成り代わり | ナノ
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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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狐様と垣間見えた姿



二人の一騎打ちを見守ってすぐに妾や次郎長の娘たちは二人を病院へと送った。あれからどちらからともなく倒れ込んだ時には焦ったものじゃ。この羽衣狐を驚かせるとは、この男共はほんに呆れてしまうな。銀時達以外にも此度の戦で負傷した者達は皆、大江戸病院へ送ってやった。四天王の勢力争いの爪痕が残る中、万事屋の前に立っておった妾に駆け寄ったのは、銀時が護らんとしておる二人の子。

「千遥さん!」
「千遥姐!」
「おお、新八に神楽。息災であったかのう?」
「はい。それで、銀さんは…!」
「銀ちゃんは大丈夫アルカ!?」

心配そうに妾に尋ねる二人の頭を優しく撫でた。気を落ち着かせるように、心が急いてしまわぬように。二度三度撫でれば、上がっておった両肩が降りていく。それを見て、妾は微笑んだ。

「安心するがよい。銀の字は、ちゃんとお前たちを置いて逝ったりなどしておらぬよ」
「そっか…良かった…」
「まぁ、それなりに傷は負っておるけどなぁ」
「なにしてるネ、あの天パは!!」

安心したのも束の間、病院に行ったと言えば二人はきゅっと眉間に皺を寄せて怒り始める。やれやれ、二人は素直でないな、と小さく笑いながらも、妾は再び口を開けた。

「大丈夫じゃ。あ奴は体が丈夫である事だけが取り柄。すぐに目を覚ます故、そうツンケンするでない」
「いや、僕たちは別に、銀さんのことなんかそんな…」
「そ、そうアル!あんな天然パーマのマダオみたいな男を気にしてるわけないネ!」
「おやおや、それなら妾は今から病院へ行く予定であったが、二人は行かんということかのう?」
「「!」」

二人が素直でない故にそう言えば、二人は「行きます!」「仕方ないから行くアル!」と妾と共に歩き始める。その際、妾がのんびりとした足取りであったのが我慢ならず二人して妾の手を取って早く行かんと急かしてきた。
ああ、もう。本当に可愛い子たちであるなぁ。
小さく笑みを溢してしまうのは仕方のないことであった。それからすぐに病院へ行けば、銀時は意識を戻しておった。しかし、あれだけ多勢に向かって戦っておったためにできた傷の治りはまだかかるようで、床に伏したままであった。怪我人であることをいいことに、妾達にあれしろこうしろと言うてきたが、そんな頼みを聞くはずがなかった。

「怪我人なら大人しゅうしておるがよい」
「ウッセェんだよ!だいたいなんでお前は無傷なんだよ!あンだけの天人と戦っておきながらなんで何事もなかったかのようにしてやがる!!」
「フン。大妖怪である妾がそう簡単に傷を負うはずがなかろうて」
「あーあー!そうでしたね!!お前は狐様でしたね、この女ぎつ、ぶへらッ!」
「おや、すまなんだ。尾が勝手に」

イラッとして頬をぶっ叩いてしもうたわ。治りかけであったというのに、また傷を作った銀の字にやれやれと嘆息を吐く傍らで、神楽と新八も呆れたように見ておった。
そうして三日ほど安静をしていたその夜。

「おやおや、銀時。何処かへ行くつもりかぇ?」
「あぁ。ちょっくらジャンプ買ってくらァ」
「そうかそうか。ならば、妾もついて行こうかな」
「ざけんな。テメーはそこで座ってやがれ」
「そうしたいのも山々じゃがな、どこぞの天然パーマネントが悪さしそうで黙っておるわけにはいかんのじゃ」
「ジャンプ買いに行くだけなんですけどォ!?悪さってなんだよ、何もしねェよ!つーか誰のこと言ってんだよ!誰の頭がくるくるパーだって!?」
「誰もそこまで言っておらんぞ」

自意識過剰な男に呆れてため息を溢す。そもそも、すでに病内の店はしまっておるし、さらにいえばジャンプはすでに持っておるはずじゃろう。大方、銀時も気付いておるのじゃろう。
恨み辛みのこもった殺気を。
それが今晩異様に膨れ上がっておるということにも。あの辰羅族の女が性懲りもなく、お登勢達の命を狙っておるのだろう。病人相手にそこまでするとは、つまらぬ存在だと冷笑する。病服のまま外に出る銀時の手には、変わらず十手があった。

「やれやれ、少しは大人しゅうしておれぬのか」
「テメーは母ちゃんかコノヤロー」
「こんなぐうたらな愚息などこちらから願い下げるぞ」
「アイツの子でも言うのかよ」
「そもそも妾とあ奴の間にそんな愚息は生まれぬよ」
「リア充死ネ」
「貴様が死ね」

