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無自覚少女と桃色少女



私が桃井さつきという少女と出会ったのは、入学して間もない頃だった。

「…うわ、醜いなぁ」

本日晴天、風も良好。
な、昼下がり。私、次屋千遥は屋上のさらに上の貯水槽の上で昼寝をしていた。日向ぼっこにいい場所で、飯も食った後だから寝るに限る。ぽかぽかとしたいい天気と、お腹を満たされた事もあり眠気が私に襲い掛かってきた。

「…?」

しかし、私の楽しみを邪魔する者達がやって来たのだった。
普段あまり人が来ない場所。サボる場所には丁度いいところで、意外な穴場の屋上。そんなところに、今から授業が始まろうとしている時間に、錆びついた扉が音を立てて開いたのだった。
誰だよ、私の眠りを邪魔する奴は〜…。
なんて思いながら、下を見れば、なんともいえない剣幕な雰囲気。

「アンタさぁ、ホントにウザいんだけど」
「入学早々目ぇつけられるって事、分かんなかった?」
「っ……」
「媚び売ってんじゃねぇよ」
「っちが、私、売ってな、」
「ビッチなんでしょ、本当は」
「このおっきなお胸で男子をたぶらかして楽し〜い?」
「そ、そんな事、してな、!」

パァン!!

「っ…」
「(…陰湿だな、本当)」

容赦なく頬を叩いた先輩であろう女子生徒。ただ髪色が変わってるだけで、体型が自分達より豊満だからって女子一人に対して数人なんて、弱い者苛めがよっぽど好きなんだな。
いや、これはただの妬みか。

「調子に乗るんじゃねーよ!」
「ちゃらちゃらして、大体何よその髪」
「ピンクとかキモいんだよ」
「黒に染めろや。何様?アンタ」
「何なら、アタシらが黒に染めてあげよっかー?」
「っ、痛いッ!離してッ」

先輩女子に髪を引っ張られ嫌がる少女。かなり強い力で引っ張られているみたいで、可愛い顔が痛みで歪めていた。助けを求めようとしているけれど、生憎、屋上には私しか居ない。他に誰も居ないから、助けて、なんて言えやしないのだ。

「……ったく…」

面倒だなぁ、ホント。

「陰湿ないじめは最近の流行なんでしょうかねー」
『!?』

誰に尋ねる訳もなく、独り言のように私は言った。いや、こんなにデカイ声じゃ独り言にはならないか。
自分達の下、地面に私の影が生まれた。そこで貯水槽の上から眺めていた私に気付き、地面からこっちへと視線が集まった。
桃色の少女も、その目に涙を溜めて見ていた。

「寄って集って、醜いなぁ女って」
「なっ…」
「だ、誰よアンタ?!」
「不細工なアンタらより先に此処に居た女子生徒ですけど。…そういうのはさ、もっと誰も居ないか確認しなよ」
「う、うっさいわね!!!」
「生意気なんだよ、お前、降りて来いよ!!」
「アンタみたいな奴、ムカつくんだよ!」

不細工だとか醜いだとか言ったから癪に障ったようで、私に殺気を向ける先輩達。生意気だとかいうけど、アンタ達に敬意を表すのは可笑しいだろう。
尊敬するようなところなんてないじゃん。

「ハッ、馬鹿ですか?ハイ分かりましたって素直に従うわけねぇだろ」

鼻で笑ってやれば、カッと赤くなる女達。そして私に何か言おうとして、口を開けたけど、そこで止まった。

「それより後に来たお前等はさっさと出て行ってくれよ。私の機嫌が悪くなる前によ」

睨みつけてそう言えば、何も言え無くなる女。だいたい、私はただ此処でのんびりしてただけなのに、それを邪魔したのはお前らだろ。

「もう一回言うよ。…ウザいからさ、さっさと出てけよ。不細工共が」

醜い顔がもっと醜くなるぜ。
殺気混じりにそう脅せば、女らは怖じ気づき、逃げるようにして屋上を後にした。パタパタという足音がだんだんと聞こえなくなったのを頃合いに、私は殺気を収めた。
なんだよ、何も言わないのかよ。呆気無いなぁ。
なんて思いながら私は貯水槽から飛び降りた。ちょうど、桃色少女の目の前に。

「よっと…、アンタ大丈夫か?」
「ぁ、うん…、…助けてくれてありがとう…」
「別に。私の眠りを妨げたアイツ等が悪いからさ。アンタのためじゃねぇよ」

そう言えば、女子は私の言葉に小さく笑った。何が可笑しいかは分からないが、白い肌に似合わない赤々しさが気にくわない。
叩かれた頬を触れば、熱を帯びていた。

「……保健室、行くか」

そう呟き、私は彼女を保健室へ行くため手を引いたのだった。
これが、彼女──桃井さつきと出会いだった。

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