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綱吉くんの修業をみた次の日から、私はほかの守護者たちの様子も記録していった。了平先輩と山本くんに関しては問題はないと思う。山本くんの家庭教師がまさかのお父さんだったことには驚いたけど、あの二人は家庭教師がいいというのもあるのか、順調に取り組めているようだった。
順調という意味では雲雀さんも大丈夫そうだった。雲雀さんはもともと強いし家庭教師はディーノさんだ。あんまり心配はしていなかったけど、修業場所が海だったり山だったりと過酷なところでやるものだから私の方が助けてほしかった…!
そして最後に獄寺くんだ。彼が一番苦労しているようにも見えた。シャマル先生がいるとはいえ、あの人はとくに口出しはせず、ヒントを与えるといってもとても回りくどい言い方をするので獄寺くんもイマイチ理解できていないようだった。

ただここ数日みんなの修業を見ていて思ったのは、誰一人として弱音を吐いていないこと。綱吉くんは相変わらずな状態だけどそれでも確実に強くなってきている。そろそろヴァリアーが来る日が近付いてきているし、気を抜いてる場合じゃないんだ。
私も自分の仕事をしっかりやらなきゃと思いながら、手帳に万年筆を走らせるのだった。



だいたいの記録を書き終えたころには既に太陽は沈みきっていて真っ暗だった。これでは明かりのない外で書くのは難しい。
一通りこの数日でみんなの様子は書けたので、あとは家に帰ってからまとめようと手帳をバッグにしまう。家に帰ろうと歩いていたところで見知った顔を見つけた。

「…フゥ太くん?」

私の前を歩いていたのはフゥ太くんとランボくんとイーピンちゃんの三人。私が声をかけると、みんなパァッと明るくなって私に飛びついてきたので受け止めるのが精一杯だった。こ、子供って手加減しないのね…!
どうしてこんなところにいるのかと聞けば、京子ちゃんとハルちゃんと一緒に遊んでいたけど途中ではぐれてしまったようだ。ランボくんは疲れてしまっているようでフゥ太くんの足にしがみついて離れない。
ランボくんだけでなくフゥ太くんもイーピンちゃんもどこか疲れている様子だからこれはすぐに綱吉くん家に連れていった方がいいな。

「じゃあ私が送っていくね、子供だけで夜道を歩くのは危険だから」
「え、ほんと?ありがとう!でも亜衣姉だって女の人なんだから、夜道は気をつけてね!」

…フゥ太くん、まだ子供なのにこんなに気遣いができるなんてさすがイタリア育ち…!
そんなとき、イーピンちゃんが何かに気付いてあたりをキョロキョロとし始めた。不思議に思って私もあちこち見てみるけどなにもない。
何かあるのかなと思いふと上を見上げると、こちらに向かって武器を振り上げて迫って来る何者かが…、

「うわぁっ!?」

咄嗟に私は当たらないようにみんなを突き飛ばし、私自身もなんとか避けた。人間やればこんな唐突なことでも避けたりできるんだと感動してしまったけど、そんなことを考えている場合ではない。
その男は体勢を立て直すとこちらに武器を構え出す。けど私が倒れている場所とフゥ太くんたちがいる場所が少し離れているせいでわかった。この人が狙っているのはフゥ太くんたち三人だ。
武器を持っていることと、フゥ太くんたちを狙っていることからこの人がマフィア関係者だということはわかった。この人は誰?ヴァリアー以外にも新たに敵が…、それとももう既に…。
深く考えることはできなかった。それよりもフゥ太くんたちが危ない。私は急いで立ち上がって三人のもとに駆け寄る。「逃げよう…!」とあげた声でみんなと一目散に駆け出した。

