05


「桐野、これはどういう意味なんだ?」
「これは…、」

お昼休み。あの日から私は沢田くんたちと屋上に来ることが多くなった。目的は私のノートを見て勉強することだけど。
今も沢田くん、山本くん、獄寺くん、私、そしてリボーンくんの五人でノートを囲んでいる。今は歴史の勉強中だ。

「にしてもほんとすげーよな!オレ勉強苦手だけど、桐野のノートみてるとすぐに理解できるし」

山本くんはストレートに褒めてくれるから、嬉しい反面すごく恥ずかしい。自分のテストの点数が並くらいだから、教えるなんてそんな大層なことできないけど、やっぱり自分で作ったノートを褒めてくれるのはとても嬉しい。

「けっ!てめぇの頭が悪すぎるんだよ」

悪態をつく獄寺くんだけど、見た目とは裏腹にすごく頭がいいんだよね。いつも授業中は寝てたりしているのに指名されたときはすぐに答えているし。

「…獄寺くんて、すごく頭いいよね。普段どんな勉強してるの?」
「はぁ?んなもん教科書読めばわかるだろーが」
「お、オレ…教科書読んでもさっぱりわからない…」
「いえ!10代目は悪くありません!10代目に伝わるように配慮してない教科書が悪いんですよ!」

獄寺くん、そんなこといったら世の中全てのものに文句をつけることになるんじゃないかな…。

「なあ、今度ツナん家にいってみんなで勉強会しねーか?昼休みだけだとあんまり時間ねーだろ?」
「え、オレん家!?」

山本くんの提案に沢田くんがギョッとする。私はこの前一度だけ家にお邪魔したなあ。お母さんもすごく優しそうな人だった。

「そうだな。また全員でネッチョリやるか」
「またネッチョリ来たー!」

"また"ってことは以前にもやったことあるのかな?賑やかなみんなのやりとりに私は微笑ましくなった。
女の子の友達とお話しするのももちろん好きだけど、こうやって沢田くんたちとの会話に混ざるのも最近は楽しくなってきた。友達、と呼んでいいのかまだわからないけど、こういうのもいいなと思う。

そんな賑やかにみんなで話しているとき、カツンと一つの靴音が屋上に響いた。

「君達、何群れてるの。咬み殺すよ」

途端に一気に空気が凍りつく。いつからいたのかはわからないけど、この低い声はあの人のものだ。

「ヒィィィ!ひ、ヒバリさん!」
「ヒバリ、てめー!」

沢田くんが頭を抱えて真っ青になったと同時に獄寺くんが大量のダイナマイトを持って構える。…ん!?

「ご、ごく、でらくん…!」
「あぁ!?なんだよ!」
「その、手に持ってるのって…」

私が指摘した一瞬の隙を狙って、あの人…雲雀さんが獄寺くんをトンファーで殴りつけ、鈍い音とともに獄寺くんは地面に叩きつけられた。そんな獄寺くんを庇うようにして前にでた山本くんも容赦なく餌食になり、地面に倒れる。
…何が起こっているのか全くわからない。これは、喧嘩と呼べるレベルなんだろうか。とにもかくにも私は喧嘩自体目の前で見たことなんかない。ましてや本気で殴られるところなんて。
あの時と同じく、私は身体中が震え出して全く身動きが取れない。

「獄寺くん!山本!」

沢田くんが二人を心配してかけよるが、私はそれすらできない。この前は運良く見逃してくれたが、今回はそうはいかないだろう。今の状況は私も彼の言う、"群れる"という行為に当てはまっている。
わ、私も、殴られるの、かな。ただただ目の前で起こってることが信じられなくて、震えから歯をカチカチと鳴らすことしかできない自分が悔しかった。

「亜衣、大丈夫か?」

急に下の名前で呼ばれ驚いてそちらをみると、恐怖するどころかニヤリと笑みを浮かべるリボーンくんがいた。

「こ、怖い、けど…リボーンくんも危ないよ!に、逃げ、なきゃ…!」
「安心しろ。ツナがなんとかしてくれるからな」

え?と思った瞬間に、リボーンくんは銃口を沢田くんに向ける。

「死ぬ気で戦え」

ズガン!という凄まじい音とともに沢田くんが倒れた。…え?今、銃で、撃った…?嘘、それって、殺し…、

「復活!死ぬ気で戦う!」

最後まで考える前にどういうわけか沢田くんが起き上がった。そして何故かパンツ一丁で。
…ん?これまた何が起こっているのかわからない。沢田くんて、あんなキャラだったっけ?
でも戦いに関しては雲雀さんといい勝負のように見える。まさかあの雲雀さんとまともに戦える人が沢田くんだなんて、世の中はわからないことだらけだ。

