02


昨日は妙な体験をしてしまってすごく疲れた。おかげでぐっすり眠れたのはよかったけど。

「亜衣ちゃん、おはよう!」
「あ、京子ちゃん!おはよう」

笹川京子ちゃん、私の友達だ。ふんわりとした笑顔がとっても可愛らしくて学校内のアイドル的な存在な子。今日も素敵な笑顔ごちそうさまです。

「ねえ亜衣ちゃん、今日の放課後って空いてるかな?」
「うん、特に用事はないよ」
「よかったー!あのね、駅前に新しくケーキ屋さんが出来たの。花とも行こうって話してたんだけど、一緒にいかない?」
「ケーキ!うん、いく!」

ケーキ屋さん!モンブラン食べたい、チョコレートケーキ食べたい!朝からテンションの上がるお誘いに自然と頬が緩む。花と呼ばれたのは私と京子ちゃんの友達で、名前は黒川花。京子ちゃんとは違うタイプだけど彼女もすごく美人さん。
京子ちゃんが自分の席に戻った後も、私はうきうき気分が抜けなかった。早く放課後こないかな…!

「桐野さん」
「ひうあ!」
「うわあ!?」

突然話しかけられたことで私はガタガタッと椅子を揺らして落ちそうになりつつもなんとか踏ん張ったけど、その慌てぶりに話しかけてくれた人を驚かせてしまった。

「えっと、何…、?」

何か用なのかと思って顔を上げると、昨日ほぼ初めて話すようになった人のススキ色の髪の毛が視界に入った。

「さ、さわ…!え、あの、…な、なな何か、ご用でしょう、か?」
「何でそんな怯えてんのー!?オレ何かした!?」

直接何かはされてないけど獄寺くんを通じてとんでもない家柄の子なんじゃないかと…下手なことは言えない…!

「め、滅相もございません!貴方様は私になんてそんな、あ、うあ、」
「いつの時代の人!?普通に喋っていいから!」
「だ、だって、獄寺、くんが…10代目って、」

そういった瞬間、沢田くんの顔が、あちゃーといった表情で手で顔を抑えた。え、何?何か私間違ってた?

「えっと、気にしなくていいから!普通に喋って、普通に呼んでくれていいから!」
「…沢田、くん?」

私の言葉に「うん、そう!」とやわらかく笑った沢田くんはとても温かい感じがした。あ、なんだ、全然怖くない。むしろとても優しい印象だ。

「ごめんなさい、変なこといっちゃって」
「う、ううん!オレの方こそ昨日はごめんね。なんか変に絡んだっていうか…」
「…それを謝りにきてくれたの?」
「え?うん…」

すっごく優しい人だ沢田くん。私はこんな人を怖いだなんて勘違いしてしまったのか…本当に申し訳ないです。

「あ、私は大丈夫だよ。びっくりはしたけど」
「う、うん。だよね」
「ところで、10代目って何?」
「え!?」
「昨日、沢田くんがそう呼ばれてたから、もしかしてものすごい家柄の子なのかなって思って」

私がどうして変な態度をとってしまったのか理由を話すと、沢田くんは「あ…えっと…」と妙に歯切れが悪くなってしまった。もしかして聞いちゃまずいことだったのかな。

「ごめんなさい、やっぱり今の気にしないで!」
「え?あ、うん」

沢田くんは一瞬ぽかんとした顔をしたあとに、ホッした表情を見せた。昨日も思ったけどあんまり聞かれたくないことだったのかもしれない。このまましつこく聞くのは無粋だよね。
自分の中で自己完結するとタイミング良くチャイムが鳴った。

「じゃ、じゃあまたあとでね、桐野さん」
「うん、また…、」

また、"あとで"?あとでって、何?



