24
今日もまた食材を買いに商店街に来ている。ついこの前両親から生活費をいれてもらったのだけど、お父さんがボーナスをもらったらしいのでいつもよりもたくさんあるのだ。
ということで今日はいつもなら買わないちょっとお高めのお肉を買おうと思います。普段よりも少し重くなった財布を握りしめながら軽い足取りでお店をまわった。
歩いている途中、突然何かが爆発したような凄まじい騒音があたりを包む。そちらに顔を向けると、その場にいた人たちが悲鳴をあげながら一斉に来た道を戻り始め、私の横を走り去っていく。
まわりに人がいなくなったところで見えてきたのは、めちゃくちゃになっている街と倒れている人。あれって山本くんと獄寺くん…!?
そしておそらく死ぬ気モードが終わったであろうボロボロの綱吉くん。あとは…誰だろう、同い年くらいの髪の長い男の子がいるけど知らない人だ。
「…綱吉くん、何かあったの?」
後ろから私が声をかけると、綱吉くんたちは振り返って私を見た瞬間に丸くて大きな目をさらに丸くした。
「なっ、亜衣!?どうしてここに!」
「えっと、買い物しようと思って…」
「いけません!ここから離れてください!」
髪の長い男の子にそう言われるけど咄嗟で私は動けなかった。さっきの爆発といい何が起こっているの…?私はなんとなく綱吉くんの手元が目に入る。何か黒いケースみたいなものを持ってるけど、あれはなんだろう。
「う゛お゛ぉい!」
近くからドスの効いたような低い声が聞こえてきた。耳を塞ぎたくなるほどの大きな声で、肩が震えるには充分な音量だ。黒い服に長い銀髪、左手には剣を装備している人。
「…ん?てめーは…、」
「え…?」
何が起こっているのか把握出来ていない私にはその銀髪の人をただ見つめることしか出来なかった。そしてふと視線が絡み合うと、一瞬銀髪の人は目を少し見開いたがだんだんとその口元は弧を描いていく。
「…なるほど、てめぇが例の…」
例の…?初対面のはずなのにあの人は私のことを知っている…?どんなに記憶をたどっても間違いなくあの人とは会った記憶がない。なのにどうして…。
「あいかわらずだな、S・スクアーロ」
そんな緊迫した中で現れたのはディーノさんだった。何やら銀髪の人と会話をしているけど知り合いみたいな話し方だ。
けどこの騒ぎで誰かが通報したのか警察のサイレンが聞こえたために私たちは一旦この場を離れることになった。あ、お買い物終わってないのに…。
着いたのは病院だった。綱吉くんと一緒にいた髪の長い男の子…バジルくんを治療するためだ。色々と説明されたけどバジルくんはボンゴレではないけど私たちの味方らしい。でもさっきの銀髪の人はボンゴレだけど敵らしい。
「どうなってんの?ねえ亜衣わかる?」
「うーん、ちょっと混乱してる…。それよりも私は買うはずだった高いお肉が買えなかったのが心残りです」
「まだ根に持ってるー!」
だって滅多に高いのなんて買えないんだもん…!私の頭の中がお肉で埋まっていると、綱吉くんたちはリングの話をしていた。
あの黒いケースにはハーフボンゴレリングというものが入っていて、この指輪を手にするために今までにたくさんの血が流れたらしい。その物騒なものはさっき銀髪の人に持っていかれたはずだけど、本物はディーノさんが持っていた。それは10代目候補である綱吉くんに渡すために持って来たものらしいのだけど。
「す、ストップ!オレ帰って補修の勉強しなきゃ!じゃあディーノさんまた!亜衣もまたね!」
焦りに焦った綱吉くんは真っ青な顔をして病室を出て行ってしまった。一気に話が物騒でマフィアらしくなってきているけど、その指輪がボンゴレにとってとても大切なものだということはわかった。
「…あの、ディーノさん。その指輪って持っているとどんな意味があるんですか?」
「ボンゴレリングは次期ボンゴレボスの証なんだ」
「証…?」
