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決断力少女なりの励まし方



※ VS秀徳戦

(高尾side)

試合は負けた。
最後の最後に、黒子の奴にしてやられた。
俺は悔しい思いはしたが、涙を流すほどじゃなかった。けど、先輩達は最後のIHだったしでか、泣いていた。それを見ていると、先輩達に勝たせてやりたかったって思うし、そう感じるとやっぱり悔しい気持ちがあった。
WCで見てろよってな。

「…ったく、真ちゃんは、何処に行ったんだか…」

外に出てからまったく控室に帰ってこないでよ…。先輩達呆れてもう帰っちまったぜ。俺は優しいから待っててやるけどよぉ。

「…」

緑間も、やっぱり悔しかったんだろうか。いや、アイツは今まで勝っていたから負けたことを受け入れてないのかもしれねぇのかも。
まぁ、それはそれでちょっとムカつくけど。
なんて、小さく笑っていたらドアが開く。一人だけで、物思いに耽ていたしで、油断していた。バッと勢いよくドアを開けた奴を見てみると、立っていたのはやっぱり真ちゃんだった。あんまり明るくないけど、ちょっとだけみえたそれ。
真ちゃんの目元は赤くなっていた。
それに敢えて気付かないようにして、俺は「真ちゃんおせーよ」と笑って言う。

「…うるさい。先に帰ればよかったのだよ」
「何言ってんだよ。どーせリアカーに乗って帰るようになるんだからよ」
「…フン」

真ちゃんは簡単に荷物を片付けて、ロッカールームを出る。それに俺も続けて出た。二人の間は静かすぎるほどで、俺は別に真ちゃんをからかおうとは思わなかった。そういう空気じゃないってのも分かってっから。
でもこっからすぐ帰るのだろうかと聞きたくて口を開けた、その時だった。

「こっちだぁー!!!」
『……』

聞きなれた声。
そりゃ毎日聞いてるようなものだからな。

「……」
「体育館は、こっちだーッ!!」
「…」

廊下に響き渡る声に、おもわず俺は真ちゃんを見た。真ちゃんも目を見開いて驚きの表情を浮かべていて、声がした廊下の先を見ていた。すると、ドダドダと女の子らしくない足音でかけてくるのが聞こえ、だんだんとこっちへ来るのが分かる。
ゆっくりと人影が見え、暗闇からやって来たのは…、

「何故、…何でお前が此処に居るのだよ千遥ーッ!!」
「むっ!?その声は!」

真ちゃんが珍しく大きな声を出し、その声に反応した子――千遥ちゃんは急ブレーキで俺達の目の前で止まった。
どうしてそんな猛スピードで走ってるのか俺は不思議なんだけどね!!

「おお!緑間!やっと見つけたぞ!」
「何がやっとなのだよ!!いつから此処に来ていたのだよ?!」
「二刻ほど前だ!」
「なんでそんなにいて、やっとなのだよ!!…お前、まさか…」

何かに気が付いた真ちゃんは今度は青ざめた。
ちょ、真ちゃんの表情が此処まで変わるのがちょー珍しいんだけど!

「お前の試合を見に来たんだが、一向に会場につかなくてな!お前が此処にいたということはもう終わってしまったのか?!」
「!」
「……」

真ちゃんは言いにくそうになる。俺も別に答えるつもりはなかった。

「?緑間?」
「っ…」

千遥ちゃんから目を逸らすように顔を背けた真ちゃん。その反応と、俺がへらり、と笑ったのを見て千遥ちゃんは察して理解したようだ。
何か言うつもりなのだろうか、と俺は少し待ったが千遥ちゃんの反応は俺達の予想を見事に外してくれた。

「お疲れ様だな!!」
『!』
「そう何度も何度も勝って当たり前の試合などあるものか!いつかは負ける!それが今日だっただけだ!」

お前達はまだ来年、緑間が言うには冬の大会に行ける権利は貰ってあるのだろう、と言った。まぁ、確かに冬の大会―WCに出れるには出れる。
そして、その時またアイツらと戦うはず。

「そうなれば鍛錬あるのみだ!うじうじしていては女々しく見えるぞ!!」
「…別にうじうじしてないのだよ」

ようやく口を開けたかと思えば真ちゃんは反論した。その言葉で真ちゃんの様子がもとに戻ったと分かったのか、千遥ちゃんはニカリ、と笑い言った。

「それでこそ緑間だ!」

天真爛漫っていうか、裏が無い子だな。って俺はただ思った。そして流石真ちゃんの幼馴染と思って、ありがたく感じた。

「よぉーし!!それでは帰るぞ!!」
「!待て、千遥。お前は先に行こうと、」
「出口はこっちだぁぁぁ!!」
「そっちじゃないのだよぉぉぉ!!」
「ぶっひゃっひゃっひゃ!!真ちゃん、形無しだな!!」
「黙れ高尾!!!!」

通常運転で、決断力のある方向音痴を披露してくれる千遥ちゃんに、真ちゃんは見事に翻弄されていた。それがまるで、彼女なりの元気づけにも思えた。
あんなに太陽みたいに笑う彼女。
まさか、涙と縁遠いと思っていた彼女がこの後その表情に涙を浮かべるとは思わなかった。

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