そんなやりとりをしながら向かえば、まるで銀時を待っていたかのように入り口に立っていたのは神楽と新八だった。銀時が目を丸くしていたが、妾はただ笑うだけ。二人は銀時が考えておることを分からないはずがなかった。ついて行くと真っ直ぐな眼差しを銀時に向ける二人に、何も言えるはずがない。あからさまなため息を溢して、銀時は外へと出た。
妾達の眼前に広がる光景。
驚くことはなかった。全てが想定しておったもの。
辰羅族の女と、その部下。そして次郎長の娘。小娘の息の根を止めんとした辰羅族の女を背後から銀時が気絶させる。さらには残っておった辰羅族の輩を妾達が倒した。殺しはせん。新八と神楽の教育上よろしくないからな。

「アニキ!!」
「落とし前なんてつけさせませんよ」
「敵と相討ちなんかでお前の罪が消えると思ったら大間違いじゃビッチがァァァ!!」
「これ、神楽。うら若き乙女がそのような事を言うでない」
「アネキ…!」
「だ…そうだ。さてどーする、ピラ子ちゃんよ」
「………私の役目は終わりましたァ。あとは煮るなり焼くなりなんなりと〜」

刀を投げ捨て、降参といわんばかりの小娘に次郎長との決着はいいのかと銀時が尋ねる。じゃが、小娘は銀時が自分の代わりにしてくれた故に、決着はついていると言いきった。さらには、銀時が次郎長まで護ってくれたことに驚きもあり、自分がしたかった事をされて悔しい気持ちもあるという小娘には、涙が浮かんでおった。

「最後に親父に会わせてくれて、ありがとうございました」

そう言って頭を下げた小娘に、銀時が止めを刺す事などできるはずがなかった。一枚の紙を渡して去って行く銀時達に、妾は呆然としておる小娘に言う。

「たまには自ら掌の上で踊るのも一興じゃ。貴様が成し遂げたかった事は、まだあるじゃろう」
「アネキ……」
「待つことは辛抱であるが、待てば待つほど、会えた喜びというものは大きいものじゃよ」

いまいち妾の言葉を理解しておらぬ様子の小娘に微笑を浮かべて、妾もその場を後にした。
それから再びかぶき町はいつもと変わらぬ街並みへと戻って行った。昼は静かで夜は賑やかな街。喧騒が絶えぬ、鉄の街。そんな派閥争いに破れた辰羅族の女共は真選組預かりの扱いとなっておった。どうするかは分からぬが、あの女は宇宙海賊春雨の者。幕府の犬である真選組が何かしら出来るとは思わなかった。
そんな矢先だった。

「襲撃だァァァ!!」
「!?」

遠目で辰羅族の女を何処かへ送ろうとしておる様子を見ていた時、それは起きた。突然の爆撃。黒煙がもくもくと立ち昇る中、真選組は右往左往しておった。留置場かどこかへ拘引するだけであったはずが、何者かによる襲撃を受けるなど誰が思うておったことか。

「華蛇がいません!見失いました!」
「何ィ!?」
「!」

真選組隊士の言葉が耳に届き、ハッと妾は辺りを見渡した。まさかこのような事態になるなど、と周りが驚く反面、妾は冷静であった。華蛇が捕縛されて困る輩など限られておる。このような事をするなど、一つしか思えなかった。
春雨。
奴等しかおらぬ。

「(何処じゃ…!)」

このような騒動に乗じて華蛇を奪取するつもりか。そのような事はさせぬ、と思って黒煙が晴れた方向を見て、目を丸くした。
微かに見えた後ろ姿。
紫かかった黒髪に、派手な女物の着物の姿。
妾の愛してやまぬ男。
考えるよりも先に反射的であった。

「しん……!」

見えたのは一瞬。じゃが瞬きをすれば、その姿は忽然と消えておった。手を伸ばしたが届くはずもなく、妾の前から消えていった男。
周りは女がいないと、脱走しただと騒いでおった。この騒動で探すことなど出来るはずがない。無能な幕府の犬ども。扱いやすい故に、油断を突かれるのであろう。
それを晋助も分かっていた。

「……晋助」

言いかけであったとしても、気付いてくれる。そう思っていたが、晋助は気付かなんだった。それが、多少なりとも妾には衝撃が走ってしまうものであった。
お前と顔を合わせるのは、いつなんじゃ。
震える手を押さえつけるように、ぐっと強く拳を握った。


***


「しん……!」

爆音やら銃声が聞こえる中、微かではあるが耳に届いた呼びかけに、男は一度だけ振り返った。しかし、黒煙で遮断された周りに、自分の名前を呼ぼうとした存在などいなかった。
幻聴、だろうか。

「………まさかな(アイツが、ここのいる訳あるめェ…)」

煙管を片手に、男…高杉は失笑を浮かべその場を去って行った。

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