成り代わり | ナノ
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狐様の企み



依頼を頼んだ後、妾は仕事があるために万事屋をあとにしたのじゃが何故か仕事場へ向かえば客としている銀の字達。そしてそやつらの接客をしておったのは、お妙じゃった。
仕事での着物に着替えた妾は真っ直ぐ銀の字達のおる机へ向かった。

「…なんじゃお前ら。神楽も一緒に連れてきおって、どういうつもりじゃ」
「そもそもオメーが爆弾落とすからこうなったじゃねェか」
「何の事か妾にはさっぱりじゃ」
「お前が仕事探しの依頼をしやがったのに仕事してるってのはどういう了見だって言ってんのぉ!!」

ガァン、と机を叩き唾を飛ばし言う銀の字。思わず距離を取ってしまえば「なんで下がった!!」とうるさく言う。相も変わらず面倒な男じゃ、と思いながら銀の字を見るが、それよりも妾に声を掛けたのはお妙じゃった。

「千遥ちゃん、銀さん達と知り合いなの?」
「まぁな。銀の字とは腐れ縁じゃ」
「あら、そうなの」

驚いた表情を浮かべたお妙。すると新八がそういえば、と何か思い出したかのように口を開けた。

「数日前、姉上がいつもより機嫌が良い時があったんですけどもしかして…」
「えぇ、そうよ新ちゃん。千遥ちゃんが入ってくれて、とても大助かりだったの」
「……あぁ、あれか」

姉弟の話に思い当たることが一つあった故、ついそう言った。銀の字や神楽は新八やお妙から特に聞いてないようで「なんだよ、何かあったのかよ」と聞いてきた。まぁ別に隠すことでもないからのう。別に銀の字達に言っても支障はない。

「妾がここで初めての仕事をした時じゃ。妾の助っ人としてお妙が一緒におってくれたのじゃが…少々やっかいな事が起きてなぁ」
「ま、まさか…お前、お妙に助けられたのか」

銀の字が狼狽えた声でそう言った。
確かに、妾の容姿は人を魅了するものじゃ。依代であるこの娘は、吉原に売られた女でもあったからな。初めての仕事で客に何かされたのだと思うておる銀の字に妾は首を振った。

「助けられたのは妾ではない、お妙じゃ」
「……は?」
「え?」
「どういうことアルか」

いまいち理解しておらぬ三人。一方でお妙はその事を恥ずかしそうに顔に手を当てて笑う。

「お妙がストーカーされておる者から迷惑行為をされてな、妾が助けたのじゃ」
「普通逆だろ!!なんで一応ベテランであるオメーが千遥に助けられてんだよ!!」

再びダァン!と机を強く叩いた銀の字。喧しい、と尾で叩いてしまったが、お妙には見えなかったようで突然吹き飛んだ銀の字に驚いておった。顔面蒼白となる新八や呆然とする神楽を置いて妾は話を続けた。
話の節を折るあやつが悪い。

「いちいち騒がねば生きてられぬのか、貴様は」
「テ、テメェ。いちいちそれで俺を叩かねぇと気が済まねぇのか…!」
「おや?貴様は妾の玩具であると思うておったのじゃがのう…」
「いつ俺がてめェの玩具と言う名のストレス発散道具になりやがった!!」

吹き飛ばされた壁に身を打ち付けダラダラと頭から血を流す銀の字だが、元気な様子じゃから無事であろう。お妙は戸惑いを隠せないままであったが、新八と神楽は妾達にもう慣れたようで何事もなかったかのように妾に尋ねた。

「ていうか、千遥さん。もしかして、姉上のストーカーって……」
「?そうさなぁ…、見目は人のようであったが、まるでゴリ、」
「ストーカーだとぉぉ!?お妙さんを困らせるような不埒な輩はどこのどいつだ!!この俺が退治してくれよ、」
「ストーカーはてめェだこのクソゴリラァァァ!!」
「ぐほぉぉぉ!!」
「あぁ、そう。こいつじゃ」
「(オメェェェかよぉぉぉ!!!)」

