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今日は綱吉くんたちとは都合が合わず、友達も委員会があり一人でお弁当を食べることになったので教室で食べていた。その後はほかに行く場所もなく、ふらふらしたついでになんとなく屋上に足を運んだのだ。

運良く誰もいなかった。屋上にはとくになにもないが、入口のところには大きなタンクがあり、梯子も付いていて登れるようになっている。
今日は天気もいいしぽかぽかしていて気持ちがいいので、お昼休みの少しの時間だけ日向ぼっこを満喫しようと思いつく。
友達といるのも楽しいけど、たまにはこうやって一人でのんびりするのもいいな。ぐーっと伸びたあと、梯子をのぼってタンク付近の日の当たる場所に腰を掛ける。校庭では鬼ごっこだったりサッカーをしたりする生徒たちがたくさんいて、ここでも少し声が聞こえる。
うとうとしていたのがいけなかった。だんだんと重くなっていくまぶたに抵抗もせず、私はそのまま目を閉じた。



ふと目を開ける。どれくらい時間がたったのだろう。寝起きで働かない頭をなんとか動かす。えーっと、確かお昼休みに屋上にきて日向ぼっこしてて…今何時!?
空を見ると太陽は明らかに眠ったときに比べて傾いていた。そんなに寝てしまったのかと思ってきょろきょろする。そしてあり得ないものが目に入った。

「…え、」

私からすこし離れた場所にいたソレ。学ランで、風紀の腕章をつけた人物。その人がそこで寝ているのだ。
ええ!何でここにいるの!群れるの嫌いなんじゃないの…?タイミングが良いのか悪いのか、その人物…雲雀さんはゆっくりと目を開けた。え、私まだここにいるのに!

「……」
「……」

無言が辛い。もともと会話なんてするつもりも、というよりできないけど。とりあえず私はとても怖いです。だって二度も目の前で殴ってるところを見てしまったから。
きっと今回そのターゲットは私だ。だって明らかに私授業サボってるもの。こちらにゆっくりと顔を向けた雲雀さん。あ、ああどうしよう…!

「…君、誰」

覚えてない!そうですよね、一回目はゴミを片付けていたただの通りすがり女子生徒だったし、二回目は屋上で綱吉くんたちと一緒にいただけの女子生徒だったもんね。
いやむしろ覚えてなくてよかった。目をつけられたくないもの。よし、ここから去ろう。咬み殺される前に逃げよう。

「い、いえ、お気になさらず…えっと、失礼します」

私は急いで立ち上がり梯子に足を掛けて降りようとしたが、頭上から「待ってよ」と静止の声が聞こえた。
まさか引き止められるとは思わなかった私はその声にあまりにもビクついてしまい、梯子にかけていた足を踏み外す。重力に逆らえるわけもなく私の身体は下に落ち、梯子に膝を打ち付けた。

「…、っ」

痛い。高さはそんなにないから他の部分は大丈夫みたいだけど、梯子にぶつけた膝が痛い。膝を見てみると見事に血だらけだった。う…、思ったより傷が酷いかもしれない。
スタッと着地する音が聞こえた。さっきの場所から雲雀さんが飛び降りたらしいが、今は恐怖よりも膝の痛みの方が大きい。座り込んでいる私はこちらに視線を向けている雲雀さんを見上げる形となった。

「…何してるの」
「…す、すみません。落ちました」
「見ればわかるよ、馬鹿でしょ」

け、怪我人に向かって…!なんて言われようだと少しムッとしたが、何故だか武器であるトンファーは出さなかった。それは嬉しい、この足では逃げられそうにないから。

「堂々と寝て授業をサボってたから起きたら僕の相手をしてもらおうと思ってたけど、その気が失せたよ」
「…な、なんで、ですか?」
「何、そんなに咬み殺されたいの」
「ち、違います!」

すでに膝を負傷しているのに更なる仕打ちなんて受けたくありません!

