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狐様とうつけ共



次郎長一家と西郷一家の雑兵共は今まで銀時達が繋がってきた者達が相手をしてくれた。

「お妙や、まさかお主が斯様な特技を持っていたとは思わなんだ」
「あら、それは私もよ千遥ちゃん。それに、水臭いじゃない。貴女は私達キャバ嬢の一人なんだから」
「やはり、かぶき町は一筋縄ではいかぬ者が多いのう」

お妙の背を護るようにして立ち、妾の畏を見えぬ輩共を尾で一掃した。

「おや、羽虫でもおったのかと思うたぞ」

つい、そんな事を言ってしまう妾に狼狽える連中。その奥で、銀時達万事屋の三人が今回の首謀者である小娘と息子を人質にとられておる西郷と対峙しておった。

「退け。この戦俺達の…バーさんの勝ちだ」

相も変わらぬ死んだ魚のような目をしておる銀時。じゃが、その瞳の奥底に見えるのは諦めぬ気持ち。そして、あの子たちを信じ切っておる絆であった。

「てめーら、こいつら怒らせたからな」
「「手ェ出すなよ、テンパ」」

銀時の前に立った神楽と新八。普段ならば、妾は止めようとするじゃろう。しかし、譲れぬものがあるというものじゃ。今回の騒動、銀時が護ろうとしたもの、自分達の大事な存在に手を掛けられたこと。たとえ幼子であっても、許されぬものであった。

「裏切られようが、騙されようが、大概のことは二、三日たったらヘラヘラ忘れてやりますよ。女の子にだまされるのはなれてますから。でもね……たとえどんな理由があろうと、僕らの…かぶき町のお登勢さんを傷つけたことだけは……許さない。アナタだけは、許さない」
「万事屋ナメんなヨ。もう誰も傷つかせない。もうお前らの好きにはさせない。私達は一人じゃないネ…。万事屋が三人揃ったからには、ここから先何一つたりとも奪えると思うな。万事を守り続けてきた万事屋の力、見せてやるヨ」

子供であろうとも真っ直ぐな目を向けられれば、武士でもある西郷は引くことなどできなんだった。小娘も新八達の気持ちに答え、遊んでやろうと刀を向けた。

「まっ赤な花どこに咲かせてほしいですか。頭かな〜、それとも胸かな〜、それとも、アニキの魂かな?」

木槌と刀が新八と神楽に振り下ろされた。その光景を見ておったお妙が息を呑んだが、妾や銀時は何一つ同様することはなかった。銀時など、先とは一変、だらしなく鼻に小指を突っ込んでおった。

「咲かねーよ、そんなもん。侍に、花なんざ似合わねェ」

西郷の顎に一発、峰打ちで背後から攻撃。神楽、新八の渾身の一撃が二人に届いた。

「花はやっぱり、女の子に一番似合いますよ」
「オカマもな…」

新八に負けてもなお、銀時達を次郎長のもとに行かせないという小娘だったが、そのまま気失った。一方、流石は元攘夷志士であったと言うべきか、西郷は動けないだなんだと言いながら意識は保っておった。静かに、銀時達のもとへ歩み寄った。

「いいか、コイツは俺の一人言だ。…適当にきき流せ。ガキは必ず俺達が何とかする。安心して狸寝入りでもオカマ寝入りでもキメてろ」
「………じゃあコイツも私の一人言だ。死ぬんじゃないよ」

西郷の言葉を背に、妾達は走り出した。かぶき町を頼んだ。そんな言葉も聞こえたが、何を言っておるのやら。
お登勢の旦那が護りたいものは何か。そんな事、銀の字達にはとうの昔から分かっておること。お登勢だけが護りたいものではない。お登勢の旦那が今まで護ってきたかぶき町を護るのも妾達が勝手に交わした約束の一つであろうて。

「急ぐぞ、おめェら」
「おう!」
「はい!」

銀の字の言葉に大きく返事をした神楽と新八。銀の字の隣に走っている妾に、視線が向けられた。

「…お前までこっちに来なくても良かったんだからな」
「ほう……?銀の字、お前は耳だけでなく頭までとうとうお粗末なものになってしもうたか」
「なんでそうなるんだよ!!お粗末じゃねェし!俺は耳も頭もアソコもお粗末なんかじゃねェっての!!」
「誰も貴様の息子のことまで言うてなかろうて。じゃが、そう自ら言っておるということは自分でも自覚があったようじゃな。流石じゃな」
「ざけんな!!俺の息子は立派なンだよ!どっかの低杉とは違うんだ、ぶへらッ!!」
「スマン、顔に蚊が止まっておった」

