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狐様と極道娘



銀時が住んでおるかぶき町という場所は、江戸中からゴロツキや凄腕、侠客、落ち武者などが集まってくるならず者の梁山泊であるという。そのかぶき町には別格の人物が四人存在し、このかぶき町は治められているようじゃ。
その一人が、銀時がお世話になっておるというお登勢。

「千遥という。銀時の旧友でな、銀時の世話の礼をしに来た」
「へぇ、あの使えねぇ野郎のねぇ」

攘夷戦争後、逃げおおせた銀時を保護してくれた者。物好きもおるものじゃ、と思う反面、いい人間に会えた事に安堵した。銀時は特に妾に言わなかったが、一つだけ妾に教えてくれた。

「約束したんだよ」

たったそれだけじゃ。何の約束かなど、教えてもらうつもりはなかったが、妾にはそれだけで充分であった。あの日の事を思い出す。妾の秘密を守り通してくれると言った銀時達が守りたいものを、妾は守る。
故に、お登勢という人間は妾の守る対象となった。
そんなある冬の日のこと。

「なんじゃ、その娘は」
「あ、千遥さん」

かぶき町の賑やかな商店街のはずが、店仕舞いしておる店が連なる中、立ち尽くしている銀の字達。三人かと思いきや、見知らぬ娘が銀の字と一緒におった。

「託児所でもしておるのかぇ?銀時」
「違ェよ。ンなわけねェだろ。アイツはただの病原菌だ。迷惑してんだ、」
「かちこみじゃ〜!!」
「ちょっとォォォ!!?」

銀時の言葉を遮り、突然妾に刀を向けた娘。傍から見れば殺すつもりで来ているようにみえるが、違う。
この娘、妾を試しておる。

「(面白い)」

娘をじっと見たまま、見えぬ尾で刀身を叩き追ってやった。
触れてすらおらぬのに消えた刀身に、目を丸くした娘。刀身が無くなった使い物にならぬ刀は妾に触れることなく降ろされる。一瞬で消えた刀身の無い刀を見つめ、次に妾を見た娘はニコリと嗤った。

「この度、万事屋一家末弟に加わりました、椿平子改め万平子ですぅ。何卒よろしくお願い申し上げますぅ。そして貴方は誰ですかぁ?」
「……銀時、お前はいつヤクザ者になったのじゃ」
「なってねェよ。コイツが勝手に言ってるだけなんだよ!」

ヤクザ者といえば、妾にとっては奴良組を思い出す。特に恨みはない故に思うことはないが、敵対し共闘もした故に思い入れ深いものはあった。そんな妾をよそに、じっと妾の様子を伺う娘。先ほどのタネ明かしをしようとしているようじゃが、一生無理であろうなぁ。
フッと笑って、妾は平子だなんだという娘に仕方なしに名乗ってやった。

「妾は千遥。そこの銀髪パーマとは旧くからの友人じゃ」
「アニキの友人なんですね〜。先ほどは失礼なことをしちゃってすいやせんでしたぁ。お詫びにとはなんですが、今責任とって指つめますからね〜。小指でいいですかァ〜ウフフ〜」
「だからなにしようとしてんだ万平子がァ!!」

どこからか再び刀を出した娘が自分の小指を切ろうとしたのを止める銀時。結った前髪を掴んで振り回す銀時に妾は目を細めた。
銀時を陥れるために、懐に入った…。そう捉えてもいいようじゃな。
殺気を出してはおらぬが、あの目は嘘を吐けておらん。何か企んでおりそれに銀時を利用しようとしておるのはよぉく分かった。

「アニキの友人ということは、アネキですね。アネキ、今後もよろしく申し上げますね〜」
「……フッ、銀の字がアニキ…なぁ。世は分からぬものじゃな」
「なんだよその目。俺がアニキなのはそんなにおかしいのかよ」
「片腹痛いほどにな」
「オイィィィ俺をなんだと思ってんだよおめェはよォ!!」

ギャーギャー騒がしい銀の字。少しは黙るということを知らぬのか。いや、この男が静かなどむしろ不自然であるからこれが丁度いいのであろう。
これ以上関わりとうはない。

「あ、オイ。どこ行くんだよ」
「買い物じゃ。暇なお前とは違うのでな」
「軽く馬鹿にしてんじゃねーよ」
「軽くではない、ただ馬鹿にしておるだけじゃ」
「少しは俺に優しくできねェの!?」