「怪我して逃げることも出来ない君を咬み殺してもつまらない」

なんて自由すぎる発言だと思わなくもないけど、今の私にとってはありがたいことだった。膝は痛いけど愛用のトンファーでやられるよりは圧倒的にマシだ。
雲雀さんは地べたに座っている私の血だらけの膝をじっと見る。正直、私は立とうと思って力を入れたけどズキンという刺すような痛みのせいで動けなかった。そのためこの微妙な空気の中どうすればいいのかわからない。
困り果てて目を泳がせていると、雲雀さんは小さくため息をつき私の前から去っていった。よ、よかった…緊張がとけた。もう怖いというかなんというか息苦しかった。
でもこれからどうしよう。雲雀さんが保健室に連れていってくれるなんて天地がひっくり返ることもちょっと期待しなかったわけじゃないけど、やっぱりそんなことはなかった。
本当に膝が痛い。流れ出る血は止まることを知らずにゆっくり膝を伝っては地面に赤色のシミを作っていた。


5分くらいたってからだろうか。どうしようかと思って動けないでいると、屋上のドアが開く音がした。

「亜衣!どこ!?」
「…綱吉くん?」
「!…え、なんでそんなとこに…っ、う、わ!その膝、どうしたの!?ヒバリさんにやられたの!?」
「え?なんで?」
「さっきヒバリさんに"屋上に君の知り合いがいるから、連れてって"って言われて…」

雲雀さん、私が綱吉くんと一緒にいたの覚えてたんだ。君、誰って言ってたのに。

「オレもびっくりしたけど、こういうことだったんだ…」

雲雀さんはわざわざ自分で保健室に運んだりなんてことはしないだろう。でも、こうやって綱吉くんを呼んでくれた。怖い人っていうのはまだ変わらないけど、雲雀さんの良いところを一つ知れた気がする。
私は綱吉くんに怪我をした理由を説明する。ただのドジで足を滑らせただけだったことを聞いたからなのか、ホッとした様子だ。

「それにしても、起きたときに雲雀さんが隣で寝てるのは心臓に悪いね」
「亜衣もヒバリさん怖い?」
「…うん、殴ってるところを見ちゃったから。…でも怪我した私をみて綱吉くんを呼んでくれたのは、ちょっと優しいのかなって思ったかな」
「…優しい、か」
「綱吉くんのほうが100倍優しいけどね」

へへ…と口元を緩めながらそう言うと綱吉くんは「そ、そういうの、いいからっ!」と少し顔を赤くして手をブンブンと振った。本当に褒められ慣れてないみたい。

「そんなことより!亜衣、立てる?」
「う、うん。なんとか…?」

すごい痛いけどずっとここにいるわけにもいかない。壁に手を置いてゆっくりと立ち上がってみる。立てないことはないが痛みのせいで足が震えている。

「…、う、」
「あ、!いいよ、無理しないで!」

そういって綱吉くんが支えてくれた。情けないな、私。

「とりあえず、シャマルのとこにいこ?」
「ええ…」
「すごい嫌そうな顔!」

あの人この前いきなり肩に腕をまわしてきたからすごくびっくりしたしな…。でも綱吉くんがいうには腕は確かなんだよね。ここは頑張って行くしか…!

「しょうがない、いってやる!」
「偉そう!」

綱吉くんに支えられながらなんとか保健室まで歩いた。もう血が流れていて靴下に染み込んでいる状態だ。白い靴下じゃなくてよかったと思う。
途中よろめくことが何度かあり、綱吉くんの服をぎゅっと掴んで転ばないようにしているけど、そのたびに綱吉くんはビクッとした。
ごめんね綱吉くん…服がしわしわになっちゃうね。でも支えてくれてありがとう。


10.保健室まであと少し

「、うわ、っ」
「あ!大丈夫亜衣!?」
「なんとか…ごめんね本当に。しがみついてるから綱吉くんの制服がしわくちゃに…」
「い、いいよ、そ、そんなの全然!おお、オレ!気にしてないし!」
「すごいどもってるけど」

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