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毒虫少女の限界



この間の呼び出しから数日経った頃だった。

「(またか…)」

靴箱に入っていたゴミ。
刃物入りの文。
暴言や切傷のある自分の机。
学校の教材の哀れな様子にクスクス笑う声。
まるで私は虐めに遭っているようだった。

「…」

ガンッ

けど、そんな事全くもってどうでもよかった。

「(くノ一教室の子達に比べたら、こんなもの然程気にならない)」

くノ一教室の子は、恋慕とかで私たちを苛めるなどは無かったが、授業の一環で忍たまを悪戯することはあった。が、その内容が言えるものではないものだ。
それを考えたら、こんなのは赤子みたいに優しいものだ。
靴箱や机の中のゴミや刃物入りの文は焼却炉行き。
机は放置で、教師に言えば取り換えて貰える。まったく、公共の教材をよくやるよ。校内の教材はお前達の親の税金や学費から出されているというのを知らないのだろうか。まぁ、知らないからこうして馬鹿な事をしているのだろう。あとは忘れずにしないといけないことを一つしておく。
自分の教材や私物はいつも持って帰ってるし心配はない。潔癖症じゃないけど、人に触られたくないから。そして私にとって不要だから。
なんたって、私は優秀ない組だから。

「うざいんだよ」
「さっさと消えろブース」
「……」

隠す様子も無く、すれ違う度に罵詈雑言を私に吐く一部の女子生徒達。そんな女子生徒達を遠巻きから傍観する他生徒。そして教師は見ないふり。
自分は別にどうと思ってないけど、裏でこそこそやるくらいなら堂々と邪魔だとか言えばいいのに。
それが出来ないから陰で言ったり聞こえる範囲で言うのだろう。

「(あーぁ、何時までこんな子供染みた事をしているんだろうか…)」

小さくため息を零す。
それもこれも…、

「伊賀崎っち!おはようッス!」
「消えろ来るな去れ死ね」
「ちょ、最後のは結構来るっス…!!」

隣の席の奴のせいだ。クソ、マジで死ねばいいのに。
だいたい、根暗女みたいにこいつに近寄る女を邪魔するよりか、自分から率先して近寄ればいいだろう。さっさと恋文とか送ったりしてすればいいのに、なんで遠巻きに見たり、近寄る女をイチイチ妬んだりするのだろうか。
アレか、自分より他の女に好いている奴を取られているのが相当悔しかったのだろうか。

「…面倒くさい女達だな」

ポツリと呟いた言葉は騒々しい廊下に掻き消えた。
しかし、何も反応しなかったり、泣いたりしなかった私を、妬んでいた奴等は赦せなかったのだろう。
それは突然すぎる非情な行い。

「……」

次の日も、ゴミや文が入っていると思っていた。ゴミは何処から持ってきているのだろうか、わざわざ家から持って来たのか、なんて思いながら自分の下駄箱の蓋を開けた。
けれど、今日の中身は違っていた。
それを見た瞬間、私の頭の中は文字通り真っ白になった。

「あはっ、ショックうけてるー」
「あっはは!ざまぁないわ!!」
「涼太と仲良くすんのが悪いんだよ!!」
「ブスの分際で!」
「あーぁ、疲れた!!」
「捕まえたくなかったし、アレを殺すのにどれだけかかったことか!」

下駄箱のすぐ近くの場所で聞こえた声。真ん中で、ご満悦な様子の女が、主犯格として判断していいのだろう。ケタケタと品の悪い笑い方をする女どもの声が、遠くに聞こえた。
私の下駄箱の中に入っていたのは、ゴミでも文でもなんでもなかった。

「っ……」

入っていたのは、虫や鳥などの生き物の死骸だった。

「伊賀崎っち、おはようッス!」
「……」
「…伊賀崎っち?どうかし、ッ!?……ちょ、何スかコレ…?!」

黄瀬がやって来て早々色々と私に話しかけていたがそんなどうでもいい事は耳に入ってこなかった。反対に、私の耳に入ってきたのは、

「一度飼ったものは最後まで面倒をみるのが人として当然!」

尊敬してやまない委員長代理の先輩の言葉だった。
面倒見がよくて、明るくて、いつも太陽のような笑顔を浮かべて、こんな私を優しく接して、見て下さったあの人。
泣きたくなったと同時に、怒りがこみ上げた。

「(現世の人間達は、こうも容易く己の私欲のために殺めるのか…?)」

手が震えた。黄瀬が私を心配そうにしているが、それを気にする余裕などない。
虫が、生き物が大好きだからこそ。
元生物委員だからこそ。
前世で他人の命を殺めた自分だからこそ。

バァン!!!!

『ッ!!?』
「…」

この行為は絶対に赦される事では無かった。

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