04


今日は休日。一週間分の食材を買いに私は商店街に来ていた。私の両親はお仕事の都合で一緒には住んでいない。お父さんが飛行機苦手な人だから国内にはいるみたいだけど、たまに電話する程度だ。
二人とも仲が良くてお金はもちろんだけど、よくお土産に食べ物も送ってくれることがある。でもそれがそろそろ切れそうなのでここに来たわけだ。
まずは野菜を買ってそれからお肉系も見てみようかな。

「…ん?」

野菜を買ったあと、やけに人がいるなと思って顔を上げるとすぐ近くに黒いスーツを着た人たちが大勢いた。え?な、何これ…。何でこんな商店街に…ドラマの撮影だろうか。…もしくは"ヤ"のつくあの職業の人!?
そんなわけないかと頭を振った瞬間に見えたのは、そのスーツの人たちの真ん中にいた人物。金髪で、恐ろしく容姿が整っていて、腕にはたくさんの刺青。
じーっと見ていたのが悪かったのかもしれない。私の視線に気付いたのかはわからないけど、こちらに振り向いてパッチリと目が合ってしまった。

「…っ!」

あ、あの人、絶対どっかの総長だ…!うわああと心の中で叫びつつ私は一目散に逃げた。どうみても怪しい集団にしか見えなかった。こんな真昼間から黒いスーツの人たちを大勢連れている金髪イケメンなんて中々いないよ。私は見てません…!



「つ、疲れた…」

ひたすら走ったあと、足が疲れてしまったためにその場で息を整える。ここまでくれば大丈夫だろう。
そもそも目が合っただけで追いかけてくるなんてことはないんだし。

「ちゃおっす」
「え?」

足元から聞こえてくる声に私は視線を落とす。そこにいたのはリボーンくんだった。

「おまえ、こんなところで何やってんだ?」
「え?えと…、金髪の、イケメンがいて」
「芸能人でもいたのか」
「ち、違うと思う…。黒いスーツの人、たくさんいたから」

最後の私の言葉にリボーンくんはニヤリと笑う。え、何?なんで今笑ったの?

「とりあえずおまえ、疲れてるんだろ?ツナん家寄ってけ」
「沢田くん家?」

きょとんとしたが、リボーンくんが指差した方の家の表札をみると、"沢田"と書いてあった。ここ沢田くんの家だったの!?


「ママン、ちょっとこいつを家に入れるぞ」

玄関に入るなり、そこにいた女の人にリボーンくんがそう言う。ママンってことは、沢田くんのお母さんだよね。

「あ、私、沢田くんと同じクラスの桐野亜衣です」
「あら、どうぞーいらっしゃい!」

とっても柔らかくふわりと笑うお母さん。あ、きっと沢田くんの笑顔はお母さん譲りなのかもしれないな。
「こっちだぞ」とリボーンくんに誘われ二階に上がる。一つの部屋の前までいきドアを開けると、シンプルな部屋が目に入った。

「ツナ、客人だぞ」
「客人?誰?」
「お、お邪魔、します…」
「え、桐野さん!?」

沢田くんは目をぱちくりさせている。そりゃあそうだ、最近お話するようになった人がいきなり自分の部屋に来たら驚くよね。

「えっと、いいよ!好きに座っちゃって!」
「あ、うん。ありがとう」

私は目の前にあったテーブルの前に座る。…男の子の部屋に入るのって初めてだな。ちょっと、緊張するかも。

「桐野さんは、何でここに?」
「随分疲れてたからな。休憩がてらにオレが呼んだんだぞ」
「え、何で?走ってきたの?」
「ディーノに会ったみたいだな」
「ディーノさんに!?」

二人の会話で出てきた"ディーノさん"とは誰のことだろう。さっきの金髪の総長みたいな人のことかな。

「桐野さん、リボーンの話本当?」
「え、と…名前はわからないけど、商店街で買い物してたら、金髪のイケメンさんに…あっ!」

私の大きな声に沢田くんがビクッと反応した。そうだ、走るのに夢中で全く気が付かなかったけど、どうしよう!

