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「なー、ちょー可愛くね?」
「雑誌モデルかな?声かける?」

あちこちでヒソヒソと聞こえる声はもちろん私に向けられているわけじゃない。私の隣にいる京子ちゃんとハルちゃんだ。
今日はみんなで海水浴に来ている。天気も快晴だし、泳ぐにはちょうどいい気候だ。そして何故ヒソヒソ声がするのかというと、それは京子ちゃんたちが水着だからである。

「あれ?亜衣ちゃんはパーカーも着てるんですか?」
「大丈夫?暑くない?」
「うん、大丈夫。日焼け対策です」

嘘ではないんだけど、こんな可愛い子二人のとなりに堂々と並んで歩ける自信がありません…!
綱吉くんたちのところにいったとき、綱吉くんは顔を赤くしていた。そりゃあ男の子からしたら悩殺ものだよね。

「…亜衣はずっとパーカー着たままなの?」
「うん。前しめてフードかぶってサングラスとマスク着用して完璧な日焼け対策」
「どう見ても不審者だろ!?」

酷い言われようだ。

そういえば、この海水浴には京子ちゃんのお兄さんである了平先輩が泊まり込みできているらしい。ちなみに私が名前呼びしているのは、京子ちゃんと遊んでいたときに偶然出会い、苗字で呼んだら妹と混ざって紛らわしいと言われたためである。
みんなで海だーと盛り上がっていると、了平先輩とライフセイバーの人たちがやってきた。…あれほんとにライフセイバー?
疑問に思っていると突然京子ちゃんとハルちゃんを捕まえてナンパし始めたために、私は目を丸くした。

「あれ、もう一人女の子いたんだ」

ライフセイバーのうちの一人がこちらに振り返り、頭の上から足の先までジロジロ見られたために、居心地の悪さを感じる。

「…うーん、まあよく見れば可愛くないわけでもないけど、オレ好みじゃねーわ」

ここまで人に怒りが込み上げたのは初めてだ。どうして初対面の人に顔のことでそんなこと言われなくちゃいけないの。

「まてよ」
「てめーらの仕事するスジはねーぞ」

そんな中、京子ちゃんたちと遊んでる間に仕事やっとけと投げかけられたことに対して山本くんと獄寺くんが反論した。当然意見の一致しない両者となるわけで、ライフセイバーの人たちがフェアにスイム勝負を仕掛けてきたのだけど。
ルールは向こう側に見えるたんこぶ岩を泳いでまわってくること。泳法は自由で二本先取したほうが勝ち。妙なことになっちゃったな…。

「ねえリボーンくん」
「オレはパオパオ老師だぞ」
「えっと…パオパオ老師、綱吉くん大丈夫かな?泳げないって聞いたんだけど」
「さあな、だが面白そーじゃねーか」

ああ、ダメだこの子…顔が笑ってるもの。そんなこと言っている間に第一泳者がスタートした。一番手の山本くんは運動神経良さそうだし、とくに問題はなさそうだ。でもそう上手くはいかないらしい。

「あれ!?山本が帰ってこない!」
「嘘、なんで?ライフセイバーの人よりも早く泳いでたのに…」

他のライフセイバーの人が「足でもつったんじゃね?」といってくるがそんな都合よく足をつったりするのかな。それにすごく嫌な笑い方をしている。
でも二番手の獄寺くんにも同じことが起きた。あの岩までいったのに山本くんと同じく帰ってこない。
おかしい、絶対におかしい。そう思っても二本先取で向こうの勝ちになってしまった。
でも何故か大サービスということで、綱吉くんが勝てばこっちの勝ちにしていいと提案してきたのだ。一体何を企んでいるの…、二人は無事なのかな。

「綱吉くん、大丈夫?」
「だ、大丈夫じゃないよ…ぶっつけでオレ泳げるのかな…」
「…私は泳がないから無責任なことしかいえないけど、頑張ってね」
「!…ありがとう」

