成り代わり | ナノ
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狐様と第七師団副団長



「行くがよい、銀時。……頼んだぞ」

銀時達の気配が遠ざかっていく。それを背に感じながら、妾は幕府の狗の隣に立った。

「てめェはあっちに行かなくてよかったのかよ」
「千遥ちゃんは、てっきり万事屋としてあっちに残ると思っていたんだけどなぁ」
「何を勝手に勘違いしておるのじゃゴリラ。妾がいつ銀の字達の仲間となったのじゃ」
「待って、今俺のことゴリラって言った?ねェ言ったよね?」

妾はいつでも、たとえ死したとしても、鬼の如き兵隊にしか属さぬわ。
隣でゴリラが騒いでおるがそれを無視し、妾はこちらを一度も見ずに前を見て走っておる銀髪のうつけを脳裏に思い描いた。
この道の先、銀時を待っておるのは晋助である事など妾には分かることであった。そして、死闘を繰り広げることも。違えた道が交わることは無い。袂を分かったならば、たとえどちらが死のうと二人は世界を壊そうとし、世界を護らんとする。己が運命めた道を歩み続けるために。そんなところに妾が居てはいけぬ。壊すべきこの国の王手を護っておる妾に気付けば、彼奴は少なからずも動揺する。この依代の姿、羽衣狐であることが知ってしまうような事、真剣勝負の前で揺るがすような事をしてはならん。
それに、妾は晋助に嫌われたくはないのじゃ。
この依代が妾であると知られ、将軍を護る側に居るというこの状況。晋助は裏切ったと妾を恨むかもしれぬ。憎むかもしれぬ。そんな事、好いておる男に思われたくないなど、女の恋心というものであろう。
妾は会いたいぞ。妾が愛しておる高杉晋助に。
じゃが、それはきっと…銀時と闘い終えた晋助であろうから。

「生きて、また会おう」

なぁ、晋助。妾は生きておるぞ。
もう一つの約束を果たそうではないか。

「ハッ、何かあると思ってはいたが…やっぱりただ者じゃねェみたいだな」
「ほぅ?妾の正体を見破ろうとしておったのかぇ?すまんなぁ、お前の視線など蚊が飛び回っておるようにしか思わなんだったわ」
「それがてめェの本性ってなら、今までのは全部芝居だったってか?何者か吐いてもらうから、終わったらしょっ引いてやる」
「貴様が妾をとな?ほほ、世迷言を。貴様ら程度の人間が妾を捕まえると思うな」
「ハッ!減らず口を!!」

刀を構えた二人と同時に妾も夜兎どもに向かって駆け出した。後方から百地が補助してもらっておるが、それはそこの二人だけにしておけば良い。

「兎は大人しく、雑草でも食べておれ」

二尾の鉄扇を巨大化させ、妾を一網打尽にせんとする夜兎どもを振り払う。突風が起き、宙に舞う格好の獲物を三尾の太刀と四尾の槍で首を刎ね、突き刺し、息の根を止める。背後から攻撃せんとする者もおったが、残念であったなあ。
視えぬそれが風穴を開ける。

「何じゃ?攻撃して来ぬのかぇ?」

息をしておらぬ人形が妾の道を妨げておったから鉄扇で吹き飛ばす。それは丁度、妾に向かってきた夜兎どもの方向であったようで、突然視界を邪魔してきた骸に夜兎どもは振り払う。しかし、その一動作が隙を与えてくれた。

「白兵戦は得意としておったのではなかったかぇ?」

妾を視界に捕えた時すでに他と同じように骸に成り果た。
刀身にべっとりと付いた血を振り拭う。ふと手にも返り血がついておったようで、ぺろり、と舐める。錆びた鉄のような味が、久しく感じた。

「おいおい、俺達ゃ希少種族なんだぜ?少しは丁重に扱って欲しいもんだぜ」
「…ならば大人しくこの地球ほしから立ち去り、ひっそりと過ごすがよい」

そう言いながら、妾の前に現れたのは百地の絡繰人形で義手を破壊された男。
銀時や神楽と一度相見えた夜兎の男。
他の者とはそれなりに修羅場をくぐり抜けておるようじゃ。纏う空気というものが違っておった。じゃが、そのような事、妾には関係ない。

「こーんな別嬪なお嬢ちゃんが戦うなんて世も末だねェ」
「有り難く思うがよい。そんな娘子が、貴様のようなくたびれた風貌をしておる輩の相手をしてやるのだからな」
「かァーっ!そんな辛辣な言葉は無いんじゃないの?おじさん、傷付いちゃうよ」
「なら傷つくがよい。貴様が心に体に傷を負うとも妾には関係の無いこと。むしろ、貴様が傷を負い痛み喚いた姿に妾は恍惚として見てやろう」
「それは勘弁したいこった。俺ァそういうドMは持ち合わせてなくてなァ!」

