成り代わり | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
狐様が見た侠の鎖



侠ならば仕方のないことか、互いではなくまずは自分達の周りを取り巻く天人共を倒し始める二人。次から次へと斬り捨て薙ぎ払ううつけ者二人に妾は思わず笑みを溢す。

「やれやれ、お前たちは自由にやってくれるのう」

血飛沫が舞おうが気にする様子もなく、目の前の敵を倒すことだけに集中しておる銀時と次郎長。二人が戦う様子を傍観としておる妾に気付いた天人が、妾に暗器を向けた。

「そこの女も殺せェェェ!!皆殺しじゃァァァ!!!」
「!千遥ッ!!」

妾にも天人の部下がやって来たことに銀時が焦った声を上げる。一斉に妾へと攻撃をしてきた天人に、妾は冷めきった目を送った。
刹那。

「なッ…何じゃと……!?」

一瞬にして塵となった天人共。
以前、吉原におった時に宇宙海賊春雨にとある戦闘部族がいたと聞いておる。その者共は、女の天人を筆頭とした集団戦闘に長けた者共。
確か、名を辰羅族。
こやつらは、天人の辰羅族。
つまり、妾の嫌いな天人であるということ。

「天人風情が妾に触れようとするでない」

不敵な笑みを浮かべ、そう言えば、辰羅族の女はたらり、と冷や汗を流していた。
妾を見目で判断しておったのかぇ。女だからとて油断しておったのじゃろう。一瞬で自分の下僕達が消えたことに驚く女と、銀時達。

「おい銀時、妾を心配するよりも自分を心配せぬか」
「……あぁ。そうだったな、オメーはそう簡単に死ぬはずねェわな」
「なら、二度とそんな声を上げるでないぞ」
「…おう」

戦場におるというのに、先と同じように穏やかな表情になった銀時。そして、妾は一つ気になることがあって、思わず言うてしもうた。

「なァ、銀時や」
「ンだよ」
「妾は思うのじゃが…」
「あン?」
「あの天人、妾とキャラが被ってはおるまいか?」
「………今更じゃねェか!!」
「いや、普通に口調とか性格とか、なんか次郎長が言ってたけど女狐とかなんとかって」
「おい口調が違ってンぞ!!」
「冗談じゃ」

お前の冗談は冗談に聞こえねェよ!などと騒ぎ喚く銀時を無視して、敵を見据えた。

「さぁ、余興といこうぞ」

十本の尾を全て現せば、周りの者共が息を呑んだのが分かった。それは銀時達もであった。最近は妾が思うままに暴れてはいなかったからのう。
しばし、この余興を妾は楽しませてもらおうか。

「この街を巣食うとせん天人など消えてもいいぞ」
「……へっ、流石は玉藻前ってか。天人とはちげェなァ」
「老いた者が何を言うておるのじゃ。見るに、昔と変わらぬようであるがなぁ」

小さく笑い、再び妾達は戦禍へと自ら赴いた。集団戦闘を生業としておる辰羅族。一人を相手にしておっては、敵の思う壺じゃ。見事に銀時がそれに引っ掛かってしもうた。
銀時が倒したとした傭兵が死ぬ間際に銀時の足に刀を突き刺して動きを封じる。油断した銀時は体勢をくずされるが、確実に息の根を止めて背後から斬りかかってきた傭兵に一撃を与える。さらに追い打ちをかけようとする傭兵共に、妾が尻尾で薙ぎ払う。

「っ、悪ィ千遥…!」
「構わん。久しぶり故に加減はできておらぬがな」
「ヘヘッ、そうかィ。…こんな所で加減なんざしなくていいけどな」
「そうか。なら、お前も塵に化しても文句は言われぬな」
「あ、やっぱり加減して」
「なんじゃ、男なら最後まで言葉に責任を持たぬか」

自分に向かってきた辰羅族の体に尾が貫く。宙に浮いた体から尾を伝い血が頬についたが、気にはせん。むしろ、久しぶりに戦場に身を置いたことに、高揚感が湧いておった。

「貴様らの生き胆を食べようにも、妾には美味とは感じんくてなぁ。そのまま死ね」

声も出さぬままに息絶えた辰羅族に一瞥もくれず、気付けば隣に、背中に立つのは息も絶え絶えの男二人。あれだけ大勢いた辰羅族も半分ほどとなっておることに、驚きと動揺を隠せずにおる辰羅族の女。

