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不運少女の酷い不運



※ VS秀徳戦(火神暴走時)

正邦、秀徳と続いて行われたIH予選リーグ決勝。正邦で体力を削られ、秀徳の選手の実力に焦りが出てしまったのか、火神くんが独走プレーになりがちになってしまった。

「現状、秀徳と渡り合えるのはオレだけだろ。今必要なのはチームプレーじゃねー。俺が点をとることだ」

一人だけ急いている火神君。
この状況ならば焦ってしまうのは無理も無い。でも、一人がチームワークを乱せば、チームとして、いとも容易く崩れる。
忍なら任務失敗、酷かったら死んでいるようなものだ。
先輩方も火神君の言葉にキレ、荒れ気味になっていった。負けてしまうかもしれないという、圧力がかかり皆が苛立ち始める。そして負が負を呼び、酷く深く拡大していく。
このままだと、危険だ。
私は火神君の後ろに居たから、慌てて火神君に駆け寄り止める手助けに入った。

「ちょ、火神君落ち着い、」

けど気付けば何故か火神君がこちらに倒れかけていた。

「…へ?」

バキッ ドガッ

「ぐふっ…」
「いい加減にしてください」
「黒子くん!?」
「黒子っ!テメェ!!」

え、ちょっと?!私の事は放置なの?!
黒子君に殴らた火神君の下敷きになったのに、誰も心配してくれなかった。いや、私の存在感が無いからかもしれないけどさ…、でもこれは酷いよ…!?
私の存在に今だ気付かれてない事にショックを抱く。でも、黒子くんに殴られて荒れに荒れてる火神君を止めようと、私は起き上がり火神君と黒子君の間に立つ。

「もぅ、二人とも落ち着い、」
「!?バッ、」
「え?…ぐふっ!」

目の前に拳が、と認識した瞬間左頬が熱くなった。

「っ…」

ちょっと、火神君…君、もしかして黒子君を殴ろうとしたの…?いやいや、痛いよこれ。ちょっと、頭冷やしなよ、本当。

「三反田!?」
「さ、三反田さん…!!」

殴っろうとした火神君と、殴られそうになった黒子君が戸惑いの声を上げる。その声に大丈夫とか言えそうにない。そのまま痛みの衝撃で気失いそうになったけど、そこは頑張って踏ん張り二人を見る。
少し、お灸を添えなきゃならないみたいだね。

「二人ともさ、落ち着きなよ」
「さ、三反田…」
「黒子くんが言った通りだよ。それにさ、楽しくないバスケをして勝っても嬉しくない。一人で勝ち取った試合よりも、チームで勝ち取った試合のほうが何倍も喜びが大きいよ」

ぐわんぐわん、頭が揺れる。かなり強い一撃だったからか脳震盪を起こしているかな、ちょっとふらついた。でも、こんなことで気失ってちゃ元忍者の名が廃る。
小さく息を吸って、静かに彼らを見た。

「冷静に考えろ。自分“達”は今誰と、何と戦っているのか、それを忘れるな」
『!』

ピリッ、と肌を刺すような感覚。少しだけ漏れた殺気に気付いたのか、二人を真剣に見れば、どちらも冷静さを取り戻してくれたようだ。

「バスケは一人でするものじゃないんでしょ?」

ニコリ、と笑って言えば、二人は少し戸惑いながらも返事をしてくれた。さっきの怒気は消えていて、どうやら元通りの二人になったようだ。安心した。

「っ…」

すると、私も緊張の糸も切れてしまい、ベンチに座り込んでしまった。
うう、頭ががんがんする…。

「千遥ちゃん、大丈夫?!」
「三反田!」
「三反田、悪ぃ!!大丈夫か?!」

私を心配してくれる皆さん。火神くんなんて、まるで自分のように痛がっている。
ねぇ、知ってる?人って心配してくれるだけでも嬉しいんだよ。カントクがアイシングで頬を冷やしてくれて、頬の熱がゆっくりと逃げていく。

「火神くん、黒子くん」
「はい」
「な、んだ…よ」
「絶対、勝ってね」

ニコリ、と笑って言えば、二人は真剣な表情になって私を見てくれた。

「おう!絶対に勝つ!」
「皆と一緒に、勝ってベンチに戻ります!」

強い意志を私に見せて、そして拳を出してくれた二人。それに応えたくて、私も二人の拳とコツリ、と突きつけた。そして、気合いを入れて黒子くん達はコートへと入って行く。

「後で一発殴ってもいいわよ、千遥ちゃん!」
「えぇ!?そ、そんなことしませんよ…。冷静さを取り戻せれれば、それだけで…、!」

ふと感じた殺気。
途中で言葉を途切れた私にカントクは心配そうに見るが、私はそれどころじゃなくなった。後ろを見てみたいと思ったけど、第4Qが開始するブザーが鳴ってやめた。
でも、顔を見なくたって分かる。

「…それに、とても心配してくれる子がいるので、大丈夫です」

微かに放たれている殺意と怒り。傍から見れば、機嫌が悪いようにしか思わないはず。でも、長い付き合いだからこそ、彼女が何に対して怒っているのかが分かる。
私のために怒ってくれてありがとう。でもね、

「……」
「?千遥ちゃん、何か言った?」
「…いえ、何でもないですよ」

隠しきれてない殺気を出しちゃ、ダメだよ。

≪ごめん。…無理はしないで≫

矢羽音が届いた。

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