33


今日の嵐戦は校舎の中。ベルフェゴールさんは余裕といった表情で緊張なんて全くしてないように見える。獄寺くんはあれからどうなったんだろう。ちゃんと新技完成出来たのかな。色んな不安が頭に浮かんできてソワソワしてしまう。

「なんでオレよりおまえのほうが緊張してんの?」
「だって勝てるかなとか、無事に終わるかなとか」
「心配しなくても王子が勝つに決まってんじゃん」
「それが心配の原因なんですってば…!」

そもそも私が応援してるのは綱吉くんたちの方なんだから!

しばらくすると綱吉くんたちがやってきた。最近は毎日顔を合わせていたから、たった一日会わなかっただけで久しぶりな感覚がある。

「亜衣!」
「…昨日ぶり、綱吉くん」
「大丈夫…?」

その言葉には何もされていないかという確認のような意味が込められているとわかった私は、頭の中で「ベルフェゴールさんにナイフ投げられました」と答えた。
でもまさかこんなことを綱吉くんたちに言えるわけがないし、そんな告げ口みたいなことをしたら隣の王子様が怖いので「大丈夫だよ」とだけ伝えた。

試合開始まであと数秒。獄寺くんの姿が見えずベルフェゴールさんの不戦勝になるかと思われたけど、ギリギリのところで獄寺くんは現れた。新技、やっとできたのかな。
獄寺くんがきたところでチェルベッロさんから今回のフィールドの説明があった。今回は校舎の三階全てがフィールドで、あちこちに窓ガラスが破壊されるほどの強力な突風を発生させるハリケーンタービンが設置されているようだ。
そして今回は制限時間があり、開始から15分までにリングを完成して所持していなければハリケーンタービンの時限爆弾によって徐々にこの階を全壊するというルール。

勝負はこれで三回目だけど毎回この嫌な予感を感じるのだ。怪我は絶対にする…それはもう覚悟を決めるしかない。でもちゃんと戻ってきてほしい。私はゆっくりと息を飲んだ。

シャマル先生も現れたところで、綱吉くんたちは毎回恒例の円陣を組んでいた。私は今あっち側にはいないため入れないのが少し寂しいなと思っていたけど、「20メートル以内にいれば円陣の中に入ったこととする!」という了平先輩の気遣いに口元を緩めた。
閲覧側はそれぞれ赤外線感知式のレーザーの中に入る。いよいよ、始まるんだ。

「肩に力入りすぎじゃね?」

獄寺くんの肩にポンと手を置きながらベルフェゴールさんがそういうと、獄寺くんは眉間にシワを寄せてあからさまに不機嫌な表情を見せた。
…失礼だけど、ベルフェゴールさんてあんなことするタイプだっけ。今日のお昼頃に不意打ちでナイフを投げてきたからちょっと意外だ。

「勝負開始!」

チェルベッロさんの声とともに獄寺くんがボムを投げ爆発する。でも煙が晴れた途端に彼はベルフェゴールさんのナイフに囲まれており、何とか間一髪でそれらを避けた。
休む暇もなく、今度はやっと完成させた三倍ボムを繰り出すがベルフェゴールさんは避けようとしない。…え、あれじゃあまともに食らうんじゃ…!
けど私の思いは杞憂に終わったようで、ハリケーンタービンの突風によってボムは全て吹き飛ばされてしまった。まさか、あの風を読んでいた…?ランダムに発生する突風、でもベルフェゴールさんはそんなの御構い無しというようにナイフを突風に添えると、まるで引き寄せられるように獄寺くんへと向かっていった。

「嵐の守護者の使命って知ってる?攻撃の核となり休むことのない怒濤の嵐。…オレにはできるけど、おまえにはできないね」

ベルフェゴールさんは始まる前からずっと余裕の表情を崩さない。自分の腕に絶対の自信があるんだ。

「この風の中でこんなことができるのはベルくらいだよ」
「…嵐の守護者はベルフェゴールさんのほうが相応しいってことですか?」
「当然だよ、ベルは天才なんて言われてるくらいだし、それ相応の実力もある。ちょっとやそっと修業したからって勝てるわけないね」