「ぬぐっ…こ…こ奴等…!!とっ…止めよォォォ!!春雨が名にかけてこ奴等の息の根を止めよォォ!!」

怯まぬように下僕に命令する天人。
春雨の名にかけて、か。やはり、この女は春雨の者であったようだな。なるほど、あの小娘を利用している裏で、この街を支配下に置こうとしたのは真であったようじゃ。冷静に思いながらも、妾達に向かってきた傭兵どもを再び地に伏せる。銀時も次郎長も、強いとはいっても集団で攻められれば傷を負う、簡単に死んでしまう人間じゃ。限界がすぐそこまで来ている二人に、止めを刺さんとする天人の命令に生き残っておった傭兵が襲い掛かってきた。
妾が二人を守らねば。
二人の前に立った。その時であった。

「おぉおおおぉおおおおぉおお!!!」

妾の横を通って、雄叫びを上げながら残りの傭兵を斬り伏したのだった。息絶えながら畳を滑っていく傭兵を横目に、妾は静かに二人を護るように立つ。

「……や、やりおった。た…たった…たった三人で、わ…わしの精鋭部隊を……!!こんな…下等な猿どもに、そんな…そんな…」

茫然としておる女に、さらに絶望させることが。
ぞろぞろと足並みそろえた足音が妾達の耳に届いた。それは女も同じで、街へと目を向ければ…。

「おっ…お登勢…!!」

かぶき町の者達と、病院の床に伏しておるはずのお登勢がそこにいた。
なにが起きておるのか分かっておらぬ様子の女に、傭兵とは違った別の部隊の下僕が女に声を掛けた。遠くてあまり聞こえぬが、凡そのことじゃ、支配しようとしたはずの街が抵抗しておることを伝えておるのだろう。
追いつめておったはずが、追いつめられておったことに耐え切れず、下僕を殺した女。

「お…覚えておれ、次郎長。次にわしが訪れし時は阿鼻叫喚の地獄が如き街の顔を見ることになろう。この借り必ずや春雨が返す」

そう言って姿を消そうとする女。

「!待たぬか!」
「ま……待ちやが…」
「!」

妾と共に追いかけようと、銀時と次郎長が一歩前に出た時、二人はそのまま地に伏した。女よりも、銀時が心配であった妾は二人のもとに座りこんだ。

「おい、大丈夫か」

二人はごろん、と仰向けになって寝転ぶ。年はとりたくないだなんだという二人に、心配した妾がだんだんと阿呆になった。そして次郎長は懐から煙管を取り出した。その煙管は、お登勢の旦那のものであった。銀時が十手を持っているのとと同じように、勝手に約束をして勝手に掻っ攫ったものであるようだった。

「白黒ハッキリつけようじゃねーか。俺とてめーら…どちらがこのキセルと十手、番人の証を持つにふさわしーのか」
「番人なんざ興味ねーよ。ただもう二度と約束を違うつもりはねェ。アンタも、そうだろ」

似た者同士。
そう言わらずを得なかった。
煙管と十手が宙を舞う。

「俺は俺の約束のために生きる。だから、お前はお前の約束のために」

柄に手を置いた。

「「死んでゆけ」」

この男達は本当に阿呆である。
たった一人の男と交わしたたった一つの約束。つまりそれは、己が定めた鉄の誓、侠の鎖。それを壊すためには、もう一つの約束を交わした目の前の男を倒すしかない。
小娘が父である次郎長の名を叫ぶ。一瞬の間が空いて、侠の鎖の代償であるそれが壊れた。
二つに折れたのは、煙管。

「砕けたのはてめーの約束だ。俺の勝ちだな」

十手を手にした銀時に、次郎長が何故斬らなかったと尋ねるが、それは銀時にとっては愚問であった。
お登勢の旦那の大切なものを護るというのが、銀時が勝手に交わした約束。
その大切なものに、この男は含まれておる。ならば、銀時が言うべきなのはたった一つ。

「禁煙しろ、クソジジイ」

この男が早死にさせるわけにはいかなかったのだ。

prev/next
[ back / bookmark ]