06
「亜衣、今日の放課後ツナん家に来い」
そうリボーンくんに言われたのはお昼休み。今日は京子ちゃんたちと教室でお弁当を食べていて、そのときに言われた。一体何の用なんだろう?
放課後になり、私は沢田くんと獄寺くんとともに沢田くんの家に向かう。本当は一人でいくつもりだったのだけど、学校から沢田くん家にいく道のりを知らなかったので結局一緒に帰ることになったのだ。もちろん獄寺くんには睨まれた。
玄関の扉を開けるとこの前は見なかった女の人がいた。
「あら、隼人」
「あ、アネキッ…、ふげーっ!」
その人がこちらに振り返った瞬間、獄寺くんが真っ青な顔してふらついたので私は肩を震わせる。
「す、すいません10代目…、オレやっぱり、帰ります!」
そして一目散に逃げていった。…え、どうしたの?
「しょうがない子ね隼人は。…あら、あなたは?」
「あ、私…沢田くんと同じクラスの桐野亜衣です」
「ああ、ツナの彼女ね。私はビアンキ。よろしく」
あれ、私同じクラスのっていったよね?とんでもなく飛躍されてるのは何故!?
「何いってんだよビアンキ!違うから!変なこと言わないで!」
「なんだ違うの。そしたら二股かけてる男に成り下がって面白いのに」
「何最低なセリフはいてんの!?」
この美人さん、ビアンキさんは結構いろいろ言っちゃう人なんだろうか。
ビアンキさんを後にして私たちは二階の沢田くんの部屋に向かう。その途中、あの人はお姉さんなのかと聞いたらなんと獄寺くんのお姉さんだった。び、美男美女とは…!
部屋にはいるとすでにリボーンくんがいた。
「来たな」
「うん、お邪魔します」
私と沢田くんはテーブルの前に座り、リボーンくんはテーブルの上に立つ。自分の部屋なのに改まってかしこまっている沢田くんに少しだけ笑ってしまった。
「どうしたんだよリボーン。いきなり桐野さんを呼んだりして」
「ああ、渡したいものがあってな」
「渡したいもの?」
二人で首をかしげると、リボーンくんがテーブルに置いたのは黒い手帳と黒い万年筆。黒い手帳はちょうど大学生が持っているようなスケジュール帳のようなものだった。表紙には金色で何かのエンブレムが書かれており、"VONGOLE"という文字が刻まれている。
そして万年筆にも金の装飾が施してあり、キャップのてっぺんにはガラス玉のようなものが付いている。そのガラス玉の中には手帳と同じくVONGOLEの文字と、何かの貝殻の形が掘り起こされていた。名前からしてこの貝はアサリ、かな。
「この二つをおまえにプレゼントするぞ」
…プレゼントされてしまったけど話が全く見えない。
「どういうことだよリボーン!なんで桐野さんを!」
「うるせーぞツナ。黙って聞け」
ピシャリと言ったリボーンくんの顔は真剣そのもので沢田くんはもちろん、私も口を噤む。
「亜衣、おまえもツナたちと一緒にいて疑問に思ったことがいくつかあるだろ」
「う、うん…」
リボーンくんのこととか、獄寺くんのダイナマイトとか、沢田くんが銃で撃たれたときのこととか、ここ最近は疑問だらけで何がなんだかわからないことが増えてきている。
「手帳の前にまずはそこから説明するからちゃんと聞いとけよ」
「は、はい…!」
「まず第一に、オレたちはマフィアだ」
その一言で既に序盤からついていけなさそうになり大丈夫なのかなと心配になった。
たくさん時間を使って話してくれたのはボンゴレファミリーという名のマフィアのこと。
リボーンくんが日本にきた本当の理由や、沢田くんはボンゴレファミリー10代目ボス候補であること、獄寺くんと山本くんもファミリーの一員でダイナマイトが獄寺くんの武器、山本くんは刀を使って戦うことなど色んなことを話してくれた。
そしてこの前沢田くんに撃った銃についても説明され、ここ最近の私の疑問は徐々に解けていった。
「そういうわけなんだが、理解できたか?」
「うん、なんとなくではあるけど疑問は解けたかな…」
「さすがだな」
細かい原理とかまではわからないけど混乱しない程度にはわかったつもりだ。
「ごめんね桐野さん、今まで黙ってて。あんまり一般人を巻き込みたくなくて」
沢田くんがときどきホッとしたりバレそうになると焦り出すのは、マフィアのことがバレるのを恐れていたからなんだ。
