25


次の日、私はディーノさんからバジルくんのいる病院に来いと連絡があったために病院に来ていた。私連絡先教えたっけ…と思ったけど、頭にニヒルに笑う赤ちゃんが思いついたので納得する。
早く着いてしまったためにバジルくんの病室で待機していたとき「オレ以外にも指輪配られたのー!?」という声が下から聞こえて来たので一階に移動した。

「あ、やっぱりみんな来てたんだ」
「お!亜衣も来てたんだな」
「うん、ディーノさんに呼ばれて」

山本くんの言葉にそう返したときにちらりと見えたもの…綱吉くん、獄寺くん、山本くんの手には例の指輪があった。獄寺くんのは"嵐のリング"、山本くんのは"雨のリング"。

「なんだ…?天気予報?」
「初代ボンゴレメンバーは個性豊かなメンバーでな、その特徴がリングにも刻まれているんだ」

初代ボスは全てに染まりつつ全てを飲み込み包容する大空…大空のリング。
全てを洗い流す恵みの村雨…雨のリング。
荒々しく吹きあふれる疾風…嵐のリング。
なにものにもとらわれず我が道をいく浮雲…雲のリング。
明るく大空を照らす日輪…晴のリング。
実体のつかめぬ幻影…霧のリング。
激しい一撃を秘めた雷電…雷のリング。

リングにはそれぞれ違う模様が刻まれているみたいだ。リボーンくんの話に綱吉くんと山本くんはリングはいらないという意見だったけど、リングを持っていたらまたあの銀髪の人に狙われるという綱吉くんの言葉に山本くんと獄寺くんは反応する。そしてあれよあれよという内に意見を翻し、10日で修業してくるといい二人とも飛び出してしまった。

「綱吉くんの一声で修業に力をいれるなんてさすがボス…!」
「ボ…!?違うって!オレ別にそんなつもりは!」

綱吉くんと話しているとリボーンくんはパオパオ老師の格好に着替えていた。あ、なんか懐かしいな。これから晴のリングを持っている人が来るみたいなんだけど…。

「パオパオ老師!」

元気よく現れたのは了平先輩だった。了平先輩が晴のリングの持ち主なんだ。…確かにどっぴーかん。
了平先輩はその後にきたコロネロくんというリボーンくんと同じアルコバレーノの赤ちゃんとともに修業にいってしまった。

「そんじゃオレもそろそろ鍛えにいくかな」

この中ではディーノさんが一番大人で頼りになるのだけど、同盟関係の問題で今回は手が出せないらしい。本当に自分たちでなんとかするしかないみたい。

「ディーノさんは誰の家庭教師なんですか?」
「あ、もしかして山本と獄寺くんですか?」
「いいや、さらなる問題児らしいぜ」

獄寺くんと山本くんが問題児扱いなことに苦笑いを浮かべたけど、もっと問題児ってそんな人まわりにいたかな。私がそう考えていると、ふとディーノさんと目が合った。

「亜衣、おまえの方はもう大丈夫だな」
「…まだまだ心配しかないですけど」
「まあなんとかなるだろ!この一ヶ月頑張ってたしな。気になることがあったらまた呼んでくれ」
「はい、ありがとうございました…!」

頭を下げるとよしよしと撫でられ、ディーノさんはそのまま病室を去った。一ヶ月間、私はほぼ毎日ディーノさんと稽古をしていたおかげでいくつか護身術を覚えることも出来た。
その場面にあったときそれが実践で使えるのはまだ試したことはないけど、それでも何も出来ないころと比べると少し成長できた気がする。
基本は記録係としてみんなのことを手帳に書き込んでいく。でもいざというとき私のせいで誰かが傷付いたりするのは嫌だから、少しでもマシな行動ができるように。
顔を上げると何故だか微妙な表情を浮かべている綱吉くんが目に入る。そんな彼に首を傾げていると、珍しく眉をひそめている表情が私をとらえた。

「…ディーノさんが言ってた"この一ヶ月"って何のこと?」

う…そうだよね、私は稽古のことを誰にも伝えていないから…。でももうとりあえずは終わったことだし話しちゃってもいいかな。

「綱吉くんたちが入院している間ね、ディーノさんに稽古をつけてもらってたの」
「稽古?」

私が前に病室で綱吉くんに話したことや、骸さんとの戦いで思ったこと、戦闘は出来なくても護身術を学べばみんなの足を引っ張らなくなるかもしれないことなど全てを話した。相変わらず綱吉くんの複雑そうで微妙な表情は変わらなかったけど。

