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いよいよ最終戦…昨日起こったことも全て手帳に記録し、万年筆も持って万全の状態で学校へと向かう。
すでにXANXUSさんも綱吉くんも到着していた。そしてクロームさんや珍しく雲雀さん、ランボくんまでもが集まっている。どうやら守護者は全員集まるように言われていたようだ。
それはヴァリアー側も同じようで、マーモンくんやルッスーリアさんも来ていた。よかった、あんな大きな怪我をしていたけど生きていたんだ。でもスクアーロさんがいない。ボンゴレの力でも見つけられなかったってこと…?

今回の大空戦は今までとは違い、守護者全員の命がかかっているというチェルベッロさんの言葉に疑問を持った。戦うのは綱吉くんだけのはずだけど…。
そしてフィールドは学校全体。守護者にはモニター付きのリストバンドが配られた。観覧席には大型ディスプレイがあるのになぜわざわざリストバンドを配ったのか。
その疑問は各守護者戦が行われたフィールドにそれぞれ移動してくださいという説明に納得した。どうやら、綱吉くんたち以外もただ見ているだけではなさそう。

みんながそれぞれの場所に移動すると、そこにはポールが立てられていた。その頂上にはフィールドと同じ種類のリングが置いてあるらしい。奪い合えってことなんだろうか。けど次の瞬間、ディスプレイに映ったみんなは突然苦悶の表情を浮かべたために私は息を呑む。

「ただいま守護者全員にリストバンドに内蔵されていた毒が注入されました」

チェルベッロさんの言葉にヒュッと乾いた空気が喉を鳴らす。この毒は30分で絶命する、でも守護者のしているリストバンドに同類のリングを差し込めば解毒剤が注入されるようになっているらしい。
そして大空戦の勝利条件はボンゴレリング全てを手に入れなくてはならない。それなら、はやくしないとみんなが…!
そう思ったとき、何かが勢いよく私の目の前を吹き飛んでいき、軽く当たってしまったのか私はそのまま尻餅をついてしまった。

「亜衣ちゃん!大丈夫か!?」

近くにいたシャマル先生が駆け寄ってきたが私には何が何だかわからない。

「い、今のは?」
「ああ、XANXUSの奴に吹っ飛ばされちまった」

シャマル先生の視線の先に目を向けると校舎に大きな穴が空いていた。ガラガラと音を立てて出てきたのは綱吉くん。いきなり手を出されて無事だったのかとハラハラしたが、そこはさすがリボーンくんの腕のおかげなのか綱吉くんはすでにハイパーモードに切り替わっていた。
いよいよ、始まる…。チェルベッロさんに観覧席に案内されその直後に試合が開始された。

まずは綱吉くんから攻撃を仕掛けるがXANXUSさんは物ともせず全て受け止める。そして炎の使い方も、圧倒的に綱吉くんを上回っていてXANXUSさんの放った炎は鉄筋の校舎を風化してしまったのだ。威力が桁違い…。
XANXUSさんのは"憤怒の炎"と呼ぶらしい。極めて珍しい光球の炎で、圧倒的な破壊力を持っている、そして2代目だけがこの炎だったそうだ。

「試してみるか?貴様の炎とオレの炎、どちらが強いかを」

圧倒的な差を見せつけられても綱吉くんは怯むことなくむしろ自信ありげだ。そんな綱吉くんにXANXUSさんは笑い飛ばすが、衝突した二人は綱吉くんが殴ったことでXANXUSさんが吹き飛ばされると言う結果に終わる。
さっきまであんなに差があったのに、これも修業の成果なんだ。私は祈るようにギュッと自分の手に力を込めた。勝ってほしい、綱吉くんに。

みんなが毒で苦しんでいる、争いごとが嫌いな綱吉くんがみんなを守るために戦っている、そんな中私はこうやってディスプレイを眺めているだけ。記録係の私はこの戦いをしっかり見届けて手帳に残さなければならない。
目をそらしてはいけない、でもみんなが傷付くたびに自分は無力だということを思い知らされているような気もする。最初の了平先輩の戦いのときからそれはひしひしと感じてきた。
私は戦えない。みんなが苦しんでても代わりに戦ってあげることができない。自己防衛用の万年筆を貰って、自分は安全な場所でただ待っているだけ。信じて待つとは言ったけど、待っていることがこんなにも苦しくて歯がゆい。
どうして私には戦う力が無いの?どうして私には守る力もないの?私だって、私にだって…。でも、 そんな高望みをしても出来ないってことはわかっているのにな。

「大丈夫だ」

隣にいたシャマル先生が私の肩にポンと手を置いた。

「あいつらなら大丈夫だ。それに亜衣ちゃんがそんな顔してどーすんの。あんまり自分を責めちゃいけねーよ」

わかってる、わかっているんです。みんなが強くなったってことも、絶対に勝てるということも。そんなみんなの中にいる私にも記録をする以外のことが出来たら、なんて。
文字を書くことが好きだから、最初はそんなちっぽけな理由でこの仕事を引き受けた。それを9代目に評価されてリボーンくんにも褒められて、私は少し天狗になっていたのかもしれない。
以前ベルフェゴールさんにも言われた通り、記録係はただ書くだけでなく"気付く"という能力も必要だ。そして私の場合は待つという忍耐力もあったほうがいいかもしれない。
待っているのが辛いだなんてそんなわがまま、戦っているみんなの方が圧倒的にそれを感じているというのに。

「…私、ここにいていいんでしょうか」

戦えなくて、足手まといで、みんながどんなに苦しい思いをしてても見ていることしかできない。私でいいの…?私は必要なの?みんなの役に立ててますか…?
だんだんと尻すぼみになっていく私の声にシャマル先生は私の頭をわしゃわしゃと撫でた。

「…それ、この戦いが終わったあとあいつらに言ってみろ。すげー勢いで説得されるぞ」
「そう、ですかね?」
「そうだ。あんま深く考えんな、亜衣ちゃんが思ってるほど事は難しくねーよ」

はにかみながら言ったその言葉はとても優しかった。綱吉くんたちはみんな私が思っている以上に強い。だからこそ戦えないままの自分に腹が立つ。
でもきっと私でいいのかな、なんていったら怒られるんだろうな。彼らはそういう人だ、仲間をなにより大切にする。守るために戦っている。
そしてその守る人の中には私も入っているんだ。私だってクロームさんたちを守ろうとしたときに思った。理由なんて関係ない、守りたいから守るの。

「…ありがとうございます、シャマル先生」
「そりゃあ隣であんな悲しそうな顔されちゃーなあ」
「そんな酷い顔してました…?」
「まあオレからしたら女の子はどんな顔してても可愛いけどな。じゃあ御礼にチューしてくれる?」
「え…嫌です」
「真顔!」

再び私は綱吉くんたちに目を向ける。お互い激しい炎のぶつかり合い、綱吉くんは相手を攻めるために拳を振っているんじゃない、みんなを守るために振るっているのだ。いつもの平和な日常に戻るために。


42.振り上げる拳の本当の意味

帰ろうね、みんなそろって。

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