「ううん、他の人を巻き込まないように今まで黙ってるって中々難しいことだと思う。話してくれてありがとう」
私がそういうと、沢田くんは少しだけ顔を赤くして照れ笑いをしていた。
「んで、さっきの手帳のことなんだが。…亜衣、おまえはこの手帳に記録係としてツナたちの動きを書き残してほしい」
「…記録係?」
ボンゴレファミリーは初代から代々続いているマフィア界ではトップの組織。昔ならともかく、そのファミリーの行動については今の時代に伝えていくために何かしら記録として残っているらしい。
これから先も維持するために、ファミリーたちの動向を残す必要がある。
「その仕事をおまえに頼みたい。できるか?」
リボーンくんにそう言われ、手帳と万年筆をこちらに差し出される。
…記録係。これに色々書いていけばいいんだよね。文字を書くのは確かに好きだからそれはいいんだけど。もしかして最初に私に話しかけたりたまに確認するように質問してきたのは、この仕事を頼みたかったからなのかもしれない。
「まあそんなに堅くならなくていいぞ。記録係っつっても、かんたんにいえば日記みたいにかけばいいんだ」
最後の一言で少し気分が楽になった。私はおそるおそるではあるが、しっかりと差し出された手帳と万年筆を受け取る。これがこれから先の私の大切なお仕事。
ずっと黙って聞いていた沢田くんがハッとしたように慌てだした。
「ちょ、ちょっと待ってリボーン!記録係になるってことは桐野さんもファミリーに入るってこと!?」
「まだファミリーに入れなんていってないぞ」
「まだってことはそのうち言う気じゃん!」
「仕事の出来しだいだな。おまえがその器に似合わねーっていうならやめてもいいぞ」
リボーンくんは私を試しているような気がする。まだ知り合ったばかりだけど、リボーンくんが私を見る目は今までずっと探りをいれているような感じだった。
そしてお眼鏡にかなったかは別としてもそのリボーンくんから頼まれたお仕事。きっと私にできるから頼んだお仕事。
「…私、やります」
「桐野さん!?」
「よくいったぞ」
私にしかできないお仕事とは言わない。リボーンくんの言い方だと、やってみて私がダメなら他の人を探すんだろう。けどそれでやめるのもなんだか悔しいと思う自分がいる。
私に託されたお仕事なら私が最後までやってみたい。それに、リボーンくんはやめてもいいと逃げ道も用意してくれている。まずはやってみなきゃわからないんだ。
「待ってよ!桐野さんよく考えて!?ファミリーに入ってオレたちとずっと一緒にいたら狙われる可能性だってあるんだよ!?」
そうだ、だって彼らはマフィア。学校が狙われないなんてそんな保証はどこにもない。
今まではマフィアのことなんて知らないで関わってたけどこれからは知らん顔なんてできない。私にも目の当たりにする現実が降りかかってくるのだ。
「心配いらねーぞ。おまえのことはちゃんと守ってやるからな。ツナが」
「結局人任せかよー!」
あああ!と嘆いている沢田くん。私が深く考えずに了承してしまったから、彼に余計に負担をかけることになってしまった。
最後まで関わることに否定してくれた沢田くん。きっとそれは私を思ってのことなんだろう。
「…ごめんなさい。私、安請け合いしちゃってるかもしれない」
「あ、ううん!桐野さんが謝ることじゃ、」
この人は一体どこまで優しいんだろう。こんな人がマフィアのボス候補だなんて誰が思うだろう。
私は戦うなんて全くできないほどひ弱だし、頭脳派でもない。けど、人としてだったら何か役に立つかもしれない。
困ってるときや悩んでるときだったら、私も一緒になって考えることはできる。怪我したときは手当したりすることもできる。
そんな小さなことでも、できるならやってあげたい。だから、
「…沢田くん、これからよろしくね」
非力な私だけど、自分なりに頑張るから。
06.はじめまして、マフィア
「じゃあ心を込めて"ボス"って呼んだ方がいい?」
「ボスゥ!?い、嫌だよそんなの!普通に呼んでってば!」
「沢田ボス!」
「それ全然普通じゃないじゃん!」
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