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亜衣が帰ってきた。たった二、三日なのにすごく久しぶりに感じた。
雷戦…亜衣がヴァリアー側に行ってしまったあの日、オレはすごく複雑な気持ちだった。あのときはランボが危険な状態で助ける他に選択肢がなかったとはいえ、大空のリングも亜衣までも奪われてしまった。
本当にオレが助けにはいってよかったのか。リボーンにはそれでいいと言われたけど…。でもランボは助かった。
冷静に考えてみてあのときはランボの命が最優先だった。だからオレのしたことはリボーンの言った通り間違いではないと思う。でも素直に喜べなかったのは、亜衣が連れていかれてしまったから。

リボーンの話では亜衣は記録係だからヴァリアーが手を出すことはないといっていたけど、100%とは限らない。もしも、万が一って考えたらなかなか夜も眠れなかった。これがもし他の誰かだったとしてももちろんオレは同じように心配していると思う。
でもこんなにも彼女のことで頭がいっぱいになるなんて…オレはいつの間に心配性になったんだ?だから亜衣がオレたちの元に帰ってきたとき、これほどまでに安堵したことはないと思ったんだ。
…次の日、彼女からナイフを投げられたという話を聞くまでは。

オレの質問のときは何もなかったといっていたのに、ディーノさんの質問のときははっきり投げられたと言っていた。亜衣のことだからオレたちに心配をかけないように隠そうとしたけど口を滑らせたのかもしれない。
亜衣は万年筆を持っている。限度はあるけどあらゆるものから彼女を守ってくれるとても大切なものだ。こうやって無事に帰ってこれたのもそれのおかげもあるんだろう。ナイフくらいなら多分万年筆の力で防げるはず。…けど、問題はそこじゃない。
いくら身を守るものがあるからって危険な目にあっていいなんてことはない。オレがこの世界に巻き込んでしまったから。根本的なことをいえばそこからだけど、それは今となってはどうしようもない。でも、やっぱり好きな人が怖い目に合うのは嫌だ。

「…亜衣、ナイフ投げられたの?」

そんなことを考えながら自然と出た声は自分でも驚くほどに低くて冷静な声だった気がする。あれ、オレってこんな声出せたっけ?疑問に思いながらも亜衣に質問するこの口は止まらなかった。
最終的にはディーノさんに止められてしまったけど、だって…心配だろ?毎回必ずオレがそばにいるとは限らない。でも、危ないときはオレが助けなきゃいけない…ううん、助けたい。
オレはまだ修業中の身でディーノさんやヒバリさんたちよりはるかに弱い。だからそんなオレが大口を叩くことなんて本当はできないはずなのに。

「絶対にオレが助けに行くから」

弱いくせにかっこつけたがりのこの発言、リボーンに聞かれたら足蹴りを食らいそうだ。でも嘘はないんだ。獄寺くんや山本に守ってもらうことももちろんあるかもしれないけど、それでもやっぱりオレが一番に助けることができたらって。

…はぁ、何考えてるんだよオレ。まだ修業内容も完了してないのに偉そうに。それに誰が助けようと亜衣が無事ならそれでいいのに…なんだよこの見栄っ張り。

そういえばさっきから亜衣の様子が変だ。顔が赤いというか、オレと目を合わせてくれない。何だろう…オレそんなにおかしなこと言ってたかな?それとも見栄を張りすぎて呆れてるとか?…いや、亜衣はそんなことはしない人だと思うけど。
結局ディーノさんに助けを求めた亜衣だけど、オレにはサッパリだった。何でそんなテンパってるんだ?もしかしなくてもオレが原因…?うーん…。


39.守りたい人

真っ赤になっているその姿がちょっと可愛いなと思った。そして、久しぶりの平和な日常だと思えて心があたたかくなった。
…帰るんだ、このいつまでも平和な日々に。

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