成り代わり | ナノ
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狐様からの依頼



※ 吉原炎上編後


吉原を出た妾は、銀の字の近くで一人で暮らすことになった。吉原で稼いだ金もあるし、問題はない。そこそこ綺麗でセキュリティ対策ができておるアパートで、妾は今生で初めての一人暮らしをするのであった。
必要な家具などを買い揃え、落ち着いた頃。妾は銀の字が暮らし、経営しておる万事屋へと足を運んだ。

「なんじゃこの体たらくは。みっともないのう」
「げっ、千遥…」

何でも仕事を受けるという万事屋じゃが、仕事が入らぬのかぐうたらな生活をしておる銀の字。執務机に足を乗せ、昔から好んでおったジャンプを読む姿はまるでニートなる輩ではないか。
妾が来るとは思っていなかったのか、心底嫌そうな顔をした銀の字を余所に、部屋を見渡した。「糖分」と文字を掲げてはおるが、それは単にお前が好きなものではないか。清潔感があまりなっておらん場所に、思わず妾は着物の裾で鼻と口を押えた。

「入って早々『この部屋、臭うよ!!』みてーな態度とんないでくんなァい!?」
「事実臭いから仕方あるまい」
「お前は本当にズケズケと言うよな!!」

バァン、とジャンプを机に叩きつけて怒る銀の字。短気な奴じゃ、と思わずため息が出た。すると、銀の字の様子が気になったのか、別室から顔を覗かせたのは新八と神楽。

「あ、千遥さん!お久しぶりです」
「千遥姐!久しぶりネ!!」
「新八、神楽。息災かのう?」

新八はどうやら部屋の掃除、神楽はそれの手伝いをしておったようじゃ。手に持つ道具を見て、妾はニコリと笑い言う。

「感心じゃ。家主とは大違いで、お前たちはいい子じゃな」
「あのグータラだから仕方ないネ!私やメガネは違うアルよ!」
「いや神楽ちゃんそんなに手伝ってないからね、何もしてないのに威張らなくていいから。というか僕メガネじゃないから」

真相を口早に言う新八。ツッコミも大変そうじゃ、と思っておると納得してなさそうなのが一人。

「おい千遥、俺とは大違いってどーいう意味だコラ」
「おや…誰もお前とは言っておらぬが?家主が誰か、妾は知らなんだが…そうか、お前だったのか…。道理でいたいけな子供を駒のように扱っておるわけじゃ」
「それ銀さんに失礼だろ!!別にアイツ等を駒みてェに扱ってねーし!!暇だからしてるだけだし!!俺はジャンプ読むのに忙しいだけだし!!?」

自分が楽しておる時点で誰がお前の言葉を信じるか。
呆れて物も言えぬ。再びため息を溢して、妾は銀の字を放って新八と神楽に言った。

「働き者の新八と神楽には、妾が褒美を与えねばならぬな。どうじゃ、掃除よりも妾をこの町の案内をしてくれぬかぇ?報酬は食事のおごりと好きなものを一つ買うてやろう」

そう言うやいなや、二人は目を輝かせた。キラキラ、と眩しいほどに。まるで狂骨のように愛らしい二人。妾もその視線を受けてつい目を細めた。

「本当アルか!?キャッホウ!!今すぐ案内するネ!!」
「いいんですか、千遥さん…!食事、神楽ちゃんの食欲を侮らないほうが…」
「安ずるな。遊郭で稼いでおったのを全く使わずにおったからのう。お金はいくらでもあるぞぇ。新八、そう心配せんでもよい。子供は、甘えておけばいいのじゃ」
「…ありがとうございます……」
「うむ」

ポっと頬を赤くし素直に礼を言う新八に、素直に喜ぶ神楽。そして、蚊帳の外となりつつある者が一人。

「あっれェェェおかしいなァァァ!銀さんは!?銀さんも万事屋なんだけどなァァァ!!」
「貴様に頼むつもりなど毛頭ない」

今まで仕事もせぬ姿を見せておった者が何を言うておるのか。
妾の言葉にぐうの音も出ぬ銀の字はとうとう駄々をこね始めた。あまりにもみっともない姿に、妾も神楽、新八も引いておった。
いい大人が何をしておるのじゃ…。

