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狐様は弄ぶ



何艘もの緊急小型艇に乗りかえた妾達は目と鼻の先に見える黒縄島を見据える。というのも、手を貸した妾達が暴れに暴れてしまったが故に、大型艇が使い物にならなくなっただけじゃ。それに関して土方が犬のように吠えるが、そんなことは知らぬ。奈落という存在がこの世におるのが悪いのじゃ。妾の晋助をああまでしたのは誰じゃ。
待て、奈落ではなかったではないか。
この羽衣狐の目の前に居る死んだ魚の目をした男ではなかったかぇ?
沸々と湧きあがる怒りに妾の尾は動いた。

「おのれ、晋助の仇!!!」
「お前がいきなり暴れるってどういうこと!!?」

咄嗟に尾で攻撃したら躱された。苛立ちを隠さず、舌打ちを溢す。銀の字が何か喚いておるが無視。このまま一緒にいると甘い息が妾の服についてしまうので、それは御免被りたい。ふわり、と妖術を使って宙へ逃げる。

「あ!!テメ、千遥!そういうのするのかよ!!一人だけ逃げやがって!!俺も一緒に連れて行きやがれ!!」
「なに言ってんだてめェ!!こんな野郎より俺を乗せてください!!!」
「ふッざけんな!!!俺とアイツの方が長い付き合いなんだよ!!俺よりもお前が乗ったら、俺とアイツの今までは何だったのかってなるだろーが!!」
「おい、じゃれ合うてないでさっさと向かうぞ。奴らが妾達に気付く前に」

それとだな。
ピタリ、と宙に止まって銀の字と土方を見下ろした。

「妾に触れることを許しておるのはあのろくでなしだけじゃ。貴様らのような卑しい輩が妾に触れられると思うでないぞ。その前に貴様らを塵にしてくれるわ」
「ハイライトの無い目でこっち見てんじゃねェよ女狐!!!」
「お前過激にも程があるだろォが!!塵にするとかたとえでもなんでもねェだろ!!本気じゃねェか!!」

やれ喧しい連中だ。茶番に付き合うつもりはないというのに。
上空から見て、ふと気付く。

「おい、銀時」
「あ?何だよ」
「此処には辰馬は居らんぞ。誰もお前の策にとやかく言う者は居らぬ」
「……へェ」

妾の言いたい事が分かった銀時は、ニタリと卑しい笑みを浮かべた。
それから奴の行動は早かった。真選組、攘夷志士の者共に指示を出し、素早く行動した。まだ使える大型艇を島の正面に配置させる。その船にはたんまりと火薬を乗せて…な。
遠くの水平線で大きな爆発が起きた。きっと一面が文字通りの火の海となっておるのであろうな。
攘夷戦争時代、銀の字が辰馬に叱られる戦略の一つであった。
さて、辰馬が怒るような策を講じる間に、妾達の行動はどうするか。愚問じゃ。敵が囮の大型艇を攻撃する隙に、本隊は不可能と言える断崖絶壁を上り、攻め入るだけの話。

「正面以外侵入不可能なら、正面以外から入れれば城は簡単に落ちるってこった」
「この絶壁を登りきれると?」
「敵もそう思ってんなら価値がある」

とはいえ、もたもたしておる時間はない。
沖田が後方に火薬船、四方に撹乱部隊を置いたとしても敵を引きつけていられるかは不明確だと言う。奴の言う通りではあるな、と心の中で同意する。目の前の絶壁を見て沖田は中腹より上はなんとか登れなくはない、と断言した。
だがそこまではどうするか。
案を求める沖田に策を提示したのは神楽であった。

「一人があそこまで登って、縄を垂らせばいいアル。私に任せるヨロシ」
「チャイナ、お前…いいな」
「オウ!こんな崖、ひとっ飛びアル!」

そう言うた神楽の手には縄。名案であるかはどうか置いといて、その縄をどうするのであろうか。黙ったまま見届けようと思うた矢先じゃ。
縄に縛りった沖田をハンマー投げのやり方で投げて崖に突き刺しおった。

