそんなものではない。本当にバッとただ掴んだ。それによってまん丸とした双眸がこちらを捉えて離さない。

「…いこっか」

一言そう呟いてゆっくりと歩き出す。亜衣が驚いて何を言いたいのかはすぐにわかったけど、それを答えてしまったらオレは今自分のしていることが恥ずかしくて手を離してしまうかもしれない。だから何か言われる前に先に声を発した。
あー…顔が熱い…、鏡なんか見なくても自分がどんな顔しているのかを想像するのは容易い。思わず手を掴んでしまったけど、嫌がられていないだろうか。
本当に嫌だったら振り払ってくれるとわかりやすいけど、そんなことされたらオレは立ち直れる気がしない。

「だ、っ大丈夫?寒くない…?」

恥ずかしさを紛らわすために何か話題をと思ったのはいいものの、気の利いた言葉一つも思いつかず"はい"か"いいえ"で済むような質問しか出てこなかった。

「う、うん…大丈夫だよ」
「そっ、か…!」
「…綱吉くん、手あったかいね」

口元を緩めながら軽くぎゅっと握り返してきたために自分の脈拍がはやくなったのがわかった。どうやら亜衣はオレを恥ずかしさで殺す気らしい。



「この近くだっけ、大きなツリーがあるの」
「うん、もうちょっと先…だったかな」

今日限定でこの広場にクリスマスツリーが展示されると話題になりそれを見るためにオレたちはここで待ち合わせをしていたのだ。
去年はそんな話はなかったのに何で今年だけ、と少し嫌な予感がするのは気のせいだろうか。

大きな広場の中を歩いていると「あれじゃない?」と隣から弾んだ声が聞こえてオレは亜衣の指さす方向に視線を向ける。
そこには巨大なツリーがそびえ立っていた。近くまで行ってみると首が痛くなるほどだ。暗い夜に映えるカラフルなイルミネーションで彩られていて、街の人たちの注目を浴びていた。

「……ん?」

ふとオレはおかしなものを見つけた。確かにイルミネーションは綺麗だ。けどツリーに飾られているものはクリスマス用の飾りではなくとても見覚えのあるもの。あれって…、まさか。

「ね、ねぇ綱吉くん…、私にはあれがダイナマイトに見えるんだけど…」
「き、奇遇だね、オレにもそう見える…」

イルミネーションのライトと共に飾られていたのは誰がどう見てもダイナマイト。でも周りの人は全く気づいていない様子だ。あれって、もしかして獄寺くんの…!
サッと青ざめた瞬間に全てのダイナマイトが爆発し火薬の匂いと煙が辺りを充満する。
な、なんてことを!若干咳き込みながらゆっくりと目を開けるが、そういえばあんなにたくさんのダイナマイトが爆発したわりには爆風があまり無かったような…。

「うわあ、…すごい…!」

感嘆の吐息を洩らした声があちらこちらから聞こえてくる。なんだと思い顔を上げるとさっきまで見ていた光景とは全く違うものがオレの目に映った。
ダイナマイトで飾り付けられていたツリーにはプレゼント型、球体の飾りで彩られており、ダイナマイトによって起った爆風によって巻き上げられたのはカラフルな紙吹雪、そして飛び出した無数の鳩。
これは前にジャンニーニと初めて会ったときにダイナマイトの改良で失敗してたやつに似ている。もしかして今日のために…?

すると突然上空にヘリコプターが飛んでいるのが見えた。随分と低い位置を飛んでいるなと思ったのも束の間、ガラリとドアを開けて出てきたのは見覚えのある顔ぶれ。

「よー、ツナ!楽しんでるかー!」
「10代目ー!どうでしたかオレのサプライズダイナマイト!」

山本と獄寺くんがすごく楽しそうにこちらに手を振っている。やっぱりあのダイナマイトは獄寺くんだったんだ。

「最近山本くんも獄寺くんもよそよそしく見えたけど、もしかしてこのためだったのかな?」
「うん、多分そうだね…」
「でもすっごく綺麗だったね!」

やることはド派手だけど、ここに来ている人達はみんな喜んでいるようなのでサプライズは成功なんだろう。最初はびっくりしたけど亜衣も楽しそうにしているし、笑ってくれたし。

はて、そういえば肝心のアイツがいない。こういうことはむしろアイツが一番先に思いつきそうなのに。
そんなことを思っていたら案の定その人物は既にスタンバイしていたようで、ヘリコプターの奥からぴょんとドア付近にその姿を現した。

《メリークリスマスー!》

サンタクロースの格好をしたリボーンがマイク越しに一言声を発した。それと同時に見ていた街の人たちからワァッと歓声が上がる。
やっぱり、これはリボーンが計画していたことなんだ。わざわざダイナマイトも改良して。
ニヒルに笑うあの赤ん坊が憎たらしいがそのおかげでこうやって亜衣が満面の笑みを浮かべてくれたのだからここは感謝すべき、か。

「綱吉くん、今日はありがとう、誘ってくれて」
「う、うん!なんか知らない間にサプライズ仕組まれてたんだね」
「私もびっくりした!でも面白かったよ」

良かった、オレ一人だったらきっと焦って会話すらままならなかったかもしれないから。
そんな亜衣の笑顔を見つつ、オレは自分の鞄の中に視線を向ける。今日のために買ってきたプレゼント。
女の子にプレゼントなんて何をあげたらいいのかわからなくてものすごい悩んでしまった。挙句オレのセンスだから気に入るかはわからない。もしかしたら変な顔されるかもしれないけど、でも…。

「、あ、あの…亜衣!」
「ん?何?」

鞄から小さめのプレゼントの箱を目の前に差し出す。自分の顔に熱が帯びていくのがわかった。

「こ、これ…クリスマスプレゼント、なんだけど…」
「…!貰って、いいの?」
「うん…!あ、えっと、でも自分でもセンス悪いって思ってるから気に入るかわかんないけど…、う、受け取って、くれる…?」

クリスマスカラーである赤色の包に真っ白なリボンが飾り付けられている小さな箱。亜衣はそれを両手でゆっくりと受け取った。

「ありがとう、綱吉くん」

今日で一番いい笑顔な気がする。目を細めてふんわりと嬉しそうに顔をほころばせていた。その顔はほんのり赤い。
まだまだ夜は寒く今日は会った時から寒さで顔が赤くなっていたけども。…赤い理由がオレであればいいのになあ、なんて。


きらきら、きら

《ツナー、もたもたしてねーでキスくらいしろー、それでも男かー》
「バッカッ!マイクで言うなリボーン!!」

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