×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

お茶をどうぞ

Step.16 推理ショー

今回の事件にかかわった人達が集められた。私の後に来たのは、綺麗な着物姿の女性。自己紹介をしてれて分かったけど、舞妓さんらしい。綺麗なのに、お化粧したらもっと綺麗になるなんてすごいなぁ。なんて思いながら、そっと綾小路警部の近くで佇む。コナンくんのお友達なのか、小学生の男の子女の子三人。どうやら京都に行きたいと、毛利さん達と知り合いの白髪のおじさんに頼んだそうな。
色んな人と知り合う日だ、としみじみ思いつつ、皆の視線は毛利さんに集まった。

「毛利さん…、桜氏の殺害した犯人が分かったってホンマですか?」

今回の調査担当になった白鳥さんの隣に立ってそう訊ねた綾小路警部。毛利さんは御池の淵に片足を置いて、ポーズを取って「はい」と肯定した。
わぁ、私、探偵の推理を聞くの初めてだなぁ。
どんな推理になるのか、内心わくわくしつつ、私は耳を傾けた。

「ではお話しましょう。その犯人とは、千賀鈴さん、あなただ!」
「!」

指を差した先には、舞子の千賀鈴さん。一連の事件についてそこまで詳しく知らない私からしたら、そうなの?と思ったけど…。

「ンなアホな!?…ムチャクチャやその推理…」

服部くんが即答で否定の声を上げた。すぐに慌てた素振りを見せたけど、服部くんの様子からどう見ても納得のいかなさそうなものだった。
…名探偵が推理、してるんだよね?

「大丈夫なの?」
「とにかく最後まで聞いてから…」
「……」

部屋に座っている園子ちゃんと蘭ちゃんが不安そうな表情を見せているのを目撃した私。
え?名探偵…だよね?
疑わざるを得ない様子だけど、気を取り直すように「ゥオッホン!!」とわざとらしく咳払いをして、毛利さんは自分の推理を披露された。

「動機は父親を殺害された復讐!そして、その父親とは…盗賊団の首領、義経だ!」

平成の義経は盗賊団の頭、というゴシップタイトルになるほど話題となった“源氏蛍”。その盗賊団首領は、千賀鈴さんの父親だと毛利さんは言った。

「義経は三ヵ月前、部下達の裏切りで殺されたんだ!だから、茶屋への送金が途絶えた…」
「なるほど」

茶屋への送金、というのは千賀鈴さんの出生のお話なのだろう。それに関しては、私は知らないので、納得の声は出せなかった。でも、白鳥さんは事情を知っているのか、頷いていた。それに拍子づいて、毛利さんは続けた。

「そしてアンタには共犯者がいた。弁慶だ!」
「弁慶?」

“源氏蛍”の二番目に偉い人、と思っていいのかな。実際、歴史の中でも弁慶は義経の右腕的存在。組織のNo.2なのは確か。
その弁慶が、千賀鈴さんの共犯者というのだが…。

「その弁慶とは誰あろう…、おじゃる警部!お前だ!」
『!?』
「……え?」

ちょっとこのおじさん、何言ってるの?
一瞬、頭が真っ白になった。周りの人も驚いているけど、私も驚いた。だって、予想外の人を犯人呼ばわりしてるんだから。
綾小路警部が、文麿さんが今回の事件の共犯者?
ふざけてるの?

「(というか、なにその“おじゃる警部”って)」

文麿さんを馬鹿にするのも大概にしてよ。
キッと、思わず毛利さんを睨んだ。でも、自分の推理に酔っているのか、毛利さんは私の視線に気付くこともなく、事件の犯行を推理した。

「千賀鈴さん…、アンタはお茶屋に来る時、あるものを隠し持って来た。短刀と、警部の飼っている、そのシマリスだ!!」
「!」
「わ…」

綾小路警部に向けて指を差した毛利さん。すると、タイミングよく綾小路警部のポケットから出てきたのは、可愛いシマリスちゃん。名前が呼ばれて反応して出てきたのか、綾小路警部の肩へとよじ登って、そのまま勢いよく私のほうへとジャンプしてきた。
咄嗟に手を出して着地させると、そのまま私の肩へと上り詰めた。

