15


病院は危険というリボーンくんの判断により、獄寺くんは保健室で診てもらうことになった。彼のことはビアンキさんと山本くんに任せて、私と綱吉くんは廊下に出る。

「オレ馬鹿だ、いかなきゃよかった!オレのせいで獄寺くんがあんな…!」

さっきのことを思い返して綱吉くんは顔を歪めながら唇をかみしめている。こんなとき何て声をかけたらいいのかわからない。綱吉くんのせいじゃないよ、なんて。
自分の身すら守れない私が状況も分かっていないのに軽々しくそんなことは言えない。どうしたものかと思い、ふと上を見上げると天井にへばりついているレオンくんとリボーンくんがいた。レオンくん、カメレオンの原型がなくなっちゃってるけど…。

「おまえ何してたんだよー!」
「イタリアでおきた集団脱獄を調べてたんだ」
「…脱獄?」

どうやら凶悪なマフィアを収容している監獄で脱獄事件があったらしい。脱獄犯は囚人らを皆殺しにしたあと日本に向かったという。主犯はムクロという名前で他に部下が二人いるそうだ。
私にはいまいち何の話かわからなかった。そもそも何故獄寺くんが狙われたのかもわからない。その疑問を打ち明けると、どうもフゥ太くんのランキングが関係しているらしい。
並盛中のケンカの強さランキング順に生徒が襲われているらしく、その三位が獄寺くん。そして最終的に狙われているのは綱吉くん。

「あーもうこんな大変なことになっちゃって、オレどうなっちゃうのー!?」
「骸たちを倒すしかねーな」
「バカ言え!勝てるわけないだろ!?」

骸という人がどんな人物なのかはさっきの話でなんとなくわかったけどそんな人相手に大丈夫なのかと心配にならないわけがなかった。けど綱吉くんの抵抗も虚しく9代目からの手紙によってやらなくてはならない状況になってしまった。

「ちなみに断った場合は裏切りとみなし、ぶっ殺、」
「わーわー!聞こえない聞こえない!オレには関係ねーよ!マフィアなんかと関わってられるか!亜衣いこう!」
「あ、綱吉くん!」

大声でリボーンくんの話を遮った綱吉くんは私の手を掴み、逃げるように走った。



「はぁ、ここまでくれば安心だ」
「つ、綱吉、くん…」
「ん?どうしたの?」
「……、えっと、手…」
「手?…あっ!うわあごめん!」

きっと綱吉くんにとっては無意識だったんだろう。真っ赤な顔してパッと手を離されたけど未だに私の手は熱を帯びていた。咄嗟のこととはいえちょっとびっくりした。
二人で挙動不審になっていると、近くにいた主婦たちが私たちを見てヒソヒソと話しているのが聞こえてきた。内容はやっぱり例の事件で学校閉鎖したという話。街の人たちにまで噂が広まっているんだ。
そして逃げた私たちに追いついたリボーンくんに、「今まで骸にやられたことを忘れるな」と忠告される。そうだ、目の前で獄寺くんがあんな酷い怪我を負って、私の知らないところでは了平先輩も誰かに襲われたらしい。
骸という人のところに行くような流れの話になってきているけど、雲雀さんは行ったっきり帰ってきていない。強い人ばかり狙っているというだけあって相手もかなりの実力者ということなのだろうか。
綱吉くんも私も弱気になっていると、「オレも連れて行ってください!」という獄寺くんの声が聞こえた。

「獄寺くん!ケガ大丈夫なの!?」
「あんなのかすり傷っすよ!」

綱吉くんの前では元気そうにしている獄寺くんだけど、あの怪我がそんなすぐに治るはずがない。その証拠に若干ふらついているように見える。それでも、相手を倒さない限りこの事態を何とかする方法は無いんだ…。
迷っている時間なんてない。本当は獄寺くんにはしっかり休んでいてほしいけど、山本くんとビアンキさんも行くという話になりみんなで向かうことになった。



着いたのは黒曜ヘルシーランド前のバス停。ここからは歩いて向かわなければならない。この近くに骸という人がいるんだ。

「獄寺くん、本当に大丈夫?さっきもふらついていたけど」
「大丈夫に決まってんだろ、余計な心配すんな!」
「だって…目の前であんな酷い怪我…、」
「おまえは気にしすぎなんだよ」