お昼休みになってその理由がわかった。どうやら私のノートを見せて欲しいということで、もう一度私のところに来たのだ。ただ、私が綺麗に書き直しているのは国語と社会と理科だけ。英語と数学は習った問題がそのまま出るわけではないので書き直しはしていないのだ。
それでもいいかと聞けば、沢田くんはものすごく嬉しそうな顔でお礼を言うものだから、もうこれは断れない。

教室で見せるのかと思ったら、お弁当を食べながらということらしいので、私も屋上に行くことになってしまった。そっか、いつも屋上でお弁当を食べていたのは沢田くんたちだったんだ。
ノートを見せるのはいいけど、そんな男だらけのところに私だけは行きづらい…。でも沢田くん嬉しそうな顔してるしなぁ。


「獄寺くん、山本!」
「10代目!」
「よ!ツナ、来たか!」

三人がそれぞれ挨拶をする中、私は沢田くんの後ろからおそるおそるついていく。ゆっくりとみんなの方に顔を向けると、案の定獄寺くんとバッチリ目が合った。

「…何でてめーがいるんだ!」
「うわあカツアゲ系男子…!」
「どんな男子!?」

沢田くんにつっこまれてしまったけど、だってもう獄寺くんに初対面で腕掴まれちゃったからそれしか思いつかなくて…!

「てめぇは来なくたっていいんだよ!ノートだけ置いていけ!」
「い、嫌です!私のノートを人質にしないで…!」
「何の話だ!」
「獄寺くん、落ち着いてー!」

大切に胸の前でノートを抱える私と掴みかかってきそうな勢いの獄寺くん。そんな獄寺くんを止めようと必死な沢田くん。胡座をかいて爽やかに笑っている山本くん。
いやいや、山本くん笑ってないで助けてよ…!


そのあとは現れたリボーンくんによってなんとか収まったけど、お昼休みなのにこんなに疲れるとは。早めにお弁当を食べ終えたあと、私はノートを広げてみんなに見えるように見せた。

「へー、すごい綺麗に書いてある」
「これならテスト勉強のときすげー便利だな!」

沢田くんと山本くんは素直な感想を言ってくれたけど、獄寺くんはちらっと見ただけでそっぽを向いてしまった。

「なあ桐野、この赤い文字の隣に書いてある付け足しみたいなやつ何だ?」
「あ、本当だ。絵も書いてある」

私が授業中にとっているノートは、重要な言葉が出てきたときに隣に補足みたいなものを付け足している。歴史の授業のときが特に多いけど、単語だけノートに書くよりもその意味とかもストーリーとして書いてあるとあとで読み返したときにわかりやすくなるのだ。
棒人間で絵を書いたりもするけど、綺麗なノートのほうではもっとわかりやすく綺麗に書き直している。
そのことを説明するとノートの補足を読んでいるのか、山本くんも沢田くんもなるほどと理解してくれているみたいで私は少し嬉しくなった。

「すげーな、さすがだぞ」

いつの間にか目の前にいたリボーンくんに褒められる。なんだか彼に褒められると余計に嬉しく感じるのは何でなんだろう。
恥ずかしく思いつつも少しだけ口元を緩めていると、「…おい」と獄寺くんに声をかけられた。何か言いたそうな、もどかしいような顔をしている。

「こんなもんで10代目がてめぇを見習うなんて許せねーけど、てめぇが自分なりに努力してんのは、…認めてやる」

私はポカンとした。獄寺くんには昨日初めて話したときからあんまりいい印象を持たれていなかったと思っていたけど、これは彼なりの優しさみたいなものなんだろうか。でもこれはすごい進歩なのかもしれない。

「ありがとう…!」

お礼を言ったらまた不機嫌な顔でそっぽ向かれた。
どうなることかと思ったけど、少しだけ仲良くなれたのかなって思う。獄寺くんもそんなに怖い人じゃないみたいだし。
さて、午後の授業が終わったら私は京子ちゃんたちとケーキ屋さんにいくんだ。何食べようか楽しみだな!


02.屋上でお勉強会

「何食べようかなー」
「私、ショートケーキとザッハトルテとフルーツタルトにしようかな!」
「京子…」
「…京子ちゃん、そんなに食べるの?」

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