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綱吉くんのお見舞いに行ってリボーンくんに手帳を渡してから一週間が経った。綱吉くんのお見舞いはこの一週間でちょくちょくいっている。
平日は私はもちろん学校にいっているけど、みんながいない学校生活はなんだか静かで寂しく感じるようになってしまったので、時間のあるときはお見舞いにいってお話するようにしている。
今日はそろそろみんなとも面会できるころらしいので、お花と果物を持って病院にきている。獄寺くんたちはみんな同じ病室らしいので移動の手間がない。…でもやっぱり雲雀さんは別室みたい。


「失礼します、お見舞いにきました」
「あら亜衣、来てくれたの」
「亜衣姉ーひさしぶりー!」

ビアンキさんとフゥ太くんが自分のベッドから声をかけてくれた。二人ともとりあえずは元気そうかな。ビアンキさんがゴーグルをしたままなのが気になったけど、そういえば獄寺くんも同じ病室だからかと納得した。

「ビアンキさん、怪我は大丈夫ですか…?」
「私はほとんど平気よ、怪我自体少ないの」
「そうなんですね、良かったです!」

そうだ、ビアンキさんの怪我はフゥ太くんによってできたものだったんだっけ。フゥ太くんが自分で気づいているのかはわからないけど、彼は彼でマインドコントロールによって精神的にやられていた状態だったんだよね。

「フゥ太くんは大丈夫?」
「うん!僕はもう少しで退院できるって!」
「そっか、じゃああと少しの辛抱だね」

フゥ太くんの頭を優しく撫でると、「えへへ…」と笑って少しくすぐったそうにしていた。二人とも順調に回復してきているみたいでよかった。

「よ!来てくれたんだな亜衣」

奥のベッドには山本くんと獄寺くんがいて、私がそちらにいくと山本くんは軽く手をあげてくれた。

「山本くん、酷い怪我だって聞いたんだけど…」
「ああ、でもなんとか大丈夫だったぜ」

山本くんは鋼球をモロに食らったとリボーンくんに聞いた。そんな普通じゃ考えられないような衝撃を受けたらただでは済まないと思う。それでもこうやって回復してきて笑顔を見せてくれて。強いんだなあ山本くんは…と私は少し口元を緩めた。

そして私は最後に獄寺くんに目を向ける。この病室で一番重症なのは獄寺くんだ。最初のニット帽の男の子との戦闘の傷が癒えていないにも関わらず、またさらに怪我を増やしているから。そんなことを続けていたらいくら何でも身体が持たない。

「…無事で良かった、獄寺くん」
「当たり前だ、てめーに心配される筋合いはねーよ」

あちこちに巻かれている包帯はとても痛々しかった。まだ大きな声で話すことはできないらしく、いつものような元気な声ではない。強がってはいるけど痛くないわけがないんだ。
でもみんな思ったより元気そうで本当によかった。この怪我の酷さが色々と物語っている。最後は骸さんに無理矢理身体を動かされていたんだ、考えるだけでもぞくりと寒気がする。

「あ、そうだ。雲雀さんてどこの病室かわかる?」

群れるのが嫌いな雲雀さんはもちろん別室でさらに一人部屋。一人で先に骸さんのところに行ってしまって、骸さんが憑依しても動かせないほどにダメージを受けてしまった雲雀さんの身体は限界を超えていた。
それでもだいぶ回復してきたみたいなので様子見くらいはいこうと考えていたのだ。残念ながら獄寺くんには「はぁ?オレが知るかよ」と突っぱねられてしまったけど、山本くんが知っていたのでその場所を教えてもらい私は病室をあとにしてそちらに向かった。



「…失礼します」

雲雀さんの病室は獄寺くんたちより一つ上の階で、一番奥の部屋。おそるおそるドアを開けると雲雀さんの静かな寝息が聞こえてきた。確か木の葉が落ちる音でも起きるんだっけ?
ゆっくりゆっくり近付いてみる。布団で身体までは見えないけど頭には包帯、顔にも治療のあとがあり、とてもじゃないけどこれで回復しているとはあまり思えなかった。
まだ目が覚めていないのかな。そんなことを思いつつ眉を下げていると、突然閉じられていた目がパチリと開かれた。
お、起きた…!う、うわどうしよう、物音は立ててないはずだけど悪いことをしてしまったかもしれない…!