喧しい銀時を無視し、妾は最後に娘を見た。銀時を宥めようとする新八の背後で、妾をじっと見ている娘。
何を企んでおるか分からぬが、思い通りになるとは思うでないぞ。
フッと怪しく笑い、妾はその場を後にした。

***

「なに?銀時が帰って来ておらぬ?」

早朝、新八から連絡が着たかと思えばそんな事を言ってきた。不安そうな声で知っているか、と聞かれるが、生憎昨日のあの時以来会ってはいなかった。
これは、面倒なことに巻き込まれておるな……。
新八に今から妾もそちらへ向かうことを言って、支度をする。最中、考えるのは昨日のあの小娘じゃ。銀時を使うて、利用できるものはなんでも利用してやろうというあの目。
じゃが、奥底に映しておるのを隠せていなかった。

「死んでおるとは思わぬが、はよ無事な姿を見せるがよい」

万事屋に向かえば、新八がその一階のお登勢の店の前に立っておった。皆が銀時の心配をしておるようで、お登勢の店で待つようにしておるそうじゃ。色んな者に慕われておることに、まるで自分のように嬉しく思えた。

「お登勢、息災かのう」
「相変わらずだよ。アンタも元気そうじゃないか」
「フフ、妾が病に伏すなど毛頭も無いことじゃ」

言葉を交わしながらも、銀時から連絡を待つ妾。そういえば、と。あの娘の姿が無いことを思い出して新八に尋ねれば、昨日から姿を見ていないという。本心から心配そうにしている新八は良い子なのだなぁ、と思い安心させるためについ頭を撫でた。すると、黒電話が鳴り響いた。店主であるお登勢が出て少し会話をしたらすぐに電話を切った。
電話の相手は、お登勢曰く銀時らしい。

「まったく、世話のかかる野郎だねェ」
「…まったくじゃ。心配しておる新八達の身にもなってもらいたいものじゃな」

銀時が心配で昨日から食べていないという新八達にお登勢はどこか食べに行こうと提案した。もちろんお登勢のおごりだ、と。高い焼肉を食べたいだなんだと言って喜ぶ神楽たち。
じゃが……。

「先にいっといておくれ。私も銀時とピラ子がきたらいくから」
「早く来てくださいね…。来るまで食べずに待ってますから」
「ソフトクリームはいいよネ、ソフトクリームは先食べていいよネ!!」
「そうじゃな。腹を下さぬ程度に食べるがよい」
「やったアル!!」
「千遥さん、そんな甘やかしちゃ駄目ですよ」

お登勢は店に残り、先に妾達は向かうことに。嬉しそうにどこの焼肉店に行くかと喜ぶ新八達。

「すまぬが、新八」
「?どうかしたんですか、千遥さん」
「店に忘れ物をした。先に行っててはくれまいか」
「え、そうなんですか?」
「もう!千遥姐はおっちょこちょいアル!」
「すまんのう。すぐ向かう」

くるり、と足先を変えて妾は店へ戻った。
もちろん、新八たちに行ったのは空言じゃ。気付いてない様子で安心したが、小さな罪悪感が生まれた。
けどな。妾には守らねばならぬものがある。

「やはりな」
「!」
「お登勢はまるであのうつけのようじゃ。あの子らのように、妾は引っ掛かりはせぬ」
「千遥…あんた……」

新八達とは反対の方向へ歩こうとしたお登勢の背後から話しかける。まさか妾がいるとは思わなかったようで、目を丸くしてこちらを見るお登勢。そしてフッと目を閉じ笑う。

「なんだい。騙されたのはアタシってかい?狐に化かされちまったようだよ」
「上手い例えじゃな。見事、狐に騙された気分はいかがかのう?」

ニコリ、と笑えば、お登勢はやれやれと言った様子であった。

「何処へ行こうとしておるのか分からぬが、銀時に代わって約束を守らせてもらうぞ」
「……勝手におし」

強くは言えないようで、お登勢はそう言って再び背を向けて歩き出した。一瞬、霞んで見えたのは気のせいであろう。

「……」

銀時、早う戻ってこい。
たとえ妾がいるとて、約束をしたのはお前じゃ。
お前が、ちゃんとお登勢を守るのじゃ。

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