18


綱吉くんと骸さんの戦いがはじまった。死ぬ気モードになっていないままだけど、大丈夫なのかな…。
骸さんは六道輪廻、六道すべての冥界を廻った記憶があり、六つの戦闘能力を持っているらしい。その説明を聞いても一度では理解出来ず、まるでファンタジー世界を覗いているような気分だ。
骸さんはマフィアじゃないみたいだけど、私が想像してるマフィア像とはかけ離れている能力だ。

骸さんの右目の数字が一に変わると、その瞬間に綱吉くんたちのまわりの地面が派手に崩れ出した。地面が無くなっていき慌て出す綱吉くんにリボーンくんがこれは幻覚だと教え、はたき落す。り、リボーンくん容赦ない…。
第一の道は地獄道といい、永遠の悪夢により精神を破壊する能力。私を閉じ込めていた檻を出現させたときも目の数字は"一"だった…ということはあれも幻覚だったんだ。
色々な戦闘能力を見せつけられどう戦えばいいのかと焦ったとき、フラフラとした足取りでこの部屋に現れたのは傷だらけの雲雀さんと獄寺くんだった。よかった、みんな無事だったんだ…!
骸さんが戦っている今、私は動いても問題ないと思い急いで獄寺くんに駆け寄る。

「獄寺くん大丈夫!?すごい傷だらけ…」
「ああ、大丈夫だ…つか、おまえどこいってやがったんだ…!急にいなくなっちまって」
「あ、え…っと、…迷子になって骸さんに捕まってました」
「はぁ!?馬鹿かてめーは!」
「ごごごめんなさい…!」

や、やっぱり怒られた…!突然非戦闘員の人がいなくなったらそりゃあ何事だって思うよね、本当にごめんなさい!
罪悪感で申し訳なくて必死に謝っていると、隣で雲雀さんがゆっくりと立ち上がるのがみえた。え、その傷で戦うの…!?

「雲雀さん、その傷じゃ…!」
「…うるさい。僕は今機嫌が悪いんだ」

傷の痛みで顔をしかめつつも、その視線の先はただひとつだけ。そう言われてしまっては何も言い返すことができなかった。
雲雀さんはおぼつかない足取りで骸さんへと向かっていく。無茶だと思ったはずなのにさすが雲雀さんというべきか骸さんの身体に二撃入れ、あっという間に決着がついてしまった。

「ついにやったな」
「お、終わったんだ…!」

重症な雲雀さんは倒れてしまったけど、ボンゴレの医療チームが来るらしいのでとりあえず安心だ。長かったけどやっと終わったんだ。一気に緊張が途切れ、力の行き場を失った足が小刻みに震えた。

「綱吉くん!」
「亜衣、大丈夫だった?何もされてない?」
「うん、大丈夫だよ」

檻に入れられたりしたけど、無事ではあるのであんまり言わない方がいいかもしれない。

「医療チームの人たちまだかな?」
「そうだね、どのくらいでくるんだろう」

なかなか来ないその人たちに疑問を持っていると、「その医療チームは不要ですよ」という声が聞こえ、私たちは一瞬息が止まりつつもそちらに顔を向けた。骸さんは傷だらけになりながらも起き上がっており、その手には銃が握られていた。

「何故なら生存者はいなくなるからです」

いなくなるって、どういう…?変わらず静かに口元を緩めたあと、骸さんは自分のこめかみに銃口を当てた。…な、にして、!

「Arrivederci」

ズガンという耳を劈く音とともに何かが地面に倒れる音が聞こえた。目を開けているのに真っ暗で何もみえない。それは咄嗟に綱吉くんが私の目を手で覆ったから。

「綱吉くん…、」
「まだ駄目だよ!」

肩を押してくるりと後ろを向かされると綱吉くんは手を離してくれた。銃口をこめかみに当てて、そしてあの発砲した音。手で隠されたために見えなかったけど何があったのかはだいたい想像がつく。
綱吉くんは私に見せないようにしてくれたんだ、あんな一瞬の出来事なのに。
これで終わった、誰もがそう思い疑わなかった。みんなの無事を確かめようとそちらに目を向けた時、タイミングよくビアンキさんが立ち上がる。よかった、ビアンキさんも怪我は負っているけど大丈夫そう…とホッとしたところで、突然彼女は弟である獄寺くんの顔に傷を負わせたのだ。

「また会えましたね」

ゆらりと体勢を整えこちらに向けたその右目には骸さんと同じく"六"という数字が刻まれていた。え、なんで?ビアンキさんの目が…!
彼女だけではなく、今度は獄寺くんの右目にも"六"の文字が刻まれ、綱吉くんに攻撃を仕掛ける。これは何、骸さんがなにかしている…?

「間違いねーな、自殺と見せかけて撃ったのはあの弾だ。…憑依弾は禁弾のはずだぞ、どこで手に入れやがった」

リボーンくんの話によると、憑依弾とは肉体に取り憑いて自在に操るもので、エストラーネオファミリーが開発したらしいけど使用方法が酷すぎたために禁止された弾。

「操るのではなくのっとるのです、頭のてっぺんからつま先までね。つまりこの体は僕のものだ」

そういいながら獄寺くんは自分の首を爪で傷つけ、その箇所からは真っ赤な血が一筋、首を伝って流れ落ちる。
見た目は獄寺くんでも中身は骸さんなんだ。その赤い右目が何よりの証拠だし、獄寺くんはこんなふうに不気味に笑わない。

「次は君に憑依する番ですよ、ボンゴレ10代目」
「え、お、オレ!?」
「若きマフィアのボスを手中に納めてから僕の復讐は始まる」

ピリピリとした緊張感が溢れる中で「あの剣で傷つけられると憑依を許すことになるぞ」というリボーンくんの言葉に私は納得した。
だからフゥ太くんに刺されたビアンキさんや、ビアンキさんに刺された獄寺くんが憑依されているんだ。

「…と、その前に」

獄寺くんは私の方に向いてニコリと笑った。普段とは全く違う気味の悪い笑みにぞくりとした震えが全身を駆け巡る。

「亜衣、君にも憑依しておきましょうか」
「え、な、んで…」
「数は多い方がいいでしょう。…それに、君はボンゴレ10代目にとって弱点の存在みたいですしね」

弱点…?戦えないからボンゴレにとっての弱点っていうことならそうだけど…。

「ま、待って!亜衣にまで手を出すなよ!」
「そんなに焦らなくても君もすぐに僕に憑依されますよ」

ビクビクしながらも私の前にでてかばってくれた綱吉くんだけど、憑依された獄寺くんはそんなことは気にもしないでくつくつと喉を震わせている。
そして、一瞬だった。突然前から獄寺くんがいなくなり、得体の知れない恐怖が一気に溢れ出す。

「、っ亜衣!」

ずくり、と心臓が嫌な音をたてる。その切っ先がいったいどこに向かっているのか私では検討もつかず、ただその場に震えながら立ちつくすしか選択肢が無かった。


18.おもちゃになって

ひゅっと、僅かに息を飲む音しか聞こえない。

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