「みんな!あの縄につかまって登るアル!」
「お前が登るんじゃないんかいィィィ!!あんな血塗られた縄使えるか!!しかも長さ全然足りねェじゃねェか!!」
「仕方ないアル。もう少し長さを足そう!」
「人間は足さなくていいィィィ!!!」

神楽は壁に突き刺さった沖田の隣に土方も突き刺した。副長、一番隊隊長の無様な姿に妾は思わず嗤ってしもうた。

「ホホホ、愉快愉快。余興にしてはなかなかじゃな」
「なんで愉しそうにしてんの!?めちゃくちゃ愉しそうに笑ってるんだけどこの人!!」

銀の字がこの際だ、と真選組隊士や桂一派の浪士共を崖に突き刺して、階段のように並べ始める。それがまた愉快であった。これを踏めば良いのか、と一段目に足を乗せて妾も愉しんだ。

「おい、階段。動くでないぞ」
「なんでアンタは女王なの!?普段とは大違いなんですけど!!?この人沖田隊長と同じくらいのドSじゃん!!」
「妾があの小僧と同じ?世迷言を言うでない。妾が貴様らを玩具のように扱えば、そのような口の利き方をさせることなどせぬぞ」
「女王でもないよこの人悪魔だよ!!怖いんだけど!!」
「喚くな騒々しい」
「ギャン!!」

苛立ってしまい思わず蹴ると、階段は黙った。そうじゃ、それでよい。
階段は喋るものではないからのぅ。
じゃが、この茶番は飽いた。

「おい、貴様ら。つまらぬ茶番は要らぬぞ。さっさと上に行く用意をしろ」
「お前も愉しそうにあいつ等を踏んでた癖になに偉そうにしてんだ!」

土方にそう言われるが無視を貫く。怒り心頭の土方であったが、妾を鋭い目で見てきた。奴の纏う空気が変わった事に気付き、土方を見る。真意を見抜こうとする眼差しであった。

「おい、正直に答えろ。……てめェは何者だ」
「……ほぅ…。妾にずいぶんと舐めた口を利くではないか」
「生憎、俺ァてめェの事は知らなくてなァ。女王だろうがお稲荷様だろうが、知ったこっちゃないね」
「……フッ…面白い小童じゃ」

此度の余興として楽しめそうじゃ。
土方の問いに答えることはせず、銀の字の元へ向かう。茶番は既に終わったようで、崖に縄を垂らすように手筈を整えておった。
鴉が鳴いた。
崖の中腹までは縄を頼りに登り、それより上は自力で上がる。敵はまだこちらに気付いておらなんだ。妾や銀時の予想では既に脱獄を始めた小太郎たちがこちらに向かおうとしているだろう。妾達の目的はあくまで小太郎たちの奪還。無謀な争いは避けるべきじゃ。銀時達が登り、真選組や浪士達もそれに続く。こちらを不安げに見つめるお妙に妾は声を掛けた。

「お妙や、心配するでない。すぐあの馬鹿どもを連れ戻してくるからな」
「…千遥ちゃん、無茶はしないでね…」
「案ずるな。妾は、銀時達は、そう易々と死なぬぞ」

不安を拭えない眸を妾に向けるお妙。少しでもその不安を取り除きたかった。じゃが、小太郎たちを連れ戻すことができなければ、お妙の不安が無くなることはないのであろう。
まったく、可愛い娘を悲しませるとは罪な男共じゃ。

「行ってくる」
「…行ってらっしゃい」

頭を撫で、妾も銀時達の後を追う。
妾達の邪魔をしようとする鴉が鬱陶しい。
まぁ、そんなことはどうでもよい。それよりも、崖を登る絵面はあまりにもみすぼらしいものであった。
羽衣狐である妾が斯様な事をすると思うか?
否、許されるはずが無かろう。

「妾は先に行くぞ、銀時」

ふわり、と妖術で体を浮かす。
下を見んとする奴らを悠々と通り過ぎ、先頭を登る銀時達と並んだ。

「貴様らより先に行って、様子を見てきてやろう。必死に登ってこい。死ぬでないぞ」
「あ!てめ、千遥!お前ずりィんだよ!!」
「なにを言うておるのじゃ。妾は妾の力を有効活用しておるだけのことじゃ」
「それを俺達にも使わせろっての!!お前だけいいモン持ちやがって!!」