それでも人の手によって傷付けられる光景なんて今まで見たこともない私にとってはとても衝撃的すぎる経験だった。痛そうだし、怖かったし、心臓を掴まれているような息苦しさがあった。
すると、綱吉くんは何かを思い出したように「そういえば、」と話始める。

「獄寺くんが怪我する前に亜衣もあの黒曜中生に狙われたよね」
「うん…」
「あのヨーヨーの棘みたいなやつが飛んできてさ。でも亜衣には当たらなかったんだよね」

綱吉くんの言葉に山本くんとビアンキさんはどういうことだと疑問を持つ。あのとき私は全く動けず向かってくるものを見届けることしかできなかった。反射的に目を閉じたりはできても刺さるものは刺さる。
でも、その棘は私が目を開けた時には地面に落ちていた。私は何もしていないし、まさか魔法が使えるわけでも、ずば抜けた身体能力で撃ち落としたわけでもない。

「それは亜衣が持ってる万年筆のおかげだぞ」
「万年筆って、前にリボーンくんにもらった…?」
「ああ。キャップのところにガラス玉がついてるだろ。あれはボンゴレが特殊に作ったもので死ぬ気の炎が灯せるようになってるんだ」

リボーンくんの話によると、私自身が炎を灯すことができなくてもこの万年筆は持ち主と波長が合えば死ぬ気の炎が灯せる仕組みになっているらしい。攻撃を受けなかったのは、その死ぬ気の炎が盾となって私を守ってくれたから。
そ、そんなすごいものを私にくれたの…?

「おまえはボンゴレの記録係だが、戦う術を持ってねーだろ。ならアイテムでそれを補えばいい。いつもオレたちが一緒とは限らねーからな」

そっか、これはリボーンくんなりの配慮だったんだ。私は戦えないし、自分の身を守ることもままならない。
記録係はファミリーの行動を記録しなければならないから、今回みたいに危険な場所にも行く必要がある。だからそこで足でまといにならないためにも。

「ありがとう、リボーンくん」
「…おまえ、今余計なこと考えてるだろ。自分のせいでツナたちに負担をかけるとか何とか」

う…どうしてわかったのリボーンくん。

「けっ、やっぱ気にしすぎだなてめーは。10代目の右腕をなめんじゃねーよ」
「オレたちは亜衣を負担だとは思ったことねーよ!いつも通りいこうぜ!」
「そうね、貴女をそんな風に思う人はここにはいないわ。もっと私たちを頼っていいのよ」

三者三様の言葉だけど私にとってはどの言葉も嬉しかった。みんなすごく心が強いんだな、それに優しくて頼もしくて。私が頬を緩ませていると「亜衣」と綱吉くんに名前を呼ばれる。

「オレ、戦うのは嫌だし怖いけど、でもそれ以上に誰かが傷つくのはみたくないんだ」
「…うん」
「これ以上誰も巻き込ませないためにもここに集まってると思う。オレはすごく弱いけど…でも亜衣のこと、ちゃんと守るから」

いつになく真剣なその表情に、心臓の鼓動が少し大きくなった。もちろん綱吉くんは傷付く人が増えないように私にもそういって勇気付けてくれているというのはわかる。
ただ、じわりと目元が熱くなるような、頬の火照りがおさまらなくて視界に水の膜がうっすら張られるのだ。…まさか、まさか、ね。

「ずいぶん大きく出たじゃねーかツナ。こりゃあオレたちの出番はないかもしれないな〜帰ろうかな〜」
「プレッシャーをかけるなよ!」

リボーンくんに何か言われて赤くなっている綱吉くんとは別に、私も自身の身体が熱くてどうすればいいのかわからない。

「…あら亜衣、顔が赤いわよ」
「び、ビアンキさん…!」
「ツナも罪な男ね」
「ち、違…、なんでもないですってば…!」


15.無意識ってたち悪い

「ツナ、亜衣の顔が赤いのよ。なんとかしなさい」
「え!?亜衣、もしかして具合悪い?」
「っ、もう…!ばか!綱吉くんのばか!」
「なんでオレー!?」

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