確かに、修業してた期間でいえば10日もないのだ。でも獄寺くんは自分の身が文字通りボロボロになるまで修業をしていた。絶対に負けないという執念のようなものがあった。
試合開始ギリギリまで苦労して、おそらくやっと完成させた新技、今はそれを信じなければいけない。

名前の通り、本当に嵐のような戦いが続いている。獄寺くんはナイフによってあちこちズタズタにされている状態だ。怪我に怪我を負っているんだ、立っているだけでもやっとのはず。

「針千本のサボテンにしてやるよ」

ベルフェゴールさんは大量のナイフを一気に投げる。そしてそれはもちろん引き寄せられるようにして獄寺くんの身体へと向かっていき…。
誰もが終わりだと思った。でも実際刺さっていたのは獄寺くんの身体ではなく人体模型。人体模型にはピアノ線のような細いワイヤーが絡まっていた。
どうやら勝負の前に肩を叩いたのと同時にワイヤーを獄寺くんに取り付けたらしい。なるほど、ベルフェゴールさんの言動に違和感を感じたのは罠だったからなんだ。
仕掛けがわかった獄寺くんの表情には少しだけだが余裕が生まれていた。最初と同じように大量のボムを投げ飛ばす。
ただまっすぐに飛んでいくだけじゃなかった。投げられたボムは突然方向転換し、予測不可能な動きでベルフェゴールさんへと向かっていく。
これにはもちろんベルフェゴールさんも動けなかったようで、まともに食らった。やっと完成したロケットボム…!

「勝った…?」

ぼそりと自然に言葉がこぼれる。爆煙で全く状況が見えないけど、確かにあれはまともに食らっていたはず。

「ベルのやつ、無傷ではあるまい」
「あれが始まるね」

何かを悟ったようなマーモンくんたちの口ぶりに私は首を傾げる。ヴァリアーのみんなは相変わらず険しい表情を変えず、爆煙のほうを見ているだけだったけど…なんだろう、また嫌な予感がする。
私もおそるおそる爆煙のほうを見た。やっと見えてきたのはおそらくベルフェゴールさんの影。立っているシルエットってことは、まだ勝負は終わっていないということで…。

「あぁあ゛〜っ!流しちゃったよ、王族の血を…!」

ゾクリと、背中を冷たい何かが這うような感覚がして身体が震え上がる。あれだけ自分の身体から出血しているというのに、ベルフェゴールさんは嬉しそうにその口元に三日月を描いていた。

「ベルが自分の血を見て興奮するのは、その血に自分の兄の姿を見るからだ」
「お兄さんがいるんですか…?」
「ああ、双子だけどね。幼少のころに兄をめった刺しにして殺したらしいよ」

そのときに最高の快感を得ることができ、殺しの興奮を忘れられなかったためにヴァリアーに入隊したそうだ。殺しを快感だと思えるその精神…とてもじゃないけど私には全く理解できなかった。
この人たちは暗殺部隊なんだ。ベルフェゴールさん以外の入隊理由はわからないけど、少なくとも現状嫌々でやっているようには見えない。
その中についこの前までただの中学生だった私が一人でいることに、改めて危機感を覚えた。でも昨日の夜から今日にかけて、何か手出しをされたことはない。むしろ部屋を用意してくれたり全員ではないけど一緒に昼食をとったりなど、普通の対応もしてくれた。
どっちが本当の彼らなのかわからない。でもどちらにしても、私のいるべき場所はここじゃない。少しでも早く、みんなのところに戻りたい。そしていつものように笑いあえる日常に帰りたい。


血を流したベルフェゴールさんの動きはさっきとは全く違っていた。ナイフには当たっていないはずなのに獄寺くんの傷はどんどん増えていく。さらにハリケーンタービンの爆発も近付いている。
図書室に逃げ込んでからも、その激しい戦いが続くが突然獄寺くんの動きが止まった。モニターではよく見えないけど、周りにワイヤーがはりめぐらされているため動けないのだ。
食い入るようにモニターを見る。でも、獄寺くんはちっとも焦っていない。むしろこうなることが分かっていたように、こぼれた火薬を導火線のようにして周りを爆発させる。
そして投げた大量のボムはワイヤーの先にいるベルフェゴールさんへと向かっていき…決まった。

