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雷の守護者同士の対決が発表された次の日はあいにくの雨だった。まさに対決にふさわしいというべきなのか、今にも雷がなりそうな天気だ。
今日はまだ修業が不安である綱吉くんのところで記録をしようと思ったのだけど、ランボくんのことが気になって身が入らないということで修業はおあずけになってしまった。…そうだよね、いくら守護者っていってもまだ5歳のランボくんを戦わせるなんて。


昨夜と同じ夜中の23時、私たちは学校に集まった。お昼の時より天気は最悪で空気を切り裂くような雷鳴が轟いている。
今回の戦闘エリアは屋上にあり、雷の守護者にふさわしい避雷針のエリアとなっていた。避雷針に電流が落ちるとその力が何倍にも増幅されるというもの。当たったら即黒焦げだ。
一回戦のときと同じように円陣を組むけど、あの時の頼もしさは無かった。ランボくんはまだ小さな子供なのだ。こんな小さいときから恐怖を味わう必要はない。それでも全てはすでに決められていることだと思うと、どうにもできない歯がゆさで押しつぶされそうだった。

「ランボ!嫌なら、行かなくていいんだぞ」

綱吉くんが真剣な顔をしてランボくんに言うけど相手にされず、状況を理解していないランボくんは軽い足取りで行ってしまった。
まだ5歳だもんね、理解出来なくて当たり前なんだ。その頼りない小さな背中に今すぐにでも手を伸ばして助けたいのに。私たちの思いも虚しく、試合開始の合図が冷たく響いた。

開始早々、避雷針に落ちた雷が導体を伝ってランボくんに直撃してしまったけど、繰り返し雷撃を受けることで起こる体質変異、電撃皮膚エレットゥリコ・クオイオのおかげで無事だった。
けどそんなランボくんが気に食わなかったのか、相手のレヴィさんは容赦なく蹴り上げる。女子供関係なく容赦しないとは聞いていたけど、本当に全く手加減なしだ。あんなの食い続けたら…。

「…っランボくん!」
「ランボ!」

私と綱吉くんの声が同時に響いた時、ランボくんが取り出したのは10年バズーカ。ドガンッという音とともにランボくんは煙に包まれ見えなくなってしまった。10年バズーカを使ったってことは、10年後の…!

「やれやれ、餃子が最後の晩餐になるとは…」
「大人ランボ!」

10年後のランボくんだ。前に一度しか会ったことないけど、今は10年後のランボくんに頼るしか…。

「…頑張って、ランボくん」

5歳のランボくんが攻撃されたときのショックが残っていて大きな声が出ない。でもランボくんは私を一瞥すると、少しだけ口元を緩めた。
ランボくんは落ちていたリングを首にかけ、角を頭にセットする。そして雷を呼びそれを自身に浴びせると、一気にレヴィさんに向かって走り出す。

電撃角エレットゥリコ・コルナータ!」

当たる…!そう思ったのだがそう簡単にいくわけはなく。レヴィさんは背中に装備していた傘のような武器をランボくんの周囲に広げ、そこに伝わった電気がランボくんに直撃する。息をする暇も与えず、今度は剣が肩を貫いた。
圧倒的な実力の差に、私は身体が震えだした。私の知る限りランボくんは修業をしていない。10年後の彼がどのくらいの実力なのかももちろん知らない。
今はたまたま攻撃を受けてしまっただけというのもあるかもしれないけど、それが命取りになるこの状況では愕然とするしかなかった。

嫌な考えが頭にちらりと浮かんだとき、ランボくんはまた10年バズーカを取り出し自身に向けてそれを発射する。えっ、と思ったときにはすでに煙が立ち込めており、彼の姿は見えない。10年後のランボくんがさらに10年バズーカを使ったら…?
みんなで首を傾げ煙のほうを目を凝らして見ていると、その煙のほうからはバチバチと電気が走っていた。さっきまでは感じられなかったこの威圧感。ちゃんと呼吸をしているはずなのに息苦しい感じ。
煙の中から現れたのは、20年後のランボくんだった。

「ホントにアホ牛か?」
「なんだかランボ、頼もしいよ…」

獄寺くんと綱吉くんの言葉に私も同感だ。やっぱり20年経つと雰囲気すら違う。

「あなた達にまた会えるとは…、懐かしい、なんて懐かしい面々…」

低音で響くその艶のある声には安心感がある。この人が20年後のランボくん…。

「…亜衣さんにも、会えてよかった」
「え、あ…、は、はい…!」

相手はランボくんなのに今は10歳ほど年上だからどうすればいいのかわからず思わず敬語になってしまった。そんな私に目を細めて笑ってくれたけど、その顔は一瞬で厳しい表情に変わる。

「泣きそうだが、感傷にひたっている場合ではなさそうだな」

そうだ、戦いはまだ終わっていない。レヴィさんはさっきと同じ技を繰り出してくる。さらに避雷針からの雷の力も加わりそれがランボくんに直撃するけど、彼は電流を地面に流すことで回避した。
やっぱり、20年後のランボくんはすごい。10年でこんなにも成長するんだ。

