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狐様を想う男



※ 紅桜編(夢主不在)1


「晋助、一度此処で別れようぞ。その方が得策じゃ」
「みてェだな。……おい、千遥」
「なんじゃ。今更降伏するつもりか」
「ハッ!ンなわけねェだろ。……分かってるのか」
「……分かっておる。…なぁ、晋助」

「「必ず生きて、また会おう」」


それから幾年が過ぎた。
ふと、目が覚めた男は、真っ暗闇の海を眺めた。静かで穏やかな海。しかし、どこか妖しく、人を誘う。
懐から煙管を取り出して、火を点ける。肺いっぱいに空気を吸い、紫煙と共に吐き出した。ゆらゆらと踊り消える煙に、男は目を細めた。
あれから、何年経った。
煙と共に浮かんでくるのは柔らかい笑みを浮かべた娘。

「…千遥……」

口から零れた名前は誰にも届かない。
あの日、あの時。

「た、高杉様ァ!」
「た、たたた大変です!!」
「千遥様が…!!」


今でも目に焼き付いている光景。

「晋助、またな」

それを受け止める事も出来なかった。
自分が愛しくてたまらない存在。自分の命を懸けて守ろうと、互いに支え生きていこうと想い合った存在。
そいつが殺された。

「……」

憎き幕府。
ピクリとも動かず、台の上に置かれた頭。野次馬に紛れて見てしまった、絶望をさらに絶望とさせた光景に、男は現実を受け止めることは出来なかった。周りの民衆ががやがやと何か言っているが、耳に入らない。周りの色がだんだんと消える中、彼女の色だけは消えない。憎たらしいほどに、はっきりとくっきりと綺麗に。

「先生も、アイツもいない世界なんざ…いらねぇ」

高杉が世界をぶっ壊す、そう決めた瞬間だった。

***

妖刀・紅桜。
江戸のとある場所でひっそりと営む刀鍛冶の息子が、最強の刀を作らんとして、絡繰りに手を出し創製した対戦闘用絡繰り兵器。江戸を火の海にしようと目論む高杉には、持って来いの兵器だった。

「酔狂な話じゃねぇか。大砲ぶっ放して、ドンパチやる時代に、こんな刀ァ作るとは」
「そいつで幕府を転覆するなどと大法螺吹く貴殿も、充分酔狂と思うがな!!」
「法螺を実践する法螺吹きが、英傑と呼ばれるのさ。俺ァできねぇ法螺は吹かねぇ。…フッ、侍の剣も、まだまだ滅んじゃいねぇって事を、見せてやろうじゃねぇか」
「貴殿らが何を企み、何をなそうとしているかなど興味はない!刀匠は斬れる刀を作るのみ!!私に言えることはただ一つ。この剣に、斬れぬものはない!!!」

大量に生産しつつある紅桜を前に、高杉は笑うだけだった。
その後、高杉は刀匠・村田鉄矢との密会後、一人別室へと向かった。その間に、敵襲が起き始めたのか、爆音や震動が起きた。攻撃から回避するためか、船が動き始めたのを感じつつ、高杉は暗いところでうごめく存在に声を掛けた。

「よぉ」
「!」
「お苦しみのところ失礼するぜ。お前のお客さんだ」

扉に縋り、煙管で一服しつつ高杉は男に言った。

「色々派手にやってくれたらしいな。おかげで幕府と殺り合う前に面倒な連中と殺り合わなきゃならねぇようだ」

紅桜で事を大きくさせた原因である男、岡田は痛みに呻きながらも笑った。フゥ、と紫煙を吐いて高杉は言った。

「桂、殺ったらしいな。おまけに銀時とも殺り合ったとか…。わざわざ村田まで使って…。……で?立派なデータは取れたのかィ?村田もさぞ、お喜びだろう。奴は自分の剣を強くする事しか考えてねぇからな」
「……アンタはどうなんだい?」
「…」

岡田の言葉に、高杉は静かに歩み寄った。気付いている様子だが、岡田は言葉を続けた。

「昔の同志が簡単に殺られちまって悲しんでいるのか?それとも…」

刹那。
金属同士が交じり合う音が響き渡った。高杉は刀を抜き、岡田は自分の身体と融合しつつある紅桜で。もはや岡田の一部となっている紅桜を目にし、高杉は笑う。

「ほぅ…。随分と立派な腕が生えたじゃねぇか。仲良くやっているようで安心したよ。文字通り“一心同体”ってヤツだな」

刀を引いて、高杉は背を向けた。その背を見つめる岡田は呆然としていた。

「さっさと片付けて来い。あれェ、全部潰して来たら、今回の件は不問にしてやらァ。どの道、連中とはいずれこうなってただろうしな。……それから」

入り口で足を止めた高杉の雰囲気が一変した。
それは怒りにも近いものだった。

「二度と俺達を、同志なんて呼び方するんじゃねぇ。そんな甘っちょろいモンじゃねぇんだよ、俺達は」

次言ったら、そいつごとぶった斬るぜ。そう言い捨てて、高杉は去って行った。殺気が遠ざかっていくのを肌で感じながら、岡田は笑った。

「今のは本気で斬るつもりだったねぇ…」

その言葉が高杉に届くことはなかった。
岡田のもとから離れた高杉は、次なる場所に向かって歩いていた。そんな中思うのは、岡田に言われた『同志』という言葉。
自分達はそんな言葉で片付くようなものじゃない。もっとドロドロとした、面倒なもの。一言で片づけるわけにはいかないほどだった。特に銀時は。桂ともそこそこの縁はあるが、銀時は一生赦す事の出来ないほどの感情を抱いている高杉。
しかし、それ以上に赦す事が出来ない存在はいる。

「…ああ、ちくしょう……」

獣の呻きが止まねぇな。
腹の中に棲む黒い獣が、自分に殺せと、殺戮を起こそうという。自分の大事な存在を手にかけた腐った奴等を赦さないと、獣が吠える。

「…晋助、必ず生きて、また会おう」

約束を交わしたまま再び世を彷徨い続けているのか。それとも、もうこの世界に居ないのか。
たとえ会えたとしても、アイツはまた俺に笑い掛けてくれるのか。
この世界が憎い。師を奪い、愛しい妖をも奪ったこの世界が。何もかもぶち壊してしまいたくなるほどに。全てが消えた後、自分に何が残るのかなど知らない。残るのはただの空虚だろう。
それでも、高杉は前へ行く。

「おいおい…、いつの間に仮装パーティー会場になったんだ、ここは。餓鬼が来ていいところじゃねぇよ」

獣の呻きが止むまで。

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