怖い、怖い…!狙われているのが私じゃなくても、後ろから追いかけてくるのがとても怖い。ずくり、と心臓が嫌な音をたてる。女子供の歩幅なんてたかが知れている。一歩一歩、確実に追いつかれる。
逃げようという言葉は出たのに、助けてという言葉が出ない。走るのに精一杯で、呼吸をするのがやっとで。
せっかく護身術を教わったのに走ってるときじゃできないし、何より身体が恐怖のあまり震えてしまってそんな勇気すら今の私には無かった。
本当に情けない、この中じゃ私が一番年上なのに何もできない。こういうときのために、足を引っ張らないようにディーノさんに教えてもらったのに。
どうしよう、このままじゃ追いつかれちゃう。何か、何かないかな…私が持ってるのはバッグだけ…あ、バッグ…!
ちょっと小さめのショルダーバッグ。中には手帳やハンカチくらいのものしか入ってないけど無いよりマシだよね…?

「え、えい…っ!」

私はショルダーバッグの紐を持ち、遠心力をつけて思いっきり投げつけた。運良くバシッと顔にぶつかったようで一瞬相手は足を止めたけど、たいした痛みじゃないようですぐに立ち直り、こちらに向かってくる。こんなのじゃダメだ…っ、誰か…!
迫り来る恐怖にギュッと目を瞑ると、ドゴォッという凄まじい音が聞こえた。何事かと思い目を開けると、見知った顔が視界に入る。

「ボンゴレファミリー晴の守護者にしてコロネロの一番弟子。笹川了平、推参!」

追いかけてきた人を殴り飛ばしたのは了平先輩だった。見事にその人は地面に倒れている。

「りょ、了平先輩…!」
「おー、大丈夫か桐野!それにしても極限に迫力のない掛け声だったな!」
「聞いてたんですか…」

恥ずかしい…ディーノさんにも似たようなこといわれたような気がする。その後は綱吉くん、リボーンくん、山本くん、獄寺くんが助けに来てくれたので何とか私たちは助かった。

「亜衣、大丈夫だった?怪我とかは…?」

綱吉くんがこっちにきてくれて、すごく心配そうに尋ねてきた。

「うん、大丈夫。了平先輩が来てくれたから」
「そっか、良かった…!本当に良かった…」

安堵のため息を漏らす綱吉くんに、そんなに心配をかけてしまったのかと少し申し訳ない気持ちになった。了平先輩が助けに来てくれて本当に助かった。

綱吉くんから拾ってくれたバッグを受け取ったとき、「思ったより骨のない連中だったな」という了平先輩の声が聞こえた。そういえば、確かに了平先輩は軽く吹っ飛ばしていたような。

「そいつは甘えぞ。こいつらはヴァリアーの中でも下っ端だ。本当に恐ぇのは…、来るぞ…!」

リボーンくんの言葉と同時に誰かが上から降りてきた。全身黒ずくめで背中に何本も武器を装備している人。あの格好、前にあった銀髪の人に似ている。リボーンくんも言っていたけど、もうヴァリアーが日本に…?
その後、同じような格好をした集団が勢揃いした。きっとこれが暗殺部隊ヴァリアーのメンバーなんだ。そんな人たちがこんな近い距離にいるんだと思うと足がすくんでしまう。

「あら、女の子もいるのね」

サングラスをかけたオネエ口調の人が私に視線を向けたためにギクリとする。女の子って、もしかして私…?

「何言ってやがるルッスーリア!そいつがつい最近ボンゴレの正式な記録係になった奴だ」
「ああ、そうだったわね」
「へぇーあいつが?ししっ、弱そー」
「興味ないね」

う、うわ…なんか色々言われてる。そりゃあ弱いです私、戦えないから…。そういえば正式に記録係になってから私の顔はヴァリアーの人たちみんなに知られているんだっけ。

「確か名前は亜衣ちゃんだったかしら?私はルッスーリア、よろしくね!」

え、!あ、挨拶された…!手をぶんぶん振ってきてる。これは、これは…どうしたら…!えーっと、ええ…、


28.「よ、よろしく…?」

「何呑気に挨拶してんの亜衣!相手は敵だよ!?ヴァリアーだよ!?」
「え、あ、ににに日本人なら挨拶大切…!」
「律儀だな!?」

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