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毒虫少女と不運少女の再会



「まったく、馬鹿な事をしたものだな…」

学校帰り。
今日は土曜日だが、課題提出のあるものを学校に置き忘れてしまった私は学校へ行ったのだ。珍しい失態をしたと反省しつつも、早く帰ってジュンコの相手をしたいと思っていた帰宅途中。

「ふぎゃっ!!」
「…」

しかし、とある道端で、私の視界の端で誰かがこけてしまったのを目撃してしまった。見れば、派手にこけたようで擦り傷だけで済みそうではなかった。さらに言えば、あたりに散らばっている彼女の持ち物。

「……」

助けるべきなのだろうか、と普段他人に興味を持たない私がなぜかそう思った瞬間だった。

「いっ…たぁ〜い…」
「……」

「千遥っ」

懐かしい声と重なった。
絶対に、聞き忘れることはない声。制服姿の少女であるけど、その姿が別の緑色の忍服を着た姿と重なって見えた。後ろ姿だけでも分かる。

「っ…」

自然と、気配を消してゆっくりと私は彼女に歩み寄った。走って駆け寄りたい衝動をぐっと堪えて、けれど、その反対に、口元はゆっくりと口角が上がった。一方で、彼女は、足が溝に嵌まったようで慌てて足を取ろうとしていた。
ふふっ、不運は相変わらずのようだな。
私には気付かないまま、彼女は数分かけて、足をなんとか抜くことが出来た。

「はぁ、やっと抜けた…。さて、黒子くんを探さないと…」

足は痛々しい傷。それなのに、彼女はそれよりもすべきことがあるのか、傷を気にせずに立ち上がった。更に、私に気付かないで彼女はそのまま去ろうと歩を進めた。
「っ」

行かないで。
気付いて欲しいからか、柄にもなく内心慌ててしまう。彼女を私に気付かせるためには、どうしたらいいのだろうかと思ってしまったほどに。けど、ふと私に気付く方法が一つあった。

「ふぎゃ!」
「もう、下手くそだな。その時はこうやって構えなさい」
「うう、難しいよ…」
「背後から近寄ってきた敵にはそうやって構えを見せるところからしな。じゃないと、一瞬でお陀仏だよ」
「うう…もう一回…!」


懐かしく思える、組手の練習。

「…」

ちょっとだけ、試してみよう。もし、彼女ならばすぐに気付いて、そして私が教えた構えをしてくれるだろうから。ずっと叩き込んできたのだから、きっとしてくれるはず。
微かな希望を胸に、私は息を止め、神経を集中させて彼女に向けて殺気を飛ばした。

「!!」

バッ

「……」
「…ぇ、」

嗚呼、彼女だ。
ちゃんと綺麗に構えが出来ていた。私が教えた、背後から敵忍が来た時の反応をしてる彼女。その目は大きく見開いていて、私を見て情けない表情をしていた。

「…やっと、一人目」

自然と涙が流れた。

「…あ、れ?」
「相変わらずの、不運だね…」
「っ!」
「…私の事、覚えてる?」

声が震える。傍から見たら、知らない人が声を掛けているのだから、怪しまれる。しかし、あの時教えた構えをしてくれた彼女に、期待をしたっていいじゃないか。
でも、もし違っていたならば。
私はもう、この世界に完全に興味を失くす。

「三年い組伊賀崎千遥!」
「!!」
「毒蛇毒虫をペットにして飼育してて毒虫少女と言われてる…」
「…」
「私の、大切な友達!」

そう言った彼女、三反田数穂の目からはボタボタと涙を流し、鼻水を垂らし、顔から出るものを全て出していた。なんてみっともない姿を見せてくるんだ。

「っ…みっともないなぁ…」

嗚呼、会えた。
やっと、私の世界に一点の光が灯された。

「…そういう君は、存在が迷子で人に気付かれない、不運な体質を持った、三年は組で元保健委員会の…三反田数穂でしょ」
「ッ千遥!!」

彼女は感極まって、私に駆け寄ってきた。傷が酷いのに、そんなのおかまいなしに彼女は私に腕を広げて走る。

「っ、数穂…!!」

嗚呼、ジュンコだけじゃなかった。
ちゃんと、私の友もこの世に居たんだ。まだ望みはあるんだ。

「あ、あい…会いだがっだ…!!」
「…うん、私も」

数穂と抱き合って私達は、数百年振りの再会を果たした。

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