成り代わり | ナノ
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決断力少女が見せた涙



二人の姿を見た瞬間、私は夢でも見ているのではないかと自分を疑ってしまった。だって、そんな事がそう簡単に起きていいはずがない。でも、私の目の前にいる二人は幻影でもない、私の夢でもなかった。
彼女たちにはちゃんと足もあって、私を見た瞬間に変わった表情。そして、瞬時に私の名前を嬉しそうに呼んだ彼女達。
夢だなんて言うほうが、私には酷だった。

「数穂ッ…孫美…!」

嗚呼、ようやく会えた。
独りだと、この世界にはあの頃の記憶を持っているものはたった一人だけだと、残酷にも前世の記憶を持ったまま放り込まれたと思い、勝手に絶望した私。けど、天は私を見捨てるようなことはしていなかった。
大好きな二人が、目の前にいる。
震える体を叱咤させ、ゆっくりと、おそるおそる二人に歩み寄った。

「…え、知り合い…なんスか?」
「誰でしょうか…?」
「つか、千遥ちゃんのあんな表情…見た事ねー…」

周りが何か言っているけど聞こえない。緑間は、いや、真太郎は今まで見たことのない私の様子に驚きの表情を浮かべていたのが見えた。気になることが山ほどあるだろう。聞きたいことがたくさんあるだろう。
けど、すまない。
今は、彼女達に会えた事に喜ばせてくれ。

「あえ、た…!やっと、…やっと…!」

今はただ、私はこの二人との再会に喜びを感じたい。
会いたかった。
会えた。
やっと、やっと会えた。
二人に歩み寄った私の手を二人がそっと、優しくとってくれた。手から感じ伝わる、二人の温もりに、またこれが夢ではないということを教えてくれた。
確かめるように、孫美が私に言った。

「千遥…だよね?」
「っああ!神崎千遥だ!」
「千遥…会い、たかったよぉ!!」
「っ私もだ!!」

勢いよく抱きついた数穂を受け止める。会えた喜びに、あの頃と同じ優しい笑みを浮かべて私の頭を撫でる孫美に、言いようのない感情がぶわりと胸が熱く身体中へと広がった。
あの頃ならば、涙を流すなと、感情を出すなと言われていた。
けど、今は違う。
こうして、喜び、嬉しんで、泣くことが出来る。また、こうして生まれ変わって彼女達と再会することが出来て嬉しい。

「…もちろん、千遥は私達の事は覚えているんだよね?」
「あぁ!毒ヘビや毒虫を飼っていて、毒虫少女と呼ばれている伊賀崎孫美!不運な体質で、存在さえも忘れかけられている三反田数子!!」
「そしてお前は、」
「決断力のある方向音痴の神崎千遥!」
「っ…数子、孫美…!」

我慢していた涙が一筋、二筋と流れ、それは止まることはなかった。ボロボロと、声を上げたくなったけどそれは我慢。だから、孫美と数子を抱きしめて声を我慢した。

「会い、会いだがっだ…!!」
「…うん」
「私もだよ…!」

ようやく、この世界で生きていく感覚が私の中に生まれた。ずっと知らない世界だったから、生きている心地が無かった。幾度か、幼馴染の真太郎に助けてもらっていたが、それでも、あの頃の生きた充実感は無かった。
だから、孫美と数穂との再会は私に希望をみせてくれた。

「会えた…!やっと、…会えた…!」

数穂と孫美に遭えた。…でも、まだアイツらに会えていない。
私とは違って自覚のない方向音痴のアイツに…、いつも私達を見つけてくれる、大好きな彼女に。
そして今日、希望は見えた。

「絶対に、見つけてやる…!」

今度は私が見つけるから、見つけ出すから、待っててね…!

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