ギャーギャーと喧しい銀の字。宙を浮いて上へと向かう妾に唖然とする真選組や攘夷浪士共。妾に向けるその眸にはほんの僅かではあるが“おそれ”が含んでおった。無意識に上がる口角。
その感情をもっと妾に寄越すがよい。
貴様ら人間の“おそれ”が、妾の力となるのだから。

「ゆっくり上がってくるがよい。貴様らの必死な形相を肴にでもして……」

見ておいてやろう。
そう言おうとしたが、言葉は止まった。
頭上で蠢く気配。
頼りない月光に照らされる奴らに妾は目を疑った。
天導衆・奈落。
騒々しい鴉に苛立ちを隠せなかったのはこれが理由であったか。

「おい、千遥……」
「岩壁を立てにして動くでないぞ!!」
「!?」

妾が声を上げたのとほぼ同時であった。
無数の矢が無防備の銀時達の頭上に降り注いだ。
いかん、このままでは銀時達が危ない。

「やはり鴉は腹立たしいのう!」
「千遥!」

二尾の鉄扇を広げ、大きく振り翳す。突風が巻き起こり、軌道が逸れた矢が弱々しく落ちてくる。じゃがそれはほんの一部だけ。防ぎれなかった矢が銀時達に向かって加速する。ただ攻撃を待つはずがない。銀時達は片手で岩壁を掴み、もう片方で刀を持ち矢を斬り落とす。

「卑しい鴉共めが、ッ!!」

銀時達の身を案じていたから油断した。
怒り、恨み、奈落共に殺気を孕んだ目を向けようとした妾の眼前に迫る矢。
しまった。
どす、と鈍く生々しい音が辺りに響いた。

「!!?」
「千遥!!!」

鴉の嘴が狐に命中した。
妖術を操ることも出来ず、重力に従い落ちていく身体。銀時が手を伸ばしたが、妾に触れることは叶わなかった。神楽が感情的になり、無謀にも無理矢理登っておったが、掴んだ岩を崩されて落ちかけた。助けようと動いた妾よりも先に神楽の手をとったのは沖田じゃった。

「千遥ッ!!!」
「第二波が来るぞォォォ!!」

銀時が声を荒げた。
神楽と沖田が完全なる無防備。このままでは沖田も神楽もあの鴉共の恰好の餌食じゃ。
二人をなんとか助けようと動いた時。
鴉共の足下からモーター音が聞こえた。徐々に大きくなるその音に不審になった奴らは足元を見る。
そんな愚かな鴉共の前に現れたのは、エリザベスや真選組隊士達であった。

「いまだ!進めェェェ!!」
「ウオォォォ!!」

土方の怒号や鬨の声が上がる。
銀時達の存在を愚かで阿呆の鴉共にちらつかせ、その隙に鴉の背後を穿つ穴を掘って奇襲を仕掛ける。
それが銀時達がこの崖を登る際に企てた策であった。

「踏み躙れェェェ!!!」

主力達も崖を登り切り、乱戦に混じる。
フフ…。敵の虚を突くためとはいえ、なかなか面白い余興であったぞ。
強靭な妾の尾に刺さった矢が砕けた。
と、同時に地面を崩落させ、殺気に反応を見せた尻尾で卑しい鴉共を串刺し、浮かせた。

「……まさかあの程度で妾が死ぬとでも思うたのかぇ?……貴様らの貧弱な嘴で突かれるようなか弱い狐でないぞ」

パタパタ、と美味しそうとも思わぬ赤い雫が頬に散った。
尻尾に胸に穴を開けた鴉共をそこらに放り投げる。ゆっくりと地に降り立ち、妾を警戒する下賎な鴉共を見遣った。

「さぁ、妾を楽しませておくれ。直ぐに地に堕ちるのはつらまぬからなぁ」

鉄扇を巨大化させ振り降ろした。

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