「…え?あ、あれ!?」

沢田くんの声がしたと思ったらさっきの荒々しさはなく、普段の沢田くんに戻ったようだった。でも雲雀さんは構わず向かってくる。

「うわあああ!リボーン助けてー!」
「しかたねーな」

ボソリとリボーンくんが呟くと、ぴょーんと飛んで沢田くんと雲雀さんの間に入る。

「そこまでだぞ、ヒバリ」
「邪魔しないでくれるかい、赤ん坊」
「これ以上ここで続けたらおまえの大好きな学校が壊れちまうぞ」

まさに鶴の一声。その一言で雲雀さんが諦めてトンファーを仕舞うものだから、いよいよリボーンくんが何者だかわからなくなった。
雲雀さんがドアに戻ろうとしたとき、足元にある何かに気付いた。…あ、あれって、私のノート!
雲雀さんはそれを拾って中身をパラパラと見た。うわ、どうしよう。返してもらいたいけど、…ど、どうしよう!

「あ、…あの、」

小さく声をかけたが、何と言えばいいのか考えていなかった。返してください、なんて言えない。
ノートを見終わったあと雲雀さんはこちらに振り返り、私と目が合う。ぎくりとしたが今は武器を持っていないのでいくらかはマシだ。

「これ、君の?」
「…!そ、そう、です」

小さくではあるがなんとかそう返事をすると、私にノートを差し出してきた。

「勉強熱心なのはいいことだね。これからも続けなよ」
「え?は、はい!ありがとう、ございます…?」

特に表情を変えることなく言われたものだから、褒められたことにしばらく気がつかなかった。そして驚く私をそのままに屋上から去っていった。

「…リボーンくん、今のって褒められたんだよね?」
「そうだな。かなり珍しいことだぞ」
「…明日は雪なのかな」
「おまえも中々いうな」

リボーンくんに少しだけ笑われた。私だってまさかあんなこと言われるなんて思わなかったもの。最初は物凄く怖くて動けないくらいだったのに。
…あ、そうだ!沢田くん!私は沢田くんたちのほうへと駆け寄る。獄寺くんも山本くんもすでに起き上がっていて、特に大きな怪我はしてないみたい。

「二人とも、大丈夫…?」
「オレがあんなヤローにやられるわけねーだろ」
「オレも大丈夫だぜ!」

よかった、みんな大したことなくて。

「…二人が殴られたとき、凄い、怖くて…打ち所が悪かったら、とか考えちゃったから…。本当に、無事で良かった」
「大丈夫だって!ほら、なんともないだろ?」

山本くんが両腕を広げてひらひらさせてみる。そしてそのあと、慰めてくれているのか私の頭をポンポンとした。
え、え!頭ポンポンて…爽やか山本くんはなかなか凄いことをさらりとやっちゃう人なのかな。

「ごめんなさい、獄寺くん。あのとき私が話しかけなければ…」
「何ともねぇって言ってんだろ、いつまでも気にしてんじゃねーよ」

ダイナマイトを構えたことにすごく驚いた私は思わず話しかけてしまったけど、それさえしなければ隙なんか出来なかったかもしれない。
私のせいでこんなことになってしまったのに責めるどころか気にするなと言ってくれるなんて、どこまで頼もしい人たちなのだろう。

「あ、沢田くん」
「え?な、なに?」
「えと…ありがとう。助けてくれてというか、あれ以上騒ぎが大きくならないようにしてくれたから」

沢田くんがいなかったらきっと私もリボーンくんもみんな酷い目にあっていたかもしれない。そう考えるとまた身体が震え出しそうだ。だから、本当に助かったのだ。

「い、いや、オレは…、」

歯切れの悪い沢田くん。あ、そういえば何故だか沢田くん、今服着てないよね、下着以外。

「あの、さ。助けてくれたのはもちろん嬉しいんだけど…どうしていきなり裸になっちゃったの?」
「え?…あ、わ、うわあああああ!!」

改めて自分の格好を意識したのか、突然真っ赤になって叫んだ。私も雲雀さんのことで混乱してて後回しにしてたけど、本人がこうやって自覚してしまうと私まで顔が熱くなってしまう。
「見ないでー!」と言って自分の身体を腕で隠そうとするけど、もう遅いです。


05.疑問がたくさん

「み、見ちゃだめー!」
「ごめんなさい沢田くん!…でもなんか私がいけないことしてる気分になってきた」
「何言ってんの桐野さんー!?」

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