成り代わり | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
毒虫少女は友達想い



※ IH予選リーグ誠凛VS秀徳

一人だけ抜きんでているその髪の色に、私は目を瞠った。

「…あの緑頭の遺伝子はどうなっているんだろうか…」

高校バスケのIH予選リーグ。
そこで私は一人観戦していた。もちろん試合自体に興味は無いんだが、今試合をしている誠凛のベンチには私の大事な親友の一人である三反田数穂がサポーターとしているから、彼女の為に私は此処に来ていた。
だが、やはり此処に居たら試合を見てしまうのは当たり前で今は緑頭の事が気になってしょうがなかった。緑頭だけじゃない、数穂の知り合いであるあの影の薄い奴の髪も気になる。

「(水色の髪など、見た事ないぞ…)」

思わず出た独り言。けれど、見ているのは私だけだ。周りが気にする事などないだろう。
そう思っていたのだが、

「そんなに緑間っちの事が気になるんスか?」

私の呟きは綺麗に隣に座っている奴に拾われた。

「アイツの髪の色素がどうやったらああなるのか気になるだけだ。私に話しかけるな、ウザい」
「相変わらず冷たいッスね、伊賀崎っち…」
「その名で呼ぶな、気色悪い」
「…」

変なあだ名で呼ぶ隣の奴は学校では私の隣の席でもある黄瀬涼太。どうやらコイツも試合が気になり、部活の先輩と一緒に観戦しに来たそうだ。
もちろん一緒に来ていない。たまたま、たまたま奴が私の隣に座っただけだ。
嬉しい?まさか。
吐き気がしそうなくらい気分は最悪だ。

「…それで、どうして伊賀崎っちが此処に?」
「親友の様子を見に来ただけだ。試合には一寸も興味無い」
「親友…?」

私の言葉を聞いて黄瀬は試合の方に目を向けた、かと思えば誠凛のベンチを見た。
そしてまた私を見て言った。

「もしかして、三反田さんの事ッスか?」
「!」

黄瀬の言葉に思わず奴を見た。と、勢いよく私が見たからか黄瀬は一瞬驚いた表情をする。
しまった、思わず反応してしまった…。
でも、なんで黄瀬が彼女を知っているのかが気になって仕方がなかった。ゆっくりと口を開けた。

「…数穂を、知っているのか?」
「?はいッス。この間、海常で練習試合があったけど、その時に会ったんスよ!」

と、黄瀬はそのまま数穂と出会った時の話をし始めた。
黄瀬の話によると、どうやら数穂は黄瀬の作り笑いに瞬時に気付いたみたいだ。そしてその反応と自分の存在を知らなかった事で黄瀬は数穂さんを私と同じようだと話したそうだ。
ふん、忍たまを舐めるなよ。

「当たり前だ。数穂の前で嘘が通じるはずないのだからな」
「三反田さんすごいっスね…!」
「お前の作り笑顔も嘘もバレバレだ。見ていて気持ち悪いほどにな」
「伊賀崎っち、もう少しオブラートに…」

私の言葉に胸に手を当てる黄瀬。その隣の、部活の先輩が黄瀬に憐れみの目を向けていることに気付いていないようだ。
黄瀬の話を聞きながら試合の方に目を向けると、丁度休憩になっていたようだ。しかし、どうやら数穂がいるチームは揉めているようだった。

「誠凛の方、なんか揉めてないッスか…?」
「……」

黄瀬も同じことを思っていたようだが、私はその呟きを拾わずただ彼らの口唇の動きを読み取った。どうやら赤髪の奴が一人で暴走しているようだった。一人で闘えるとかふざけたことを抜かしているが、忍の任務においても一人で行動をすれば、全員の命を落とすかもしれないというのに。
あの男、馬鹿だな。
と、思ったその時だった。

「!」
「く、黒子っちィ?!」

水色の頭の奴が赤髪の奴を殴る。黄瀬は水色頭の方に驚いていたが、私は違う。

「(何で数穂を巻き込んでるんだ…!!)」

しかもそのまま喧嘩は肥大化して、赤髪の奴も水色頭の奴を殴ろうとした。しかし、それは意外な人物によって被害は無くなった。

「ッ!?」
「え、…さ、三反田さん…?」

そう、数穂のおかげだった。
数穂が丁度赤髪と水色の間に入ったおかげで、被害は数穂が被ることになり水色が怪我をすることはなかったのだ。
だからといって、怪我無かったね良かったね、で終わるはずがない。

「あの赤髪…」
「え、ちょ…い、伊賀崎っち…?」
「我慢できない。ちょっとアイツを殺ってくる」
「ちょ、ちょちょちょ!?何言ってんスか伊賀崎っちィ?!やるって、漢字なんか可笑しいッスよ?!」
「気のせいだ。ちょっと行ってくる」

私の腕をガシリ、と離さないように掴む黄瀬に私は抵抗する。落ち着いて、だとか冷静に、とかいう黄瀬だが戯言を抜かすな。
黙っていられるわけがないだろう!!大事な親友が殴られるなんて許されない!
そう思って黄瀬の腕を振りほどこうとした時だった。

「!」
「!?……伊賀崎っち?」

彼女から矢羽音が届いた。
ハッとベンチに座る彼女に目を向ける。女の生徒に冷やしてもらっているけれど、私に矢羽音を送ったのは間違いなく数穂だった。
彼女は矢羽音でこう言った。

≪私は大丈夫だから、殺気を抑えて≫
「……」

そう本人に言われれば、私が何かすることはない。自分を落ち着かせるように小さく息を吐いて、私は数穂に矢羽音を送って席に座った。

「…?(いきなり、落ち着いたけど、どうしたんだろ、伊賀崎っち…)」

試合開始の合図が鳴った。
早く試合が終わって、早く数穂の怪我の容態を見たかった。

prev/next
[ back / bookmark ]