成り代わり | ナノ
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妄想少女と紫の少年



「お前らぁぁぁ!!そっから一歩も動くんじゃねぇぇぇ!!」

夢に出てくる自分は、いつも怒ったり泣いたりと忙しい。

「デカブツぅー!!!何処だー!返事しやがれぇー!!」

この声を聞けば、その学校の生徒は誰もが思う。
あぁ、一日が終わりに近づいているんだなぁ、と。
生徒玄関からバタバタと走って出てきた彼女を見て、周りの生徒は大変そうだなと様子を見る。

「くそっ、あの野郎…!!何処に行きやがった…!!」
「千遥ちゃん今日も探してるのー?頑張ってー」
「おう、ありがとな!!」

校内を走り回るのは特徴のある前髪にポニーテールをした女子生徒。何処にでもいるような彼女ではあったが、一点だけ他人と変わったところがあった。

「おっ、今日も縄を持ってんな富松ー!」
「これがねぇとアイツを捕まえることが出来ねぇんだよ!」
「ハハッ!アイツを見たら声かけるべ!」
「おう!ありがとなッ!!」

彼女の手には使い慣れているのか、少々痛んでいる縄。
辺りをキョロキョロ見渡し、標的の存在を探し回る。此処にはいない、と呟きまた別の場所へ。
彼女の名前は富松千遥。
陽泉高校の一年生である。

「くそっ…こっちにもいねぇ…!」

部活に無所属の彼女は、通常ならば委員会の仕事がなければ帰宅が出来る。しかし、帰宅が遅くなるようなある仕事を教師から任されているのだった。
走り続けて息が乱れつつも彼女が探しているのはとある同級生。入学してから三度連続でその生徒を見つけたことにより、学級担任、そして彼が所属する部活の顧問と先輩から彼を探してくれるよう頼まれるようになったのだった。
何故、そうなってしまったかというと…、

「!」

千遥は視界の端で何かを見つけたかと思うと、その後は一瞬で事が終わった。

ヒュンッ ガシッ

千遥は標的に向かって迷う事なく縄を投げたのだった。縄の先には輪っかが出来ており、最大限にまで広がっていた。その縄を投げたかと思えば、手の感覚で彼女は一気に自身に向かって引いた。

「うわっ!!」

驚きの声が聞こえた。と、同時にドシンと何かが倒れた音。
千遥は小さく溜め息を溢して、縄を外さないようしっかりと手に余った縄をまとめ持ち、縄を投げた方向へ歩いた。

「…見つけたぜ、テメェ…」
「…富ちんさぁ、何で俺の場所が分かんのー?」
「そのあだ名はやめろっつってんだろ、紫原ァ!!」

ギロリ、と千遥が睨みつけたのは髪の毛が紫色というなんとも不思議な遺伝子を持っている少年――紫原敦。
そんな睨みに動じることなく紫原はのそり、と縄で捕まったまま起き上がる。その動作に千遥はため息を溢して言った。

「おら、先生やオメェの先輩達が待ってんだよ。早くしやがれ」
「えー、俺まだお菓子食ってねー」
「私が知ったことか!!」

紫原の意見を無視して、千遥は体育館へと目指し歩いて行った。
何故、彼女が彼をこうして捕まえる事を任されたかというと――、

「テメェみたいな奴、私にかかればあっという間だ!」

迷子探しが得意だからだった。
さて、迷子とは一体誰の事を指しているのだろうか…?

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