27


いよいよみんなの修業がはじまった。リボーンくんの話では骸さんと戦ったときの綱吉くん…超死ぬ気モードというらしいけど、あのレベルではヴァリアーには勝てないそうだ。あれでもすごく強いと思ってたのに…しかも十日ほどで鍛え上げないといけないなんて。
そういえば雲の守護者は雲雀さんだと聞いた。雲雀さんは確かに強いけど、あの人群れるの嫌いなのに協力してくれるのかな。

そんなことを考えている私は山奥にある崖のふもとに来ている。リボーンくんにここに来いと言われたのだけど、本当に綱吉くんこんなところに来るんだろうか。
すると突然後ろから「うおおお!」という叫び声と共に何かがこちらに走って来るのが見えた。そしてソレは私の目の前の崖をものすごい勢いで登っていく。
…あれって、死ぬ気モードの綱吉くん?その走る姿を目で追っていると死ぬ気モードが終わったのか、今度は悲鳴を上げながら崖から川へと落ちた。

「これじゃあとてもヴァリアーに歯が立ちませんぞ」
「うるさいよ!」

リボーンくん、なんか英国にあるようなスーツを着ている…くるりんとした髭付きでちょっと可愛いかもしれない。
綱吉くんはあと二日でこの絶壁を登れるようにしないといけないらしい。なんて滅茶苦茶なとは思ったけど初代ボスも同じ修業法だったそうだ。
綱吉くんの武器であるグローブは初代ボスと同じということで、初代のやり方を参考に修業をするみたい。そのためにいつでもハイパーになれるように絶壁を登って基礎体力をつけるのだ。…普通に走り込みとかじゃないんだ、もう最初っからクライマックスレベルなんだね。
私は今リボーンくんから聞いた話と綱吉くんの修業内容を手帳に書き込む。初代ボスか…どんな人なんだろう。やっぱりすごく筋肉があって怖い感じのおじ様なのかな…!

休憩することも大切だということで、そのあと綱吉くんはまた死ぬ気モードになって今度は全力で寝てしまった。私は持ってきたバスタオルを寝ている綱吉くんにかける。さっき川に落ちていたし、風邪を引いたら元も子もない。

「おまえは甘ーな亜衣。体調管理なんて初歩の初歩だぞ」
「そ、そうだけど…これくらいはしてあげたいかなって」

私にできることはすごく限られている。修業自体のお手伝いはできないから些細なことでも気付いたらしてあげたい。



「亜衣からみてツナはどうだ?」

焚き火であったまっていると、ふとリボーンくんから問いを投げかけられたので「え?」と首をかしげる。

「弱く見えるか?」
「…うーん、骸さんとの戦いでは強いなって思ったけど、ヴァリアーはもっと強いみたいだし…」

戦闘能力については修業である程度何とかなるかもしれないけど、一番重要なのは綱吉くん自身の気持ちなんじゃないかと思う。そもそも彼には戦う意思がない。やりたくない気持ちの方が強いけど、状況が状況だからやるしかない…今はその狭間で戦っている気がする。
私の考えをリボーンくんに伝えてみたけどリボーンくんは黙ったまま。さっき聞いた話だけど、もしこの戦いに負けたら私たち全員が殺されてしまうらしい。
私たちの命を全部預かって、ボス候補として戦って、綱吉くんは大丈夫なのかな。私と同じ14歳なのになんて重いものを背負っているのだろう。

「亜衣はツナのこと好きか?」
「ぶふ…っ!」

突然の言葉に私は思いっきり吹き出してしまった。と、突然何を言っているの…!

「ツナが好きか?信頼できるか?命預けられるか?」
「……!」
「オレからしたらまだまだダメツナだが、このオレが一年半面倒見てきたんだ。根っからのダメ人間ならオレはここにいねーぞ」

私はゆっくりと頷く。確かに戦う意思はない。でも大切なものを守ろうとする意志は誰よりも強い。骸さんとの戦いがそうだった。
戦いたくなくても自分が守るべきもの、大切にするべきものはちゃんとわかっている。私のことも守ってくれた。綱吉くんは強い。
私の考えていることが伝わったのか、リボーンくんはニヒルに笑った。まるで「安心しろ」と言われているようで私も自然と口元が緩んだ。


しばらくして綱吉くんの目が覚めたあとは日が暮れるまでずっと登る練習だった。もう一日目にして身体はボロボロだ。

「綱吉くん、漂流者みたい」
「顔が笑ってるんだけど!?」

そんな中、頭上から女の子の声がしたためにみんなで上を向くとそこにいたのは縄にぶら下がっているハルちゃんだった。ハルちゃんは綱吉くんが修業していると聞いて差し入れに来たそうだ。

「ハルちゃん、あんな高いところから降りて大丈夫だった?」
「大丈夫かなーと思ったんですけど、全然大丈夫じゃありませんでした!デンジャラスすぎます!」

…顔がすごい怖がっている。そもそもあんな崖を縄で降りようとするその勇気がとてもすごいと思った。
ハルちゃんから差し入れを受け取ったところで「そういえば途中で獄寺さんを見ましたよ」という言葉に私も綱吉くんも驚く。
獄寺くんもここに来てたんだ。そういえば獄寺くんの家庭教師って誰だろうと思ったところで、「一人でしたけど…」というハルちゃんに私たちは疑問を持つ。
どうやら獄寺くんの家庭教師はシャマル先生らしいけど断られたために一人で修業をしているみたいだ。

