無自覚少女の本気の実力
助けなくてもいいはずなのに、つい助けてしまう。
放ってもいいはずなのに、放っておけなかった。
他人だから怒らなくてもいいはずなのに、何故か自分のように怒ってしまう。
気にしなくていいはずなのに、ついつい気になってしまう。
だからこそ、見捨てることなんか出来なかった。
「千遥、ちゃ…」
「……さつき、」
暴力なんてものじゃない、もはや強姦されかけたさつきに手を差し出す。さつきも震える手を伸ばしてくれて、掴み勢いづけて身体を起こさせた。複数人によって襲われかけていたんだ、ボタンは引き千切られていて素肌が晒されていた。身体は震え、顔は青ざめていた。
あーあ…マジでムカつくな……。
「…これ、着とけよ」
「っあ…り、がと…」
「それと、」
「?」
彼女にパーカーを羽織らせ、私は言葉を紡ぐ。
「…遅くなって、ごめんな」
「っ…う゛…う゛ぅ〜!!」
恐れと怖さ、そして強姦されかけたという危機的状況を回避した事に安堵したさつきはボロボロと涙を零し始めてしまいには鼻水まで出す始末。おいおい、美人がそんなみっともない顔すんなよな。
しゃーないから私はさつきに胸を貸してやる。と、自分達の存在をないがしろにされていたからか、リーダー格の女が言った。
「何で…、何でアンタが此処に居るのよ!!?」
「あ?あー…、偶々だ」
「ハァ!?」
私の返答に声を荒げる女。と、反対にさつきはちょっと苦笑い程度の表情をして私に聞いた。
「…千遥ちゃん、本当は何処に行こうとしたの?」
「あー…、…屋上だ」
「まさかの真逆!?」
「おっかしいよなぁ、ホント。屋上に行くつもりが、まさか此処に来てよぉ…」
でも、迷子になったおかげでさつきを助けることが出来たから結果オーライだな。なんて思いながらさつきを安心させる。さつきも偶然とはいえ助けてくれた事に感謝しているのか、いつもの小言はなかった。
しかし、納得いかないのか女たちが声を荒げた。
「ふっふざけんじゃないわよ!!何なのよアンタ!!?事あるごとに邪魔して!!」
「ぇ…?」
「……」
女の言葉にさつきは私を見た。その視線に一瞥を向け、私は無言で女を見た。
女が言う邪魔というのは、さつきに対する嫌がらせの類の事だろう。確かに、今まで私はさつきに被害が起きる嫌がらせを全て回避させていた。勘が冴えわたっていたのか、何かが近づいて来たのをよく察知していた。階段で落とそうとしたさつきを庇ったり、上から植木鉢が落ちそうになった時とかもな。
こう考えると、地味に私ってさつきを守っていたんだな。
「あたし達の邪魔しやがって…!!」
「ふざけんじゃないわよ!!」
「おー、女の嫉妬は醜いなー。今の自分の顔、鏡でよく見てみろよ」
「うっさいんだよ!ちょっと、アンタ達!!コイツをどうにかしなさいよ!」
なんかラスボスみたいで面白いな、なんて思っていると女の命令を素直に従う男達は私達に向かって走ってきた。恐怖がまた生まれたのか、さつきは私の裾を掴み震えていた。
「千遥ちゃ…!」
「さつき、絶対にそこから一歩も動くなよ」
その言葉をさつきに言い、私は駆けた。標的を私だけに絞った男達はただ殴ろうと拳を高く上にあげた。
オイオイ…、お前らさ…、
「雑魚が舐めてんじゃねぇぞ」
一瞬だった。
何で知っているのか分からなったが、自分の身体は男達の攻撃を見切っていてそのまま急所を狙い瞬殺した。
「…この程度なら私の相手にはならねぇよ」
暴君でも呼んで来いっての。
……ん?“暴君”って、なんだ?
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