そう言いながら妾に向かってきた男。人間より速い動き。戦闘種族の一つであるだけあった。
じゃが、妾の目に捉えることは可能であった。
番傘の先を妾に向けて突きだした男の攻撃を鉄扇で防ぎ、さらに鉄扇で番傘を地面に沈ませる。その隙を狙い三尾の太刀で頸動脈に狙いを定めて振り下ろすが、咄嗟に動いて躱した。
ほぉ、なかなかやるようじゃな。

「鼠、大人しくしろ」
「残念だが、俺ァ兎であって鼠じゃねェよ」

番傘と太刀が交わる。一歩も譲らぬ戦いではあるが、周りの連中も気になるのは確か。夜兎族の強靭な肉体と生命力は馬鹿に出来ぬ。土方と近藤を盗み見れば、倒してはおるがそれなりに怪我を負うという代償を受けておった。
思わず舌打ちを溢したくなった。

「おいお嬢ちゃん、おじちゃんの相手をしてくれてるんだから他の奴に目移りしちゃ駄目じゃねェの」
「…ほう?妾が?目移りとな?」

その言い方ではまるで妾は貴様だけを見ておると言うておるようではないか。
貴様のようなくたびれた男を好むとでも思うておるのか。馬鹿を言うでないぞ。
妾は生涯たった一人しか愛さぬのじゃぞ。
純粋で、真っ直ぐで、そして心優しい男を。

「妄言を口にするでないぞ、兎風情が」

ぶわりと尾が出し切っ先を鋭くさせ男に向け放った。

「!?」

殺気を感じ取ったのか、それとも夜兎の勘が働いたのか、どちらにせよ咄嗟に妾から離れたのは正解じゃったのう。何せ、先まで男がいた場所に窪みが出来たからな。
もしそのままいたとしたらどうなっておったか容易に想像ついたのであろう男は、額に冷や汗を垂らして窪みを見、そして妾を見た。
視えるはずがなかろう。妾の尾など、百鬼も見えるような輩に。

「…おい、お嬢ちゃん。…アンタ、一体何者だい?」
「面白いことを言うなぁ」

シュルリ、と視えぬと分かっておりながら尾を出して妾は笑みを浮かべた。

「貴様らが夜の兎と名乗るのであれば、妾は何度も蘇る狐と名乗らせてもらおうかのう」

さて、ここからはもう遠慮はせぬぞ。
一歩もその場から動かぬまま攻撃を繰り出した。数々の修羅場をくぐり抜け培った勘と夜兎の血で妾の攻撃を躱そうとする男。骨のある男のようで、思った以上に妾を楽しませてくれることに嗤いがこみ上げてきた。

「ほれ、次は右からじゃ。次は左ぞ」
「っ…!見えない攻撃なんざふざけてんのか…!!」
「畏も視えねば、妾の攻撃が見えぬのも当然じゃ。必死に躱せよ。壊れてしまうのは勿体ない代物じゃ」
「俺は玩具かってンだ!!」

そう言いながらも妾の尾の攻撃を躱し続ける男。目に映らぬ速さで攻撃しておると思っておる夜兎どもが、男に助太刀せんと妾を狙ってきた。
背後に二人。そして横から一人。
じゃが、残念であったな。

「!?」

瞬く間にして影も形もなくなった兎ども。
攻撃する好機を狙っていたようじゃが、妾一人に多勢で向かえばどうにでもなると思うたのか。
何度も言わせるでないぞ。

「妾の百鬼が見えぬような畏を知らぬ下卑た輩など死んでよいぞ」
「……お嬢ちゃん、アンタ本当に地球人か?」

一瞬で塵と化した夜兎を見て男はヒクリと頬を引きつらせた。じゃが、それくらいで怖気づいたわけではなかった。再び妾に向かって走ってきた男に、妾もまた同じように尾を操り、太刀を振り下ろしと攻撃を繰り返す。必死に妾からの攻撃を防ぎ、躱し、好機を伺っておるようじゃが、無駄な事よ。

「飽いた。貴様はもう死んでよいぞ」

心の臓目掛けて尾を差し向けた。
次の瞬間。

ドンッ

「!?」

突然の爆撃。突風に煽られ、男に向きかけた尾を自分を護るべく壁にする。砲撃されたと見てよかった。妾達の足場を崩す、もしくは妾達を生き埋めにするような攻撃に、味方かそれとも夜兎どもの仲間かどうか考える余地もなかった。
妾達も夜兎どももどちらをも殺すつもりの砲撃。
つまり、第三者の介入。

「(一体誰が…)!?」

空を見上げ、目を疑った。
見覚えのある戦艦。船体に城が建てられた巨大な戦艦の周りに複数の小型船が空を浮かぶ。何者かなど、その船の形、そして描かれておる紋様で一目で分かった。

「天導衆…!」

憎き存在。
愛しい男の左目を一生見えぬようにした男のおる組織であった。

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