「銀の字だけは先払いじゃ。後でこの子らよりもたんと働いてもらうからの」

ニコリと笑い言えば、ピタリと止まった銀の字。その数秒後、カタコトの返事をしたのだった。
仕方なしに銀の字も連れ、近くのファミリーレストランへ行った。新八が言うてはいたが、神楽の食欲は予想をはるかに超えておって、目を見張った。流石は夜兎族というべきか、かなりの大食いであった。

「…夜兎の食欲は前から知ってはおったが、見るとすごいものじゃな」
「だから言っただろ、千遥。神楽の腹はブラックホールだって」

色々頼みそれを全て食べる神楽。まぁあれくらい問題はない。微笑ましいもので、妾は笑った。すると、銀時が甘味を幸せそうに頬張りつつ妾に聞いてきた。

「で?俺に依頼ってなんだよ」
「…なんじゃ、覚えておったのか」
「オメーが俺に頼み事なんざ、そうそうねェからな。逆に覚えるわ」
「………」

銀時の言葉に妾は口を閉ざした。たしかに、今まで銀時に頼むことは稀であった。
頼んだといえば、あの約束くらい。
そうか、コイツはまだあの約束を守ろうとしているのか。

「相も変わらぬ不器用な男じゃ」
「あぁん?俺のどこが不器用ってんだよ。俺は器用な男ですぅ」
「餓鬼なのも変わらんのか」

まるで童子のように拗ねる銀時。新八は神楽の面倒を見ており、笑わたちの様子には気づいておらなんだ。
さて、そろそろ本題に入るとするか。

「依頼じゃ、銀時」
「何だよ」
「妾に似合う仕事を探してはくれまいか」

言った瞬間の銀時の表情はたいそう驚いておった。
そんなにも意外な質問であったのか…?
思わず首を傾げる妾じゃが、銀時だけでならず神楽と新八も妾を見て驚いた顔をしておった。

「千遥、お前……」
「なんじゃ」
「仕事したことねェのか、え、ニート?」
「今までの話を読み返しに行ってくるか、天然パーマ」

一尾のみ出して銀時の喉元に切っ先を突きつけた。
なに馬鹿なことを言っておる。前回まで妾は吉原で働いておったではないか。たしかにこの話を書くのに長く時間が掛けておったが、寝ぼけておるというのであれば、その喉元を切り裂くぞ。

「ま、待て待て待て待てェェェ!!!冗談だって、ジョークジョーク!お前そういうの本当に通じないよな!!」
「大妖怪に冗談を言える貴様はふざけておるようじゃがな」
「ふざけてねーって!本当に思ったんだよ!!だからその尻尾収めようぜ!?」

青ざめ煩わしく声を上げる銀の字。何が本当じゃ、顔に書いてあったぞ。「この女仕事探しも出来ぬのか」とな。相変わらず苛立たせる奴じゃ、と思いながら尾を収める。

「違う。妾が言えば難なく職は貰える」
「じゃあいーじゃねェか」
「そうではない」

そこで止めて、ゆっくりと息をして銀時を見た。

「……あやつの情報が、欲しいのじゃ」

誰の、とは言わなかった。
新八と神楽は不思議そうにこちらを見ていたが、銀時は違った。巫山戯た素振りも見せず、じっと妾を見ていた。
流石と言うべきなのか、よく分からなんだ。

「人探し、ですか?」
「それなら万事屋に任せるネ!」
「ちげーよ」
「え?」
「こいつが探して欲しい奴は、そんじょそこらの一般人じゃねーよ」
「………」

普段との違う真剣さ、けれど少々怒りと呆れが混ざった声。銀時の声色に違うと感じた二人は自然と真面目な態度を見せる。
斯様な話を、こんな賑やかな場所で話しとうはなかったのじゃがな。

「妾が知り得たい情報は、妾が属しておった“鬼兵隊”じゃ」

銀時は目を閉じ、新八と神楽は目を丸くした。

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