09


オレには好きな人がいる。同じクラスの笹川京子ちゃんだ。男女ともに人気があって、学校内のアイドルって呼ばれてるほど可愛い。
オレもたまに話したりするけど、時折見せる笑顔とかもうほんとに可愛い。可愛くて優しくて友達思いでもう完璧な子。
オレの好きな人で憧れの人でもある。隣にいたいなんてそんなおこがましいことを考えないわけじゃないけど、オレは見れるだけでも幸せだった。

そんなとき、オレはとある女の子と話す機会があった。名前は桐野亜衣さん。京子ちゃんと黒川と仲の良い子だ。特に目立つ子ではなかった。京子ちゃんとはたまに話すけど、その子とはほとんど会話したことがない。
けど、彼女がリボーンと話してたのをみてオレから声をかけたんだ。


それからというもの、オレや獄寺くん、山本は桐野さんと一緒にお昼を食べることが増えた。といってもほぼ勉強するためだけど。
桐野さんはノートをとるのが好きらしくて、オレも見せてもらったけどすごくわかりやすかった。
オレはダメツナなんて呼ばれてるほどに頭も悪いけど、このノートはオレでもちゃんとわかるくらい綺麗にまとめられていた。本人は謙遜しているけど頭の良い子、オレの印象はそんな感じだった。

けどそこにリボーンが目をつけてボンゴレに入れようとしたときは焦った。あいつは気に入ったらすぐファミリーに入れようとするからなあ。
それでもオレが止めたところで意味もなく桐野さんはボンゴレに関わってしまったのだけど。全く、守るのはオレたちなんだからな!


最初は何とも思っていなかった。勉強ができてオレにも優しくしてくれる子。けど気付いたらよく一緒にいるようになって、ボンゴレ関係者だからというのもあると思うけど少し気になる存在になっていた。
おかしい、だってオレの好きな人は京子ちゃんなんだよ?なんでかな?

そんなときに課題を持ってオレの家に来た桐野さん…あ、いや、このときはもう名前で呼んでたっけ。
少し話をしていたら突然オレのことを優しいっていってきた。優しいって言われるだけなら褒められてるってことでそんなに気にしなかったのに、亜衣の言い方はオレを口説いているような…とにかくすごく恥ずかしかった。
普通逆だろ!何でオレが口説かれてるんだよと思わずにはいられなかった。しかも無自覚ときた。なんて厄介なんだ。

さらに追い打ちをかけるようにオレと話しているのが楽しいとも言われた。さっきのことがあるからそんな些細なことでも意識せざるを得ない。あーもう!山本並の天然はいってるんじゃないのか!?

そんな感じで始終真っ赤だったと思うオレだけど、一つだけひっかかることがあった。楽しいといってくれるわりにはオレのことは未だに苗字呼びだ。
そういえば亜衣は大体の人のことは苗字で呼んでいる。友達の京子ちゃんたちは別だけど。
オレは少し壁を感じた。最初は山本の提案がきっかけだけど、オレは名前で呼んでいる。まだ正式にファミリーに入ったわけじゃないけど、亜衣だってボンゴレの関係者なんだ。
これからもたくさん関わることがあるはずなのに、いつまでも他人行儀な呼び方なのは何となく嫌だと思ってしまった。本当にオレ、どうしちゃったんだ?

「綱吉くん」と呼ばれたとき、ドキッとしたのが自分でもわかった。京子ちゃんにだってオレはあだ名で呼ばれている。というよりオレを名前で呼ぶ人なんて覚えてる中じゃいないはず。
てっきりあだ名で呼ぶんだと思っていたから構えるのが遅かった。オレは必死に顔が赤くなるのを抑える。…気付かれてない、よな?
リボーンにも色気付いてるなんて言われる始末。わかってるよそのくらい!


オレの好きな人は京子ちゃんだ。可愛くて優しくて憧れの人で…、憧れ、なのかな。手が届かなくて高嶺の花のような人。

…じゃあ、亜衣は?


09.追いつかない思考

「綱吉くん、どうしたの?顔真っ赤だよ」
「え、ええ!?いや、これはっ、!」
「食べ頃のタコみたい」
「どっからその箸もってきたんだよ!?」

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