「そっか、それでリボーンにディーノさんのこと聞いてたんだ」
「うん、稽古のこと言ったら止められると思って…」
「多分、止めてたと思う」

やっぱり…!私の感は間違っていなかった。

「ただでさえ戦えなくて足手まといだから、せめて少しでも自分の身を守れないかなと思ってディーノさんに頼んだの」

最初は体力がなくて本当に苦労したけど、毎日夜に少しだけ腹筋とかして鍛えていたら最終的にはマシなくらいにはなったのだ。護身術自体もいくつかは覚えたし、これでもし掴まれたりしてもなんとか怯ませるくらいはできると思う。
あとはそこから逃げ切れるかが問題になってくるけど、今回のこの稽古は私にとって絶対に重要な経験なんだ。
頑張りましたという意味を込めて伝えてみたけど、綱吉くんの表情は変わらずちょっと眉間にシワがよっている。あれ、もしかして余計困らせてる…?
不安になっていると綱吉くんは突然私の左手を握ってきた。

「いっ…!」
「あっ、ごめん!」

ズキンという痛みが左手首に走り、思わずギュッと目を瞑る。慌てた綱吉くんはさっきよりもっと優しめに私の手に触れた。

「…やっぱり、左手首痛めてたんだね」
「な、なんでわかったの…?」
「うーん、何となく?」

綱吉くん自身も首を傾げている。もしかしてこういうのも超直感というのが働いたのかな。私のこの左手首は稽古をしている最中に変に捻ってしまったらしい。骸さんのときからは肌身離さず万年筆は持っていたけど、さすがに稽古のときは置いてきたので怪我を負ってしまったのだ。
一応ロマーリオさんに手当てしてもらってあるし、軽い方だと言われたので近いうちに治ると思う。だから黙っていたんだけど…。

「…あんまり無茶はしないでね」
「…うん」
「オレとかみんなのこととか心配してくれるのは嬉しいんだけど、オレだって亜衣のこと心配だよ」
「ご、ごめん…なさい…?」

曖昧にそう謝ると、綱吉くんは困った顔で少しだけ笑ってくれた。そして私の左手を痛くならない程度に握っては小さくため息をついた。

「どうしたの?」
「…ううん。亜衣も獄寺くんたちも修業頑張ってるからオレもやらなくちゃいけないんだなって思うとね」
「相手は暗殺部隊なんだよね」
「そうだよ、オレたち普通の中学生が勝てるわけないのに…」

中学生と大人では体格が違う、経験の差だって圧倒的。それでも待っているだけではそのうち殺られてしまうのも時間の問題。その恐怖は尋常ではないんだ。
項垂れている綱吉くんの頭を私は優しく撫でる。ディーノさんに頭を撫でられたときに思ったけど、こうされるとなんだかあったかくなって落ち着くのだ。

「こう言うとき何て言えばいいのかわからないんだけど、とにかくたくさんもがくしかないんじゃないかなって」
「え…?」
「敵が来るのはわかっているから、だったらそれまで出来ることを精一杯やるしかないと思うの。山本くんたちも頑張ってるから私たちも一緒に頑張らない…?」

握られていた左手に私は自分の右手を重ねながらそう言うと、綱吉くんは迷った顔をしたものの少しだけ笑みを浮かべてくれた。

「…おい、いつまでイチャついてやがんだ」

突然のリボーンくんの声に私たちはハッとする。ずっと声がしなかったからてっきりどこかに行ったのだと思ってた。

「な、何言ってんだよ!イチャついてなんか…!」
「じゃあその手は何だ?」

二人して「えっ!」と声を上げ改めて今の状況を見る。左手を綱吉くんに握られて、その上から私が右手を重ねている状態。それに気付いてお互い真っ赤になりパッと手を離す。
真面目な話をしていたから全然気にしていなかったけど、やっぱり変だったのかな…!徐々に顔が火照っていくのがわかった。
リボーンくんにはニヤニヤされるし、綱吉くんとは目を合わせづらいし。今までも私は綱吉くんが原因で顔が熱くなることは何度かあったけど、気のせいだと思ってあんまり気にしないようにしていた。

でもこれって…やっぱりそういうことなの、かな…!どうしよう、これからみんなで修業してヴァリアーを迎え撃つってときに自分の気持ちに気付いちゃって、こんなことに時間をさいてる場合じゃないのに…!
気付いてから抑えるなんて無理だった。考えれば考えるほどこの気持ちはどんどん膨れ上がっていくのだ。でもとにかく今は何としても抑えるしかない。これから危険なことに足を突っ込むのだから、なんとかして頭を冷やさなきゃ…!


25.華開く想い

「わ、わわ私っ…ちょっと今から飛び降りて…」
「待って!?今聞き捨てならない言葉が聞こえたよ!?」
「わわ…手離して!お願い察して綱吉くん…!」
「何を!?何を察すればいいのオレ!」
「おい、おめーら修業はどうした」

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