成り代わり | ナノ
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無自覚少女は天然タラシ



何でか分からねぇけど、こいつらの動きが遅く見えた。ゆっくりとした動作で、私に向かって振り上げる拳。その懐はがら空きで、私は迷うことなくそこに一撃を入れる。
急所に当たったのか、男達は軽く吹っ飛んで壁に激突したり、地面と接吻したりして意識を飛ばす。それを見ても恐れない他の男達は、諦めず私に攻撃を仕掛けてくる。

「こンの…!」
「はいハズレー。私はこっちだ」
「な、ぐぁ!!」
「がっ…は…!」
「…おっそ」

一人、また一人と私はいともたやすく男達を地に沈める。
数人が立っている頃にようやく私の強さに恐怖し、逃げる腰抜け野郎も居た。それでも、やはり男が女に負ける事にプライドをもって掛かって来る奴もいて、容赦なく私は撃退した。
自分でも分からないくらい、身体が動く。習い事もしてないのに、綺麗な型がしっくりと来ているのが分かる。
なんで、私の身体は覚えているのだろうか。

「千遥ちゃ…すご……」
「さつき、もうちょっと我慢してくれよ」
「っ…!ア、アンタ達!!何ボーっとしてんのよ!!早く、」
「諦めろよ」
「!」

男達に指図する女に、私はいつもより低めの声で話しかけた。
だって、無理だと思うぜ。

「全員、私が伸したから」
「な、」

私の周りには屍累々、なーんつって。
でも、急所を狙ったつもりだから男達が起き上がることは無いだろう。そのつもりで相手をしたんだから。
ガタガタと足を震わせる女達。その中でも、リーダーっぽい女は震える声を荒げた。

「な、んで…!どうしてアンタは邪魔ばっかするのよ!!アンタには関係ないはずじゃない!!」
「ダチが傷ついた」
「!」
「それに理由がいるわけねぇじゃん」

その時、微かに脳裏に浮かんだ五つの後ろ姿。
それが何を指しているのかは分からない。
でも、懐かしい気持ちが生まれた。
もはや意気消沈としている先輩達に、私は疲れとか色々混ざったため息を溢して歩み寄った。

「…アンタもさ、くっだらねぇ嫉妬で女を苛めて楽しいの?たかが見た目だけで妬んで、しんどくねぇの?そんなちやほやされるのが羨ましいのか?」
「っ…」
「そんな回りくどい事すんじゃなくてさ…」

私が歩く道に倒れていた邪魔臭い男達を蹴りながら、女に近寄った。
他の女達は何かされると思っているのか、震えて彼女名前を呼んでいた。なんだ、別に利害関係で仲良くしているわけじゃなさそうだった。
よっこらしょ、とババ臭いことを言って、私は先輩を見て言った。

「もっと自分を磨けばいいじゃねぇか」
「!」

恐怖している女の頬に手を置く。一瞬肩が上下したけど、それを気にしてないように装って、私は言う。
涙目だけど、私を見る目はキラキラしていた。そして彼女の目に映る自分が見えた。
なんだろうな。私のほうが酷く濁っているように思えるわ。

「アンタらさ、美人なんだからさ。そんな嫉妬しなくていいじゃん。つーか、嫉妬してたらだんだんと自分を卑下していくぞ」
「っ…」
「もうちょい、自分に自信持てばいーだろ。自分を見てくれる人がいるだけ、それで充分だろ」

そう言うやいなや、先輩は私の手を払って颯爽とその場から去って行った。他の女達も慌てて逃げて行った。そんな後ろ姿に私は「もうすんじゃねーぞー」と一声かける。視界の端に映る男達はまぁ放置の形でいいだろう。後で口止めしておけばいいし。
とりあえず一件落着ってわけで、さつきの方を見たら…、

「…何でさつきは不貞腐れてんだよ」
「千遥ちゃんの天然タラシ」
「…はぁ?」

ふぃっと顔を背けるさつきに首を傾げた。
え、私、何かしたっけ?
これは面倒になりそうだ、と思いつつもさつきに言った。

「…それよか、さっさと保健室に行こうぜ。怪我されてないかどうか見るためにもな」
「…うん」

頷いてくれたけれどさつきはさっきまでの恐怖で腰が抜けてしまったようだ。安心したのもあるだろうけど。仕方なく、私はさつきを背負うことに。世話のかかるやつ、と思うけどどうも手放す事は出来なかった。
さて、保健室に行こうと思った私だったが…。

「…あ、」
「?どうかしたの、千遥ちゃん」
「……掃除よろしくおねがいしますねー」
「?」

私の言葉が理解できなかったさつき。聞いてくるが、適当にごまかして私達は保健室へと向かった。

「って、千遥ちゃん違う!こっち!」
「あれっ?いつの間に場所変わったんだ?」
「変わってないー!」



「…いつからワシの事気付いとったっちゅーねん…」

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