「オレ見てくる!」
「まちやがれ。おまえはそんなことしてる場合じゃねーぞ」
「そうはいかないよ!獄寺くん無茶するから!」

心配した綱吉くんはリボーンくんの制止の声も聞かずに行ってしまった。

「しかたねーな。亜衣、おまえも行って来い。獄寺の様子も記録しないといけねーしな」

私はコクリと頷く。確かに獄寺くんはすぐに無茶をする。骸さんと戦う前もまだ怪我が全然治っていないにも関わらずあの戦いに参戦していたし…。私も急いで綱吉くんの後を追って走り出した。



「綱吉くん!」

そんなに距離が離れていたわけではなかったのでわりとすぐに後ろ姿を見つけて声をあげた。よかった、この鬱蒼とした森の中で迷子になったらこっちが大変なことになる。

「あれ、亜衣も来たの?」
「うん、獄寺くんの様子も記録しなきゃだから…」

やっと追いついたところで近くから何かが爆発する音が聞こえた。あの爆発って、もしかして獄寺くんのダイナマイト…?私と綱吉くんは顔を見合わせ、一目散にそちらに駆け出す。
それにしてもやっぱり爆発音とかは慣れないな。映画ではよく聞くけど実際だとすごくヒヤッとする。

伸びきった草木をかき分けた先に目的の人物の影が見えた。獄寺くんはやっぱり無茶な修業をしているみたいで全身傷だらけだ。駆け寄ろうとした私たちだったけど「放っておけ」という第三者の声が聞こえた。顔をあげるとそこにいたのはシャマル先生。
なんと獄寺くんにダイナマイトをすすめたのは先生なんだそうだ。

「シャマルって獄寺くんのダイナマイトの師匠なのー!?」
「その言い方はやめろ。弟子をとるならチューさせてくれるプリプリ乙女と決めてんだ。だが亜衣ちゃんならいつでもいいぜ?オレが手取り足取り教えてやる」
「……」
「無言でオレを盾にしないでよ!?」

シャマル先生の言葉にぞわりとした私は即座に綱吉くんの後ろに隠れた。先生は苦笑いしながら「ひでぇなあ〜」と返してくるけどそんなに気にしてなさそうだ。普通にしてたらいい先生らしいんだけどな。
すると綱吉くんの「なんで獄寺くんを拒むんですか?」という質問にシャマル先生はさっきとは打って変わって真面目な顔をする。

「見えちゃいねーからだ」

見える…?疑問に思っていると、獄寺くんが手に持っていたダイナマイトがこぼれ落ち、力尽きた本人はそのまま倒れてしまった。ドガガガッという凄まじい爆発音にヒヤリとした汗が伝う。
けどちょうど大きな穴が空いていたらしく、そこに落ちて無事だった獄寺くんとヘルメットをかぶった男の人がいた。綱吉くんはその人を父さんと呼んでいる。
あの格好、工事現場で働いているんだろうか。なにやら獄寺くんと話しているみたいだけど…。獄寺くんが心配な私と綱吉くんは彼のもとに駆け寄る。

「本当ブザマ極まりねーな、今度そんな無謀なマネしてみろ。いらねー命はオレが摘んでやる」

シャマル先生はとても冷たい目をしていたけど獄寺くんを認めたような、そんな感じがする。綱吉くんのお父さんに何を言われたのかは聞こえなかったけど、これで家庭教師と弟子がそろったのかな…。
ふと獄寺くんに目を向けると、爆発に巻き込まれたせいで身体はボロボロで見るからに痛々しくなっていた。

「獄寺くん…最近私、ボロボロになってる獄寺くんしか、見てない気が、っする…」
「はぁ?…な、何泣きそうな顔してんだよ…!?」

ニット帽の人とのときも、骸さんのところにきたときも、そして今回も。まだみんなと話すようになってから少ししか経ってないのに、彼は怪我してばっかりだ。
痛くて辛いのは獄寺くんのほうなのに私が泣いてどうするんだ…!焦り出す獄寺くんを前に、潤んできた目をゴシゴシと服で拭いてなんとか抑える。私は彼の近くに膝をついた。腕も顔も身体も足もみんな傷だらけ。
綱吉くんの言う通り、この人は本当にいつも無茶をする。痛くないのかな、怖くないのかな。本人は平気そうにしていても、見ているこっちは気が気ではない。もしものことがあっては遅いのだ。
獄寺くんが綱吉くんをとても慕っているように、自分自身のことももっと大事にしてほしいな…。

「…あんまり、無茶しないで、ね」
「……!、おう…」

いろんな気持ちを込めた途切れ途切れな私のお願いに、獄寺くんは静かに答えてくれた。


27.傷だらけの君

「獄寺くん、手当なら私やります…!」
「な!ば…っ!よ、よよよ余計なことすんじゃねー!自分でできる!」
「大丈夫だよ亜衣、オレがやるから!ね?ね?」
「何でそんなに必死なの綱吉くん」

BACK

- ナノ -