突然、銀の字達が座っていた机の下から現れたのは、以前お妙を困らせたストーカーの男。ゴリラのようなゴリラ、とでも言って良いのか、冷静にその男を観察するがどこからどうみてもやはりゴリラじゃった。言葉の途中でお妙に殴られて銀の字と同じように壁に吹き飛ばされた男を妾は冷めた目で見てしまった。新八は何か言いたげな顔をしているのが気になったが、もしや知り合いとでもいうのであろうか。

「てンめェェ!!また来やがって!毎度毎度迷惑だっつってんだろ!!」
「ま!待て待て待ってお妙さん!俺ァお妙さんの身の周りを警護すべくこうやって…!」
「迷惑になってんのお前じゃクソゴリラァァァ!!」
「ギャーッ!!」

男の上に乗って女子とは思えぬ力で拳を振るうお妙。先日と似たような光景に、妾は冷静に見る事が出来た。初見では驚きどうしたらよいのか、流石の妾にも分からなんだったからなぁ。

「…銀の字、神楽、新八。あの者は何者なのじゃ?」
「ゴリラだ」
「ストーカーアル」
「いやいや、近藤さんでしょ!」
「……近藤?」

何処かで聞いた事のある名であった。
しかし妾の呟きは喧騒に掻き消されてしまい、誰にも拾われることはなかった。銀の字がこちらを一瞬見た気がしたが、特に何も言ってこない。
それよりも、誰かこの事態を収拾してはくれまいか。というかその男のようなゴリラはすでに気失っておるぞ。

「お妙、落ち着け。客人の前ぞ」
「あら私ったら。ごめんなさいねぇ、ついゴリラの顔を見ると手加減できなくて」
「ほんに容赦ないな」

退いたお妙から、顔面崩壊しておる男に目を向ける。何度殴られたのであろうか、膨れ上がった頬に鼻血を出し額には瘤まで出来ておる。
どれだけ恨みを持っておるのじゃ、この娘は…。もしかすればこの依り代よりお妙を依り代にすべきであったか?
などと思っても仕方のない事じゃった。
床に放置された男を蔑んだ目を向ける銀の字が、呆れたような声で言った。

「あーあ、こんなゴリラが警察じゃ、ホントに世も末だな」
「ホントネ。ゴリラにマヨラーにサドのいる警察が江戸を守るなんてできるわけないヨ」

同意し毒舌を吐く神楽。
二人の言葉に妾は耳を疑った。
警察…?この者が、警察…?
江戸を守る警察など、一つしかあるまい。

「おい。この男が、まさか真選組とでも言うまいな」

冷めきった声が出てしまった。
ハッと一番最初に妾を見たのは銀の字だった。

「おい千遥」

制止の呼びかけであろう。しかし、すまぬな。

「(幕府の犬め……)」

幕府に対する積年の恨みが積りに積もっておる故、我慢できなんだ。
ぶわり、と尾を出そうになった。しかし、今此処で暴れたりでもすれば妾はこの男に捕まるのかもしれぬ。そうすれば、晋助に会えることは出来ずに終わる。
それだけは嫌じゃ。

「………」
「(…落ち着いた、のか……?)」
「…世も末じゃな」

思わず出た言葉は誰に向けてなのかは分からぬ。
静かに倒れ込んだ男に歩み寄った。銀時が静かに動いて、お妙が不思議そうに妾を見た。銀の字め、そう妾がすぐにこの男を殺そうとでも思うておるのか。いや、思うておるから、いつでも妾を止めようと構えているのであろうな。
安心せぇ。晋助と会うまでは、妾から大事を起こすつもりはない。

「お主が、真選組局長の近藤かえ?」
「いつつ……ん?」

見下ろす妾に気付いたゴリラは痛む頬を擦りながらこちらを見た。
なるほど人間のようなゴリラとは的を射ておる。
妾を見た瞬間、カッと顔を染めたゴリラに背後で銀の字が何か言っているが無視した。ゴリラは勢いよく立ち上がり姿勢を良くした。なんじゃ、緊張したような態度は。まとめる長である男がみっともないのう。
小さく笑い、口を開けた。

  妾
「…妾 を真選組屯所で働かせてはくれませんでしょうか?」

おしとやかな彼女の力を借りて妾はそう言った。

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