そのあとは目がチカチカするくらい迫力のあるものだった。失くしたと思っていた20年後のランボくんの角をセットすると、さっきと同じ電撃角エレットゥリコ・コルナータで攻撃を仕掛ける。
その攻撃自体はリーチが短いため至近距離での攻撃になるはずだけど、20年後のランボくんは電撃を伸ばしてレヴィさんに向かっていった。
屋上のあちこちで雷が鳴っているかのように、バチバチとした電気が流れている。勝てる、そう確信した瞬間、ボフンッという音とともに20年後のランボくんは姿を消し、いつもの見慣れた小さな身体が目に映った。
え、っと思ったときには遅く、まだ攻撃の最中だったレヴィさんの電撃がその身体に直撃してしまった。

「ランボが動かない!」

背中がゾクリとして身体中が冷えた。成長したランボくんならまだしも、まだ力のない子供の姿であの電撃を食らったのだ。
ランボくんを助けようとみんながそれぞれ構えるけど、手を出せば失格になりリングも没収されると忠告されてしまった。でも、助けなきゃランボくんは…。
だが全く動かないランボくんに対し、レヴィさんは容赦なく攻撃を続ける。だめ、このままじゃ…本当に…!視界がだんだん潤んできたとき、突然ランボくんとレヴィさんの間に避雷針がいくつも倒れ出した。

「いくら大事だっていわれても、ボンゴレリングだとか次期ボスの座だとか、そんなもののためにオレは戦えない」

綱吉くんのその言葉にここにいる全員が息を飲んだ。

「でも、友達が…仲間が傷つくのはイヤなんだ!」

この人は何よりも仲間を大切にしている心の優しい人だ。でもそんな綱吉くんをXANXUSさんは笑った。その笑みはまるで滑稽だと言わんばかりの表情で、私は静かに拳を強く握る。

XANXUSさんに「続けろ」といわれたチェルベッロさんが勝敗の結果を発表する。でもそれは私たちが思い描いていたものではなく、綱吉くんの妨害によってレヴィさんの勝利。それとともに雷と大空のリングはヴァリアー側のものになったという報告だった。

「話が違う!沢田殿はフィールドに入っていなかった!」
「フィールドの破損は妨害と見なし失格とするのは当然です」

バジルくんが抗議するがそれも虚しく、雷のリングはもちろん綱吉くんの首にあるリングも回収されてしまった。

「これがここにあるのは当然だ。オレ以外にボンゴレのボスが考えられるか」

リングを所持したXANXUSさんには絶対の自信があった。そして、誰も逆らえない。
その後、XANXUSさんは9代目に何かをしたとも取れる意味深な言葉を残した。当然それを聞いていた家光さんやリボーンくんは敵意をあらわにするがXANXUSさんはただ笑うだけで軽くあしらわれてしまった。

「万が一おまえらが勝ち越すことがあれば、リングもボスの地位もくれてやる。だが負けたら、大切なもんは全て消える」

この戦いに負けたとき…その話は修業をしているときに少し聞いた。私たち全員の命がかかっている。勝たなければならない、勝たないと大切なものは守れない…。


「それからもう一つ」

XANXUSさんのあとにチェルベッロさんが言葉を続けた。

「只今、リングの数が沢田氏側が一つ、ヴァリアー側が二つとなりましたので、お話した通り亜衣様にはヴァリアー側にいっていただきます」
「……っ!」

そう、だった。完全に忘れていたから油断した。もちろん、逆らうことはできないしリングも実際向こうの方が多いので行かなきゃいけないのだけど。

「…亜衣、!」

綱吉くんがどうしていいのかわからないような、バツの悪そうな顔をしていた。綱吉くんのせいじゃない、彼は傷付いたランボくんを助けたのだから。たとえ失格になろうと、それを行動に移すということはとても勇気がいるものだと思う。
マフィアのボスには向いていない…でも、誰よりも頼もしい人。

「…待ってる、から」
「、え?」

昨日、屋上で綱吉くんは私に「待ってて」と言ってくれた。みんなが無事に帰ってくることを、全てが元どおりになることを。そして今こんな状況になっても、また元どおりみんなで笑い合えるように。

「綱吉くんたちのこと、信じるって決めたから、だから、…助けて、くれますか…?」

こんなことを言うのは正直恥ずかしかった。でも実際に戦えない私はこうなってしまったら待つことしかできない。
でもただ待つだけなのは嫌だった。せめて綱吉くんたちを信じて待っていたい。だんだん尻すぼみになってしまった私の声は、この雷雨のせいでほとんど聞こえなかったかもしれない。
おそるおそる顔をあげてみんなの顔色を伺うと、それぞれ力強く笑ってくれていた。


31.願わくは、

(最後まで、信じていたい)

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