けどそのボンゴレリングを狙っている人たちがいるという。それはさっきの銀髪の人、ボンゴレで最強といわれている独立暗殺部隊ヴァリアーのメンバーだそうだ。
そしてその銀髪の人が持っていったリングは偽物のため、近いうちに本物を奪いにくる。ボンゴレ10代目になるのは綱吉くんだから、奪われないためにもこれから鍛えてヴァリアーを迎え撃たなければならないらしい。
「そっか、これから鍛える…」
「おまえ、あんまり実感してないだろ?」
ディーノさんに苦笑いされるけど確かに実感はない。だって骸さんのときはそんなことしなかったから。でも今回はその比じゃないんだ。鍛えないと、やられる。
さっきの銀髪の人と真っ向勝負。でも相手は暗殺部隊に所属しているプロだ。そしてこっちは全員中学生。どちらが優勢だなんて誰が聞いてもわかる。
「勝てるのかな…」
「だから鍛えるんだぞ」
リボーンくんにそう言われてその表情を伺うがいつものようにニヒルには笑っていなかった。
私はしばらく病室に残った。このまま帰っても不安は消えない…だれかと居た方がまだ安心する。バジルくんの傷は鍛えているおかげで浅いようだけど私からしたらとても痛そうだ。全部あの銀髪の人から受けたもの…。
そこまで考えて私はふと疑問に思ったことをリボーンくんに聞いてみた。
「そういえばあの銀髪の人、私のことを知っているみたいだったけど…」
「前にも言ったが、亜衣のことはすでにボンゴレには連絡済みなんだ。正式に記録係として認められている。ヴァリアーの連中も同じボンゴレだから知ってて当然だぞ」
ということは、もしかして私の顔はそのヴァリアーの人たち全員にバレているっていうこと…?そんな…もし命が狙われたら私なんて一瞬で終わるのに…!
「少なくとも亜衣に危害を加えることはしねーと思うぞ」
「え、なんで…?」
「亜衣の立場はもう決定済みなんだ。ボンゴレが必要としているおまえに手出して自分たちの首絞めることはしねーはずだ」
「で、でも…記録係とかの前に私自身が気に入らないってことも…」
「…すぴー」
「寝ないでよリボーンくん…!」
はあ、どうすればいいんだろう。帰りながら私はずっと考えていた。いくら危害を加えないって言われたところでそれが本当かどうかなんてわからないし、あの銀髪の人の印象からして気に食わなかったらすぐに斬りに行くタイプに見えた。
いくら記録係という立場があったとしても、こんな戦えもしない人間、暗殺部隊の人からしたら目障りにしか思わないんじゃないだろうか。
修業は明日からするそうだ。あの黒いケースに入っていたリングはそれぞれ綱吉くんを守護するにふさわしい六名に届けられるらしい。詳しいことは明日話すと言われてしまったけど六人て誰かな。多分獄寺くんと山本くんは数に入ってる気がするけど…。
家に着いた私は買い物袋を置いて大きなため息をついた。何にしても明日から修業が始まるならきっと私もそれに同行して色々記録しなくてはならない。
敵を迎え撃つのはもちろん怖いけど実際に戦うのは私ではない。本当に怖いのは戦う綱吉くんたちのほうなんだ。
私ばかり怯えてる場合じゃない。みんなが修業に励むなら、私も自分にできることをしなくちゃ。
考え込みすぎると悪い方向に進んでしまうので今日はこれ以上考えないようにした。とにかく今は目の前のことに集中しよう。そう思って私は冷蔵庫を開けた。さて、今日の夕飯は何に…あ。
目の前の絶望的な光景に私は携帯を取り出すのだった。
24.ヴァリアーさん、いらっしゃい
「…もしもし綱吉くん、もしご迷惑じゃなかったら夕飯に綱吉くん家にお邪魔してもいいですか…?」
《え?うん、大丈夫だけど…なんで?》
「食材買えなくて冷蔵庫空っぽで…あの銀髪さん絶対に許しません…」
《ずっと根に持ってるね!?》
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