青い顔で少し震えているみたいだけど、その声だけはしっかりとしていた。そして第三泳者がスタートとしてからすぐのことだ。

「誰かー!うちの子を助けてー!」

近くで女の人が叫ぶ声が聞こえた。私は驚いて海の方をみると、小さな女の子が溺れてるのがみえる。流されてるんだ…!
ただ、その場所は流れが強くて危険なところ。それなのにライフセイバーの人たちは女の子のことは気にせずに泳ぎ続けている。なんて酷い人たち、人命救助が最優先のはずなのに。

でも綱吉くんは違った。自分だって泳ぐのがやっとな状態のはずなのに、一生懸命女の子を助けようとしているのだ。沖にいる人たちは「無茶だ!」といってザワザワしている。確かに危ない、私も二人とも溺れてしまわないかすごく心配だった。
…あれ?そういえば、いつの間にかリボーンくんがいない。きょろきょろとあたりを見渡してみると、女の子のもとにたどり着いた綱吉くんが死ぬ気の状態になるのが見えた。リボーンくん、あっちにいってたんだ。
ホッとしたのも束の間、「岩陰には後輩がたくさんいる」といってきたライフセイバーの人たち。やっぱり仲間がいたんだ。じゃあ山本くんと獄寺くんは…。

「後輩ってのはこいつらのことか?」

みんなが、え?と思って振り返ると、そこには獄寺くんと山本くんが立っており、地面にはボコボコにやられているライフセイバーの後輩たちが折り重なるようにして倒れていた。

「よ、よかった…獄寺くんたち無事だったんだね…!」
「ったりめーだろ!オレがこんなやつらに負けるかよ」
「まっ、驚きはしたけどな!」

二人ともすっごく強い、本当に何もなくてよかった。後に勝負をしていたライフセイバーの人たちにも制裁をということで、獄寺くんたちがまたボコボコにしていた。
喧嘩を見るのは苦手だけど、あんなに卑怯なことをされたこともあるので少しスッキリした気分になる。…それでもやっぱりちょっと怖いけど。

「すごいね、獄寺くん。あっという間に解決しちゃった」
「ああ、こいつらのやり方にはイラついてたからよ。…おまえもこいつらに絡まれてたろ、大丈夫だったのか?」

それってさっきのことだよね。あんな失礼なことを言われてものすごく怒りが込み上げてきてたけど、話しかけられただけだから問題はない。それに獄寺くんたちのおかげで無事にみんな助かったんだもの。

「私は大丈夫、獄寺くんたちがやっつけてくれたから」
「…そうか、ならいいけどよ」

心配、してくれたのかな?そう思って「ありがとう」とお礼をいうと、少し驚いた顔をしたあとにやっぱりそっぽを向かれた。綱吉くんと同じで獄寺くんも褒められ慣れてないのかな。
そんな会話をしていると、綱吉くんが助けた女の子を連れて戻ってきた。よかった、二人とも無事だ…!

「大丈夫だった?」
「亜衣…うん、大丈夫。途中で死ぬ気になって助けたから女の子はそれがオレだってわかってなかったけど」

いつもの綱吉くんと死ぬ気のときの顔、表情が全然違うもんね。私も初めて見たときはすごく驚いたのを覚えている。

「でも無事でよかった。泳げないっていってたけど、頼もしかったよ綱吉くん」
「え!?そ、そう、かな…」

また少し顔が赤くなる綱吉くん。何故だかこうやって照れてしまう綱吉くんが可愛く見えて、私はとてもあったかい気持ちになる。なんだろう…?

「じゃあ今日のことも帰ったらあの手帳に書かなきゃ!」
「ええっ!?こういうのも書いてるの!?」
「リボーンくんに日記みたいに書けばいいっていわれたから、何でもないこととかも書くようにしてるけど」
「は、恥ずかしいよ!いいよ書かなくて!」

首を横に振りながら拒否されたけど、これはリボーンくんから頼まれたお仕事だから勝手にやめるわけにはいかない。ごめんね、いくらボスの頼みでもお仕事なんです…!


12.海水浴で大騒ぎ

「亜衣ちゃん、向こうにアイス売ってたんだけどみんなでいかない?」
「いく!アイス食べたい!」
「はいはい!ハルもアイス食べたいです!」
「あ!ちょっと待って亜衣!お願い考え直してー!」

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