誰のアソコがお粗末というのじゃ。貴様の生き胆を喰ろうてやろうか。
思わず尾で銀の字を叩いた妾に、呆れた視線が二つこちらに向けられた。走りながらもこうして茶番が出来るのは、こ奴等が今何をすべきなのかが分かっているからなのであろう。
小さく笑って、銀時に言った。

「言うたではないか。妾はお前が護りたいものを護ると。……銀時、お前が護りたいと護ると約束したものを、妾も護る。ならば、妾が此処に居るのはそういうことじゃ」
「千遥……」
「お前がどうしたいのか。何を護りたいのか。それを言えば、妾は手を差し出す。妾に出来る事をして、もうお前達が悲しまないようにする」

あの日、約束は違えてしまった。じゃが、もう一度妾は約束を交わしてもらう。

「妾の秘密を護り続けるお前たちを、お前達が護りたいと思うものを、妾は共に護って行く」

銀時を見て言えば、微かに目を見開いた。何も晋助に会いたいだけに再び依代を得たわけではない。お前達にも会いたい故に、この世に再び君臨したのじゃ。

「故に妾は、此処におる。お前がお登勢の旦那と交わした約束を護るために、妾も行くのじゃ。理由はそれでよかろう」
「……ああ。そうだな」
「ふん。ならば辛気臭いツラを見せるな。お前は前を見て走り続けるのじゃ。後ろは、妾に任せろ」

その言葉のあと、すぐに銀時達は目の前の襖を蹴り上げた。
豪華絢爛な建造内。その最上階にある大広間には、次郎長と、今回裏で糸を引いておった天人の姿が。妾達と次郎長の間にいたのは、全身白い布を身に纏った天人達。

「待たせたな。ガングロジジイ」
「待ってたぜ。白髪の兄ちゃん」
「借り、返しにきた。…っていいてェ所だが、どうやらモタモタしているうちに勝手が変わっちまったようだな」
「察しがいいじゃねーか」

褒められた気にもならなんだ。
すると銀時が、新八と神楽に西郷の息子の事を頼んだ。先に救出に向かった猫耳の天人からの連絡がないということは、あちらも危機的状況であるかも知れぬ故に。此処を銀時だけにするのが不安であるのか、神楽が心配そうな声色で銀時を呼ぶ。じゃが、そんな心配を拭うような声で、銀時は言った。

「約束しただろ。てめーら信じて頼んでんだ。だったらてめーらも俺を信じろ」
「普段ぐうたらで信用できるかもしれぬが、案ずるな。こやつの背中は、妾が護ってやるから」
「千遥姐……」
「……銀さん。かぶき町で、また会いましょう」

銀時の気持ちを、銀時を信じた二人が妾達に背を向けて走り出した。そんな妾達の様子を見ておった天人の女が、鉄扇を手にして嘲笑い始めた。何も知らぬ者から見れば、二人を逃がしたかと思うておるようで、四天王勢力を逃さぬという女に妾も銀時も獲物を手にして言った。

「相手が貴様らでは、加減ができぬだけよ」
「そういうこった。こっから、R18指定タイムだ」

現状理解をイマイチしておらぬ様子の銀時だが、簡単なことだと自分に刃向う者達を皆殺しにすればいいと言う。分かりやすいことでもあり、妾は小さく笑う。すると、妾だけでなく次郎長も銀時の分かりやすい言葉に、笑い声を上げたのだった。
つまり、二人の頭はやはりお粗末なだけであったということ。

「クソジジイぃぃぃぃぃぃ!!」
「小僧ォォォォォォォォ!!」

だんだんと下品な笑い声を上げる中、優勢だと言わんばかりに銀時達にいう天人の女の言葉を無視して、二人は同時に敵を切り始める。真っ直ぐ、互いのもとへ向く勢いの二人。そのまま一騎打ちをするかと思えば、すれ違い敵を、天人共を倒した。背中合わせにして立つ二人に、驚く天人の女を余所に、二人はまるで息を合わせたかのように言った。

「俺が殺るまで死ぬんじゃねーぞ」

それまでは共闘、とでもいえばいいのであろう。
簡単かつ簡潔な言葉に、妾はゆるりと笑みを溢すだけであった。

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