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狐様は仁義を通す



重苦しくなってしまったのは、妾の過去を話したためか、それとも何か複雑な心境になっているのか。

「鬼兵隊が今どうなっておるのか分からぬ。それを知るために、情報を集めるために、妾はその情報を得ることの出来る仕事を探しておるのじゃ」
「そういうことアルか」
「…妾が吉原で過ごす間に、何かあったようじゃが…。依頼故、探してくれるよな?銀の字」
「………」

神楽と新八は別として、前払いとしてファミレスで甘味を食わせたのじゃ。銀時はそれ相応の働きをしてもらわねばならん。そういう意味で銀の字を見るが、奴は目を逸らしおった。
ほぅ…とぼけるつもりか。

「支払いしたというのに仕事をせぬとは、妾の尾の餌食になりたいのかぇ?」
「待て待て待てェ!!分かった!分かったから、ちゃんと仕事するから!!その尻尾しまってくんなァい!?」

襟元を掴み尻尾の先を鋭くし喉元に突き差せば、ころりと態度を変える銀の字。相変わらず脅せば弱い男じゃ、と内心思いながら席に座り直した。
妾と銀の字のじゃれ合いとも呼べる言い合いを見て苦笑を浮かべておった新八は、眉を下げて言った。

「でも、鬼兵隊の情報を入手するためとはいえ、どんな仕事に就くかなんて僕たちが決めてもいいんですか?」
「そうヨ!私たちが危ない仕事を教えてもいいアルか?」
「銀時が守ると決めたお主たちが、妾を謀ろうとするのかぇ?」
「そんな事しません!」
「しないアル!ちゃんと千遥姐の役に立ってみせるネ!」

間髪入れずにそう答えた二人に妾は笑った。隣に座っておった銀時は何とも言えぬ気持ちを抱いたのか、ガシガシと頭を掻いて顔が赤いのを誤魔化そうとしておった。
たとえ二人を誤魔化しても妾には無駄じゃ。

「なら頼むぞ。対価に見合った仕事ぶりを期待しておる。…のう、銀時」
「ハナっから俺にしか言ってねぇだろ!!」
「当たり前じゃ」

面倒臭そうな態度をする銀時とは違い、新八と神楽はやる気になってくれておった。先ほどまで驚いてばかりであったというのに、やはり子供というものは興味がコロコロ変わりやすいもので可愛らしいものじゃ。ニコニコとつい笑ってしまう。

「銀ちゃん!千遥姐の仕事、いいのを探すアル!」
「でもあまり素性を知らない方がいいですよね。そうしたら、公の場に立つような仕事はしないほうがいいかも」

二人で話す様子に慈愛の目で見てしまう。ああも仲良く話せておるというのは、なんとも可愛らしいことか。互いにどんな仕事がいいかを言い合う二人を余所に、妾は横目で銀の字を見た。
なんとも言えぬ眼差しで二人を見ておった。

「……貴様が守りたいものであったのは、当たりのようであったな」
「…何の事だよ」
「惚けても無駄じゃよ。…お主は何度も溢しても、また拾うのじゃな」
「………俺を馬鹿だと思ってんのか」
「まさか。……お前らしいぞ。それでこそ、不器用な男じゃ」

守りたいものを守れず、助けたいと思った師であるアイツを自らの手で殺めたお前が、こうしてまた守りたいと思う存在を作ったのなら、妾はまた誓おうではないか。

「…妖怪は仁義を通すぞ。お主たちが守りたいと思ったものならば、妾も守ろうではないか」
「……そこまでした覚えはねーよ」
「そうか。なら、妾が勝手に守らせてもらうぞ」

お前がそう思ってなくても、妾にとっては感謝すべきことをお前は、お前たちはしてくれたのだからな。
前の依代で起きた事を思い出しながら、妾は口元に笑みを浮かべる。隣で微かに笑ったのが分かった。気付けば、新八と神楽は言い合いから喧嘩が始まろうとしていて、神楽が新八を何度も叩いておった。遠慮せぬ仲は良いかもしれぬが、少しは新八にも発言権を与えても良いではないか。

「…お主の周りには、昔も今も人が集まるのう…」
「狐様の加護のおかげかもしれねーな」
「貴様に与えるくらいなら、あやつに与えておるわ」
「オメーは本当に時々空気を読まないよな」
「妾が何故貴様らに合わせねばならぬ」
「でたよ女王様。へーへー、俺が悪うございまし、あぶしッ!!」
「いかん、ハエが飛んでおった」

人を苛立たせるのは変わらずで、悪気と思っても居らぬ謝罪にイラッとして尻尾が勝手に動いてしまった。妾の気持ちに反応する尻尾は、見事銀の字にビンタを食らわした。喧嘩が勃発しかけた神楽も新八も突然銀の字が吹き飛ばされた事に驚いておった。

「銀さんがあんなにも女の人にされるがままなんて…」
「見たことないアルな…」
「そうかぇ?このマダオは、昔から女にモテたいと嘆いては蔑まされておったぞ?遊女は別の男にとられてショックを受けるし、嘆き喚くわ…他人になりたかったものじゃ」
「うわ、マジアルか。キモいアル」
「幻滅しますね」
「オイィィィ!!俺の事をディスってんじゃねェよ!!そんでもって神楽、新八!オメーらは冷たい目で俺を見るんじゃねェよ!!」
「じゃが事実であろう?」
「う、ううううっせー!!」

吹き飛ばされ、机にぶつかった衝撃で頭から血をダラダラ垂らして大声を張り上げる銀の字に妾達は冷めた目を向ける。貴様が自分の今までの言動を省みなかったのが悪いのじゃ。何がいけなかったのかを理解しておれば、そこそこ好い男にはなれたのではないのか。

「(ま、晋助には負けるがな)」

結局、妾が一番に好いて、一番に愛し、一番に守りたいのはあやつのみ。

「さて、すまぬが今日はここで失礼する」
「え、もう帰っちゃうんですか…?」
「まだ一緒におろうヨ!」
「すまんな、新八、神楽。そろそろ仕事に行かねばならんのじゃ」

瞬間、シィンと静かになった空間。

「………え」
「し、仕事…?」
「?そうじゃが?」
「…ど、何処で仕事してんの…?」

たらり、と冷や汗を掻きそう尋ねたの銀の字。
何をそんなに動揺しておるのか分からぬ妾は素直に答えた。

「スナックすまいるじゃ」

時間を見れば出勤時間に間に合わぬ。微動だにしない三人に「では依頼、頼んだぞ」と言って妾は去った。

「「「もうそれでいいじゃねぇかァァァ!!!」」」

喧しいほどの声量で三人が数秒遅れてツッコミを入れたのを聞いて。

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