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夏特有のむしむしとした気候はだいぶ落ち着き、秋の季節がやってきた。毎日汗だくになって学校へいくことも次第に減る長袖の時期だ。空も快晴、比較的過ごしやすい気温だと思う。
そんな中、良い天気なんて嘘のようにオレの心の中は曇り…いや、大雨かもしれない。ヴァリアーが来る、その言葉だけが今のオレの頭の中を占めていた。
首に下がっているボンゴレリング、これのせいで狙われているなんて。こんなものさっさとヴァリアーとやらにあげてしまいたいくらいだ。こっちは中学生だ、勝てるものか。
でもオレの思いとは裏腹に山本も獄寺くんも修業に励んでしまっているようだ。骸と戦ったときだってみんなあんなに傷だらけになってたのに、なんでまた…。とことんマフィアというものは好きにはなれなかった。そりゃあまあディーノさんとかは良い人だけどさ。

ディーノさんといえば、最近亜衣と一緒に稽古をしていたらしい。亜衣は本当に普通の一般人だったけど、骸との戦いで自分も強くならなければと思って稽古を頼んだそうだ。
正直にいってオレは反対だった。オレのせいで巻き込まれたのに、亜衣が負い目を感じることはないのに。
今思えば亜衣がディーノさんと一緒にいるのは稽古をするためだったけど、彼女の口からディーノさんの名前が出て来るのはなんとなく良い気分じゃなかった。
オレたちがみんな入院したときは学校の後に毎日お見舞いに来てくれたのだ。最初のころはほとんどオレしかお見舞いが叶わない状態だったこともあるけど、毎日来てくれるのは嬉しかった。
もちろん、普通に学校もいっているわけだから申し訳ない気持ちもあるんだけど。

でも稽古を始めてからは当たり前だけどなかなかお見舞いまで手がまわることはない。たった一日、急に来なくなっただけでオレは焦ってしまった。だって稽古してるだなんて言ってくれなかったから…。
何かあったのかなと、大袈裟すぎるくらいそんなことを考えてしまったのだ。なんてオレは心が狭いのだろうと苦笑いするしかなかった。

ここまできて自分の気持ちの変化に気付かないほどオレはダメツナではないと思う。もちろん最初は亜衣のことが気になるのはどうしてだろうと不思議に思ったけど。でも今ならはっきりわかる。亜衣に対するこの気持ちがなんなのか、オレは知ってる。

そこまで考えてヤバイなと思った。これからヴァリアーが来るというのに、何を考えているんだろうか。でも気付いた気持ちを抑えられるほど大人になれるわけもなく。
亜衣がオレの名前を呼ぶたびにドキリとするんだから、重症以外の何物でもない。安心したような緩んだ笑顔をよくみせてくれるたびに脈絡は早くなるばかりだ。いったいオレをどうしたいんだ?

ヴァリアーのことしか頭にないだなんて嘘だ。オレは首を横に振った。だめだだめだ、今きっと顔が赤い。こんな顔じゃリボーンにまたからかわれる。幸い亜衣には気付かれてないと思うからそれだけは救いだ。
オレは火照った顔を冷やすために水道へと向かう。こういうときは冷たい水を飲んで顔を洗うのが一番だ。そう思ってオレは蛇口を捻った。


…確かに顔も洗おうとは思っていたけど、勢いよく出て来た水で髪の毛までずぶ濡れになってしまったオレはやっぱりダメツナなんだろうか。


26.ボンゴレ10代目候補の苦悩

「大丈夫綱吉くん?」と言ってタオルを持って来てくれた亜衣に、オレは恥ずかしくて目を合わせることが出来なかった。

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