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狐様の過去



「どういう事、アルか…?」

戸惑いの声で妾と銀時に尋ねた神楽。隣に座る新八も神楽と同じく、動揺を隠せずにいた。銀時は何も言わず、じっと目を閉じておった。耐え切れず神楽が「銀ちゃん!」と言うが、銀時から何か言うことはなかった。
つまり、妾から言えということか。

「…神楽は分からぬと思うがが、新八」
「は、はい」
「“玉藻前”」
「…え?」
「……そう呼ばれておった者を、知っておるか?」

突然尋ねられて戸惑う新八は、右に左にと目を動かしてから「いえ…」と申し訳なさそうにそう言った。しかし、そうか。銀時と共に過ごしているから少しくらい知っていると思っておったが、伝えていなかったようじゃ。
新八に気にするな、と言って妾は一口紅茶を飲んだ。カチャ、と陶器が音を立てる。賑やかなはずの店内が静かに聞こえた。

「…攘夷戦争時代、鬼兵隊におった女の呼び名じゃ。人ではない、天人ではない、別の存在」

人はこう言った。

「女は狐じゃと」
「!?」
「な…!」
「……」
「尾を操り、敵を踊らせるように殺め、戦場を駆ける姿はまさに妖狐。その姿を見て畏れ、敵味方関係なくその姿を見た者は“玉藻前”といつしかそう呼ぶようになった」
「……もしかして」

妾が言った内容に新八は顔色を変えた。察しがいいのは、長年銀時と共に居たからじゃろう。思わず目を閉じ笑みを浮かべた。しかし、二人は確証を得るためにきちんと知りたい様子であった。
なら、答えるしかない。

「左様。狐とは、妾のことじゃ」

二人が息を呑んだのが分かった。銀時は我関せず、といった態度に見えたがきちんと話を聞いていた。やれやれ、相変わらず不器用な男じゃ。なんて思いながら、二人に向けて話を続けた。

「妾は羽衣狐。人を羽衣のように纏い生きる妖怪、魑魅魍魎の主じゃ」
「魑魅魍魎…って、妖怪…!?」
「そうじゃ」
「妖怪が、なんで…!」

新八は妖怪と名乗る妾に驚きを隠せずにいた。神楽も同じようであったが、天人とは違う存在であることもあってか少し理解していない様子であった。
すると、今までだんまりだった銀時が口を開けた。

「おい、千遥」
「なんじゃ」
「此処で話すよりも、戻って話す方がいいだろ。…こいつらがもっと驚くだろうからよ」
「……それも、そうじゃな」

すでに二人は満腹になっているようだった。銀時も普段食べれない甘味を充分摂取できたようじゃ。遊郭で稼いだ金はたんまりとあったから、金額がすごい事になっていても問題なかった。気まずい雰囲気のまま、万事屋へ帰宅した妾達。事務所であり居間でもある場所で、ファミレスと変わらぬ位置で妾達は再び話を始めた。
まず最初に口を開けたのは、銀時だった。

「千遥は、俺達と一緒に攘夷戦争で戦った仲間だ」
「そ、う…なんですね……」
「じゃあ、ヅラや辰馬を知っているアルか?」
「もちろんじゃ。懐かしいのう…二人は元気かぇ?」
「喧しいくらい元気だっつの」

ケッと悪態を吐く銀時に、今でも色々面倒事に巻き込まれているのが分かった。それにしても、銀時ではなく神楽から聞いてくるという事は、小太郎や辰馬とは何度か会っているということになる。
なんじゃ、結局は仲が良いようじゃ。

「でも、どういうことネ。千遥が知りたいのは、鬼兵隊って…!千遥は、鬼兵隊にいたアルか!?」
「……」

何か因縁でもあるのか、身構えた神楽。その姿に恐れる気はなく、妾は目を丸くしただけだった。
あれから十数年経っているが、鬼兵隊はまだ生きているということか。幾年過ぎたというのに、もしかして…あやつが、晋助が…。

「でも、待って下さい。…“いた”って…過去形になってますけど、千遥さんは鬼兵隊を辞めたってことですか…?」

冷静に聞いてきた新八の言葉に神楽はこちらを見た。その目と合い、妾はニコリと嗤った。
その問いに答えたのは、銀時だった。

「千遥は一度、死んでるよ。…攘夷戦争の後、首を刎ねられちまってな」

あっさり答えた銀時に妾は何も思わなかった。どう思ってそれを口にしたのか分からなんだが、少なからず怒りが籠っていたのは分かった。妾としては、何度目かの死でもあるため慣れているが、二人は違った。驚き、声を上げた。

「ぇ、じゃあ…どうして…!?」
「生きておるか、であろう…?」
「っ……」

何と言えばいいのか分からず口ごもる新八に代わり言えば、コクリと頷かれた。今までにない話故、戸惑いを隠せずにいある神楽。その表情はどこか苦しげに見えた。

「そうさな…。生まれ変わった。…そう言えばいいのかもしれぬな」
「生まれ、変わった…?」
「どういうことアルか…?」
「羽衣狐は“人を羽衣のように纏い生きる”妖怪じゃ。人間の寿命しか生きれぬが、繰り返し世に君臨するため、人という名の“衣”を羽織る妖。…故に妾はこうして生きておるのじゃ」
「ぬ○孫じゃねーか」
「まんまぬら○アルな」
「これ、二人ともそう言うでない」

脱線しかけた話を戻して、妾は言った。

「攘夷戦争が終わり、逃げている途中で妾は幕府に捕まり死んだ。しかし、死んだのは依代である人間。妾自身は生きており、再び違う人間に依り移ったのじゃ」
「……それで、鬼兵隊の情報を知りたいって…」
「そうじゃ。………妾は、あやつを一人にすべきではなかったのじゃ」
「……」

ぽつりと呟いた言葉は銀時にしか届かなかった。

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