「これが嵐の守護者の怒濤の攻めだぜ」


試合を終わらせるにはリングを完成させなければならない。獄寺くんがベルフェゴールさんのリングに手を伸ばしたとき、瀕死の状態だったベルフェゴールさんが起き上がったのだ。
二人とも傷だらけで血まみれ。本当は倒れてもおかしくないのに、ベルフェゴールさんに関しては勝利への本能で動いているようで、戦略なんて何もなくただリングを手にするためだけにがむしゃらに掴みかかっている。
あともう少しなのに、こんなときに限ってタイミングが悪くハリケーンタービンの爆破が開始される。このままじゃ、二人とも…!嫌な予感が頭をよぎったとき、シャマル先生が声を荒らげる。

「引きあげろ隼人!おまえの相手はいかれちまってんだ!戻るんだ!」
「手ぶらで戻れるかよ!これで戻ったら10代目の右腕の名がすたるんだよ!」

どんなときも獄寺くんは綱吉くんやボンゴレのことを考えている。それは彼のいいところでもあるけど、今はそれが間違った方に向いている。
マフィアの戦いにおいて勝利への執着心は大切かもしない。何を甘いことを言っているんだと笑われてしまったとしても、獄寺くんに気付いてほしいのはそんなものではなくて…。
みんなが獄寺くんの名前を呼ぶ。「修業に入る前に教えたことを忘れたのか」とシャマル先生の声が響く。あのときだ、獄寺くんが一番気づかなくてはいけないことに気づいたときのこと。

「っ、ここは死んでも引き下がれねぇ!」
「ふざけるな!」

綱吉くんの大きな声に一気に周りが静まり返る。

「何のために戦ってると思ってるんだよ!」
「……!」
「またみんなで雪合戦するんだ!花火見るんだ!だから戦うんだ、だから強くなるんだ!」

綱吉くんは考えている、いつもと変わらない楽しい日常に帰りたいと。だから守らなければいけない人たちのために修業をしていた。
「おはよう」から始まって「また明日」で一日が平和に終わる日々。綱吉くんはずっとずっと、そのことを考えて眉間にシワを寄せながら祈るように戦っている。
それは戦えない、事情を知らない仲間のためだけじゃない。ここにいる前線で戦っているみんなも含まれているんだ。

「またみんなで笑いたいのに、君が死んだら意味がないじゃないか!」

綱吉くんの悲痛な叫び声と同時に、ハリケーンタービンの爆破によってあたり全てが爆発した。

「獄寺くん!」

嘘だ。モニターが見えなくなった瞬間、絶望の言葉が頭を占めた。やっと、やっと綱吉くんの声が届いたと思ったのに…!
でもリボーンくんの「あそこをみろ」という言葉に弾けるように視線を向けると、ボロボロになりながらも歩いてはその場で倒れる獄寺くんがいた。

「すいません10代目…、リングとられるってのに、花火見たさに戻ってきちまいました…」

生きてた…生きてた…!よかった、獄寺くん…!ヴァリアー側にいるために一目散に駆け出せないことがすごく悔しいけど、最後の最後で命をとってくれたことは獄寺くんにとってとても大きなことになったと思う。


嵐のリングはベルフェゴールさんのものになってしまったため、今回の勝負はベルフェゴールさんの勝ちとなった。そして次の勝負は雨の守護者の対決。

そのあとはいろんな意味で大変だった。途中、学校が壊れまくっていることにご立腹な雲雀さんが現れたのだ。
スクアーロさんと雲雀さんが一触即発な雰囲気だったけど山本くんが素早い動きで雲雀さんを止め、リボーンくんによって機嫌も落ち着いたようだった。
明日は山本くんとスクアーロさん。山本くんも強くなってたけど、スクアーロさんは全く気にもしていないみたいだ。「首を洗って待つがいい!」という言葉を残し、窓ガラスから飛び降りる。飛び降り…、


33.大切なもの

「ど、どこから飛び降りてるんですか!」
「こっちのほうが早ぇーだろうがぁ!」
「学校には出入り口というものが…!」
「めんどくせぇーなテメーはぁ!」
「普通です!」

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