「わぁ、可愛い!」

カチューシャをした小学生の女の子が、シマリスちゃんを見て目を輝かせた。二人の男の子も、初めて身近でみるシマリスちゃんに、口を開けて驚いていた。
あ、やっぱり?可愛いよね、綾小路警部の飼ってるシマリスちゃん。

「そのシマリスがトリックの鍵だったんだ!」

シマリスちゃんを一瞥し、毛利さんは推理を再開した。縁側に腰を下ろして、千賀鈴さんを見た。

「千賀鈴さん、アンタは御座敷の途中でトイレへ行くフリをして納戸で桜さんを殺害!戸棚か何かに隠しておいたシマリスの体に短刀を結びつけ…地下のガラス戸から放したんだ!シマリスはみそぎ川に飛び降り、川下へ向かう。それを、川下で待っていた警部が拾い上げ、後でその短刀で平次を殺害しようとしたんだ」
「そっか!あの水音はシマリスが飛び降りた音だったのね!」

納得した園子ちゃんが声を上げた。
毛利さんが言っているのをまとめると、事件現場で凶器が見つからなかったのは、シマリスちゃんが持って逃げ、綾小路警部が拾って持ち去った、という事になるわけだ。確かにシマリスちゃんは水が嫌いというわけじゃない。水浴びという名のお風呂に入ってるわけだし、みそぎ川に飛び降りるのも容易いはず。
でもさ…。

「(私、文麿さんとずっと一緒に居たんだけど…)」

それって、私も共犯者になりませんか?
シマリスちゃんを手のひらに乗せて、頭を撫でながら私は言おうか言わなくてもいいのか悩んだ。でも、私を放って推理は進んでいく。

「桜さん以外の殺しも二人の共犯者だ!…警部さん、あなた弓は?」
「そんなややこしいもん、やったことあるか!!」
「……」

毛利さんの突然の質問に綾小路警部は、きつい言い方で答えた。けど、私的には納得いかない。
ややこしいもの…ねぇ……。

「…綾小路警部、弓道をそんな目で見られていたんですね」

ボソリ、と背後から私は思わず言ってしまった。出た声は思った以上に低かったみたいで、ビクリ、と綾小路警部の肩が揺れた。

「雫玖…!いや、ちゃいます…!」
「ふぅん……」

白々しいなぁ、なんて半目で見れば、綾小路警部はわたわたと慌てる。そんな反応するなら、私がいる前で言わなきゃいいじゃないですか。
私、弓道が大好きなのに。

「綾小路警部のバーカ……」

まぁ、毛利さんに犯人呼ばわりされて頭に血が上って後先考えずに答えたんだろうけども。
私の呟きは届かないまま。毛利さんは千賀鈴さんに歩み寄り「本当ですかねぇ」と言った。どうかしたのか、と思えば、千賀鈴さんの矢枕には絆創膏が張ってあった。
あれは…。

「でも千賀鈴さん、弓をやる人はここが矢尻で擦れて怪我をすると聞きます」

毛利さんが掴んで目で言ったのは、千賀鈴さんの親指。綺麗な指に映えている絆創膏は、とても痛々しく見える。でも、矢枕を怪我するって事は彼女はまだ始めたばかりなのかも。舞子さんなのに弓をするって、お稽古の一つなのかな。でも、なんだか懐かしい。私も始めた頃、練習し過ぎて擦れる、じゃなくて抉られてたもの。
毛利さんに指摘されて、戸惑いながらも千賀鈴さんは答えた。

「確かに、この矢枕の怪我は弓をやってるせいどすけど…、まだ始めたとこやし、人を射るなんて絶対でけしまへん!」
「……」

千賀鈴さんが答えている途中で、服部くんとコナンくんが何かに反応したのが見えた。二人とも、毛利さんの推理を聞いている時から、真剣な表情をしていたけど、やっぱり毛利さんの推理はあってないようだ。それにしても、コナンくんは小学生らしい表情をしていないのがすごく、とても気になった。
きっぱりと言い放つ千賀鈴さん。すると、蘭ちゃんが千賀鈴さんに近寄って「私もそう思うなぁ」と言った。弓道部の子の話から初心者は怪我をしやすい、と聞いたことがあるそうだ。二人がそう言うんだ、もう一声付け足せば、彼女は犯人じゃないって分かるはず。

「千賀鈴さんが、弓の初心者であることは、私が証明します」

それなら、私が言ってやろうじゃないか。