「さ、沢田くん…、どうしよう。私…向こうに買い物袋丸ごと置いてきちゃった…財布も全部置きっ放し!」
「ええっ!」
「盗まれるかな…あの金髪さんまわりにスーツの人たくさん連れてて、怪しかったし。私のお財布ごと盗まれちゃうかな…?」
「い、いや、ディーノさんはそんなことしないと思うけど」

とても心配ではあるけど沢田くんもリボーンくんもその人のこと知ってるみたいだし、悪い人ではないのかな?でも私一人でまたあそこにいくのはちょっと怖い。


「財布っていうのは、これか?」

聞き覚えのない声が部屋に響いた。ゆっくりと後ろを振り返ると、さっきみた金髪のイケメンさんがドアのところに立って私の財布を手にしていた。

「あ!そ、それ…私の…!」
「お、やっぱりそうか!あと買い物袋もあるぜ」

その人の足元には確かに私が買った野菜が入っている買い物袋がある。よ、よかった!あった!

「あの、ありがとうございます!てっきり貴方に盗まれたかと思って…」
「はっきり言うな、おまえ」

うわぁ、しまった、つい!思わずハッとしたが、金髪のイケメンさんはとくに気にしていないようでケラケラ笑っている。あ…、あんまり、怖くない…?

「ディーノさん、何でここに?」
「ああ、たまたま商店街でロマーリオたちと話してたら、この子と目が合ってな。そしたらオレを見た瞬間一目散に走っていっちまったんだけど、荷物置きっ放しだったから届けに来たんだ。方向がツナん家だったしな」

わざわざ届けに来てくれるなんて。すごい怖い人かと思っていたけど、人懐っこそうな眩しい笑顔に少し安心する。

「何でおまえ、ディーノから逃げたんだ?」
「え?あの…、黒いスーツの人たくさんいたから、もしかして危ない職業の人かと思って」

私の答えに三人とも黙ってしまった。あ…初対面でこんな失礼なこといったら、そりゃあ怒るよね…!

「ごめんなさい…!今すごく失礼なこと言いました」
「いや気にすんな!紛らわしかったオレたちも悪いし」

「…まあ、ある意味間違いではねーな」
「おい、リボーン!」

リボーンくんのボソッと呟いた声に沢田くんが反応した。私にも聞こえてしまったけど、間違いじゃないって、どういうこと?

「んじゃ、オレはそろそろ帰るぜ。届け物も渡せたしな」
「あ、ほんとに、ありがとうございました!」

私がお礼をいうと、ニカッと笑って沢田くんの部屋を後にした。さっきの"間違いではない"っていう意味を聞こうと思ったけど、タイミング逃しちゃったかな。
視線を沢田くんに戻してじーっと見てみるが、視線に気付いた沢田くんは耐えきれなくなってオロオロとするだけだった。
駄目だ、教えてくれそうにない。これ以上見ていたら沢田くんが発狂しそうな勢いだし、やっぱり聞かない方がいいのかな。

「おまえ、コーヒーでも飲んでくか?」
「え?いいの?」
「せっかく来たんだしな。おいツナ、コーヒー淹れてこい」
「オレパシリかよー!?」

全くもう!といいながらも一階へ降りていく沢田くんは本当に優しい。


「…おまえ、最初に会ったときノートを書くのが好きだっていってたよな」

リボーンくんの突然の問いかけに少し驚きながらも頷く。最初に会ったのは、お昼休みのときだったよね。

「文字を書くのが好きってことか?」
「…うん、そうかな。綺麗に書けたとき気持ちが良いから。自分なりに色分けとか、補足とか付け加えると、勉強したなって思えるし、これは自分のオリジナルのノートなんだって感じるの」

自分の作ったノートで勉強するのはそんなに苦ではない。勉強自体は好きではないけど、文字を書くという作業は好きだからさらさらと書いていけるのだ。
すごくくだらないし、小さいことだけど、私にとってはそれが幸せだったりする。

私の答えに満足したのか、リボーンくんはニヒルに笑った。…何でこんな質問をしたんだろうと問いかける前に沢田くんが部屋に戻って来たので、質問することはできなかった。


04.お探し物は何ですか?

「おまえコーヒーの淹れ方へたくそだな。あとでネッチョリやるからな」
「ネッチョリ嫌ー!」
「(え…私どんなコーヒーの淹れ方でも同じ味に感じるんだけど…!)」

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