「ご、ごめんなさい起こしちゃって。うるさかったですか…?」
「音を立てなくてもこれだけ近かったら気配でわかるよ」

…さすがです。雲雀さんはまだ傷が癒えていないというのにゆっくりと起き上がろうとしたために、私は慌ててそれを止めた。
「僕に命令するの?」と言いながらギロリと睨みつけられてしまったけど、でも雲雀さんの怪我は一週間ぽっちで治るものじゃない。
無理に立ち上がろうとベッドから降りる雲雀さん。でもやっぱり傷が響くのか、顔を少し歪めてはまたベッドに沈んだ。

「雲雀さん、お見舞い品を持ってきたんですけど、食べませんか?」

今日持ってきたのはリンゴ。病院の人にいって果物ナイフも借りているから剥いてあげることもできる。雲雀さんはとくに何も言わなかったけど、否定しないということは食べるということでいいのかな。
ナイフでスルスルと皮をむいていく。せっかくだからウサギの形にしようかなと思い、一部皮も残した。それらをこれまた借りてきた白いお皿に盛り付けて渡すと、すんなりと受け取ってくれた。

最初はすごく怖くて近付くことすらできなかったけど、最近は多少怖いのはあるけど前よりは普通に話せるようになった気がする。
サクッという咀嚼音だけが病室に響く。私たちの間に会話なんてないけど、そんなに苦ではなかった。よかった、食べてくれている。

「…何?そんなに見られると食べづらいんだけど」
「あ、ご、ごめんなさい…!」

慌てて私は視線を別の場所に向ける。雲雀さんがあんまりにも素直に行動するから物珍しくジロジロと見てしまった。
しばらくした後、フォークをカチャリとお皿に置く音が聞こえそちらに視線を戻すと、お皿の上には何も乗っていなかった。

「…美味しかったですか?」
「普通の味だね」

まあ確かにそうなんだけども。自分が作ったわけではないけど、自分で選んで家から持ってきたものではあるから口に合うかどうかはやっぱり気になる。でもたくさん切ったのに雲雀さんは全て食べてくれた。
思えば屋上で会ったときも私のノートを褒めてくれたし、怪我をしたときは綱吉くんを呼んでくれたし、お祭りのときは手の怪我に気付いてくれた。
口にしないだけで、本当はすごくいい人なのかもしれない。私はなんだか嬉しくなって顔を綻ばせていると雲雀さんには怪訝な顔をされた。


雲雀さんの病室から出て、ふうと息を吐く。まだほっこりして嬉しい気持ちがおさまっていない。

「…あれ、亜衣?」

横から声がしたと思ってそちらに目を向けると、綱吉くんが手すりにつかまりながらこちらに向かって歩いていた。歩いて平気なのかと聞くと、リハビリのためにこうやってあちこち歩いているそうだ。

「こんなところで何してるの?」
「雲雀さんのお見舞いをしてたの」
「ヒバリさんの!?え、ここヒバリさんの病室?」

驚いている綱吉くんに私が頷くと「ヒイイィ!」と言いながら青ざめていた。とりあえずここで話すとうるさくなってしまうので場所を移動した。

「大丈夫だった?何もされてないとは思うけど…」
「うん、大丈夫だよ。お見舞い用に持ってきてたリンゴをあげてきました」

今さっきの出来事を話すと、綱吉くんは予想通りすごく驚いてくれた。とても貴重な体験をしたかもしれない。ずっと怖いイメージだった雲雀さんの改めて新しい一面に気付くことが出来たのだから。

「…あれ?そういえばヒバリさんて大部屋?」
「ううん、個室だったよ」
「え…!」

話を変えた綱吉くんの質問に私がそう答えると、何故かショックを受けたような顔をしていた。どうしたんだろう…?

「もしかして綱吉くんも個室がよかったの?」
「え!?いや、そういうわけじゃなくて!」

個室の方が静かだしゆっくりできるからてっきりそうだと思ったんだけど違ったみたいだ。歯切れの悪い綱吉くんだけど、どうしてそんな顔をしたのかは教えてくれなかった。


21.思わぬ伏兵

(だって個室って二人っきりってことじゃん!)

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